ヒンドゥー教徒が牛を“神”とするのはいいが、牛肉殺人はダメだ

 

つい先日、神奈川県・厚木市にある食肉処理場に向かう途中、体重およそ700キロの牛さんが逃走した。
走行中のトラックから飛び出したわけではなくて、別のトラックに移される際に逃げ出したという。
生き延びるためにはこれしかないし、「怖えーよー!」と叫びたいのはこの牛だったはず。

 

 

牛が街を歩くと全国ニュースになるのが日本という国。
地球上でその反対側にあるのはインドで、かの国では野良牛が街中を徘徊(はいいかい)していることは日常茶飯事だ。

これはヒンドゥー教で牛が「お牛様」のように神格化されてるから。
ウィキペディアのヒンドゥー教・聖牛崇拝によると、ヒンドゥー神学において牛の神聖性は輪廻と結びついている。
その最高位にいるのが人間で、その1つ前の段階が牛。
牛を殺すことは罪深い行為で、輪廻の最下層からまたやり直さないといけないという考え方がある。
(ヒンドゥー教で輪廻は上下87段の階梯構造になっているらしい)

 

上の神がシヴァ
これはインド人の結婚式のもの

 

インド人のヒンドゥー教徒に牛を「聖獣」とする理由をたずねると、最高神シヴァの乗り物はナンディンという牛だからと言う人もいるし、牛が一つの神ではなくてその部位ごとに神が宿るから、と答えた人もいる。

そんなヒンドゥー教の考え方を示した「84柱の神格を持つ牛」という図がこれ。

 

 

こんなわけで牛はインドで聖獣や神のような扱いを受けているから、行動の自由は広く認められていて街中を好き勝手に散歩することができるのだ。
ただ立ち入りが禁止されている区域もあるから、お牛様ならインドの全国どこでもフリーバスというわけでもない。
ヒンドゥー教の聖地ヴァラナシでは、もはや住民のように歩き回っていた。

 

 

 

車の横をラクダの群れが通り過ぎるのがインドの日常

 

神さまの乗り物だから、または体の各部位に神が宿るからと、牛を神聖視するのはヒンドゥー教徒にとっての話でイスラム教徒には関係ない。
だから牛を殺してその肉を食べるムスリムもいる。
するとインドではこんな事件が起きてしまう。

英BBCニュース(2015年9月30日)

牛肉を食べていた? インドで男性リンチ殺害

北部のウッタルプラデシュ州で6年前、牛を殺し牛肉を保存して、ひそかに食べているというウワサが流れてその家が襲撃された。
家の娘によると100人以上の村人が夜、家の前に集まって「牛肉を保存している」と責め立て、50代の父親を外にひきずり出してレンガで殴りつけた。
集団リンチを受けて男性は死亡し、22歳の息子も重傷を負って入院する。

殺害された男性は「モハマド」という名前だからイスラム教徒で間違いない。
家族の話では自宅にあったのは牛肉ではなく羊肉だったのに、近くのヒンドゥー寺院が「あの家の人間は牛肉を食べた」と言ったことから、こんな襲撃事件になったようだ。

インドでは11の州と2つの直轄領で、牛の殺害や肉の販売や消費が法律で禁止されている。つまり全土ではなくて、牛肉を食べていいところもある。
でも全体的に牛肉は忌避されているから、それをめぐって殺人事件が何度も起きている。

4年前にも、牛を運んでいたイスラム教徒がヒンドゥー教徒から集団暴行を受けて死亡した。

AFPの記事(2017年8月28日)

牛運んでいたイスラム教徒2人、リンチされ死亡 インド

となるとインドでは牛が逃走するのは問題ナシで、食肉処理場へ運んでいた人間が問題視されて襲われるという展開になるかもしれない。
文化圏が違うとそういうことも起こり得る。

 

 

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2 件のコメント

  • > 牛が一つの神ではなくてその部位ごとに神が宿るから、と答えた人もいる。
    > そんなヒンドゥー教の考え方を示した「84柱の神格を持つ牛」という図がこれ。

    すみません、この図ですが、牛肉の各部位の名称(ロースとか、ヒレとか)を示す図に見えちゃいました。神様だったんですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。