終わっても終わりにならないこと、終了と同時に始まることが世の中にはある。
第二次世界大戦中、ナチス=ドイツが行ったユダヤ人虐殺もその一つでこの罪に時効はない。
600万人ものユダヤ人を殺害したホロコースト自体は、1945年に連合軍が収容所を解放し、ナチスを崩壊させて終わらせた。
すると今度はユダヤ人のターンだ。
国の内外へ逃げた虐殺の責任者を見つけて捕らえて、犯した罪を裁く活動が始まった。
その象徴的な人物に南米へ逃亡して、身を隠して生活していたアイヒマンがいる。
戦後、死んだと思われていたアイヒマンが実はアルゼンチンで生きていると分かり、1960年にイスラエル諜報特務庁 (モサド) に捕まってイスラエルへ連行。
1961年に人道に対する罪や戦争犯罪の責任などで有罪判決を受け、アイヒマンはその翌年に処刑された。
「ユダヤ人はドイツ国民の永遠の敵であり、殲滅(せんめつ)し尽くさねばならない。」
そう言って実行した人間がそれなりの報いを受けるのは当然。(足りないけど)
ホロコーストには時効と許しがないのだ。
ヒトラーやアイヒマンの反対側にいるのが、アンネ・フランクというユダヤ人の少女だ。
1944年8月4日の朝、オランダに隠れ住んでいたフランク家はナチスに見つかる。
「きっと世のなかのため、人類のために働いてみせます」と言っていたアンネは、強制収容所へ送られて15年の生涯を終えた。
そのあと見つかった日記によって、アンネはホロコースト被害者のシンボルとなる。
ナチスが崩壊したのは見つかった翌年だから、あと少し隠れ家にいることができたら、アンネと家族は無事に解放されて幸せな人生を送ることができたはず。
この悲劇は完全に過去になって、もう変えることは一切できないとしても疑問は残る。
アンネの家族を「売った」のは一体だれなのか?
この裏切り者の正体がやっと判明したらしい。
時事通信(2022年01月17日)
アンネ裏切りの密告者、特定か 元FBI捜査官ら―オランダ
アメリカのFBI(連邦捜査局)の元捜査官らが率いる調査チームが当時の資料をデータベース化し、マイクロソフトが開発したAIで解析して数年にわたり調査を続けた結果、ついにその可能性の高い人物を特定したという。
それはユダヤ人で、70年以上も前にこの世を去っている。
密告者を特定してもアンネ・フランクがよみがえるワケでもないし、これをアンネが望んだかどうかも分からない。ホロコーストの事実や内容が変わることもない。
でも欧米社会を中心に戦後ずっと、「この人物Xは一体誰なのか?」に大きな関心があったから、いまでもこんなチームが結成されて世界的なニュースになる。
ホロコーストやユダヤ人迫害など、ナチスが犯した罪の追及については「ジ・エンド」がない。
一方、日本ではホロコーストへの関心は薄い。
知識もあまりないから、思わぬ死角になる。
2016年には欅坂46がハロウィン・ライブに合わせた特別な衣装を着て登場すると、SNSでは「ナチス親衛隊の制服にそっくり!」という指摘があがった。
すぐ海外メディアに報道されて世界レベルのニュースになり、ユダヤ人団体から抗議がきて万事休す。
運営側は謝罪して、その衣装は二度と使わないと約束する。
『しまむら』もナチスのタブーに触れて失敗した。
日本人が犯した「ナチスの失敗」。しまむら・欅坂46・Jリーグ
最近では昨年末に「マーレの腕章」が問題になった。
朝日新聞(2021年11月15日)
「進撃の巨人」マーレの腕章、販売中止に 「ナチス想起」批判で謝罪
講談社も参加した製作委員会が関連グッズの「マーレの腕章」を販売を始めたところ、「腕章はナチスドイツによるユダヤ人迫害を想起させる」といった批判が浮上し、「配慮を欠いた行為であった」と製作委員会は謝罪してグッズ販売を中止。
上の事例ではそれぞれ公開される前に、複数の人間がチェックしているはずなのに、ナチスに関しては知識がないか認識が甘かったからこんな失敗になる。
この手の謝罪&撤去というパターンが日本では昔からなくならない。
日本にはユダヤ人を迫害した歴史はないから、伝統的に「反ユダヤ主義」はなかったし、ナチスのホロコーストには一切加担していなかったからどうしても関心は低くなる。
杉原千畝や樋口季一郎のようにユダヤ人を守った人がいた日本は、ナチス=ドイツと政治的な同盟関係を結んでいても、ナチス迫害には距離を置いていた。
これはこれで名誉なことだけど、何かを行う時に見落としやすくなる。
ホロコーストという人道に対する罪には時効がないし、いまでも厳しく追求されている。
ネットに国境はないから、何か問題があればすぐ海外へ伝わって問題化しまうし、この件で「内政干渉だ!」は通じない。
昨年の東京五輪では開閉会式の演出担当者が過去にしたコントで、ホロコーストをやゆしたことが発覚して直前で辞任した。これは「様子を見て」ではなくて、一発アウト。
ナチスに関する「やらかし」は取り返しのつかない重大事なのに、日本の歴史教育での扱いは小さいと思う。
日本人も’挙手’に注意!ナチス敬礼で中国人観光客がドイツで逮捕。
「アンネ・フランクの所在をナチスに密告したユダヤ人の裏切り者」を大勢の容疑者の中から特定したのが元FBIのオランダ人(ドイツ人と同じくゲルマン系民族)であるというのも、なかなか微妙な、ややこしい裏側のありそうなニュースですね。おそらく、ユダヤ人の側にも、ドイツ人の側にも、このニュースの受け止め方は色々あるでしょう。
日本人が首を突っ込むのはとても無理、コメントは避けるのが無難です。そのように判断できるためにも、より教育が必要ですね。