日本の正月に欠かせないのが「お屠蘇」。
新年にこれを飲むことで、これから一年の邪気を払ったり長寿を願う。
そんなおめでたい風習は、いまでは日本の文化として海外でも紹介されている。
それにしても、「屠蘇」って漢字はどこかおかしいような。
殺す、倒すを意味する「屠(ほふ)る」と「蘇(よみがえ)る」の矛盾した意味の漢字が並んでいるのはどういうワケなのか?
この由来はハッキリしてないけれど、悪鬼を屠(ほふ)る、屠った悪鬼の魂を蘇生させる、屠は邪気払いで蘇は心身を目覚めさせるという意味だ、など諸説ある。
でも、この言葉が中国から伝わったことは間違いない。
屠蘇とは「三国志」にも出てくる伝説的名医の華佗が開発した漢方の入った薬酒で、日本には平安時代に伝わったという。
いくつかの薬草を混ぜ合わせてつくった、「屠蘇散」(とそさん)という薬を浸したお酒やみりんがお屠蘇。
これは風邪の予防に効く5種類の生薬(山椒、白朮、防風、桔梗、桂皮)を組み合わせたもので、身体を温めたり胃腸の働きを助けてくれるから、正月に飲むにはピッタリだと武田薬品工業のHPにある。
古代の中国にあった正月にこの酒を飲む風習は、現代では消失している。
例外的にこれをやってる人もいるかもしれないが、日本のような一般的な風習ではないから、現存する中国文化というのはむずかしい。
知り合いの中国人に聞いても「お屠蘇」なんて初耳で、漢字を見ても意味が分からなかった。
ネットを見たら「屠蘇酒」というお酒を販売しているから、いまでもこれを飲む中国人はいるけど、正月に飲む文化はもうなくなっただろうと言う。
ある日本人が正月に飲んだお屠蘇の写真をSNSにアップしたところ、それを見て興味を持った中国人からいろいろ質問されて、「あの、これは中国の文化です」と言うと「えっ?」と驚かれた。
お屠蘇の容器がキレイで日本っぽいから、その中国人さんは関心を持ったらしい。
そんなお屠蘇について、中国人と中国にくわしい日本人に聞いてみて、返ってきたコメントがこちら。
・今ないけど、昔の詩の中で「爆竹聲中一歲除 春風送暖入屠蘇」という文句も残ってる。宋代にはそんな習慣もあった。
*これは王安石の作品で「爆竹が鳴り響く中で一年が終わり、春風が暖かさを屠蘇に吹き込んでくる」という意味の正月らしい詩。
・邪気よけ、健康を祈り、縁起の良いものです。「屠蘇酒」より今は「姜汁可乐」ですね。
*「姜汁可乐」はショウガ入りのコーラ。
・あるはあるけど、年配の人しか飲まないでしょう。それに正月の文化でもない。
・中国人留学生でも知っている人はいます。年下から飲むのは古代中国の習慣だと言っていました。
・台湾でお屠蘇はなかったと思います。シンガポールにもお屠蘇の習慣はありません。
なかには中学時代のクラスメイトで、「屠 苏卿」(屠苏=屠蘇)という女の子がいたとコメントする人もいた。
肉屋で働く人に「屠」の姓を持つ人がいるらしい。
ちょうど今年の正月、1月2日にNHKで放送された『チコちゃんに叱られる!』でなお屠蘇を取り上げていたから、その内容を簡単に紹介しよう。
・「邪気を屠り、命を蘇らせる」というお屠蘇は、中国では不老不死の薬酒といった意味合いがある。
・中国から伝わったお屠蘇は平安時代に宮中の正月行事となり、貴族や武家などの間に広まった。その後、京都を中心に近畿地方の庶民にも浸透していく。
・日本では中国から伝わるまえから、正月にお神酒(神に捧げる米でつくられた酒)を飲む風習があった。これと中国のお屠蘇が融合して、日本のお屠蘇文化が生まれたかもしれない。
いまの日本人が正月に飲むお屠蘇はただの日本酒がほとんどで、「屠蘇散」を浸した薬酒を飲む人はきっとマレ。
昔の日本人がそれまで飲んでいたお神酒に、中国由来の「お屠蘇」という名前を付けたという可能性は高いと思う。
ということで、お屠蘇は日中の要素が入り混じった日本の文化だ。
中国文化の日本文化への影響②日本風にアレンジした5つの具体例。
コメントを残す