まずはクイズから。
世界で一番長い名前の首都を持つ国はどこで、その首都名はなに?
答えはスリランカで、首都の名前は「スリジャヤワルダナプラコッテ」という。
ではなくて、その国はタイで世界最長の首都はバンコク。
それでも間違いじゃないけど、正しくもない。
日本人は「ニホン」、外国人は「ジャパン」と言うのに似ていて、「バンコク」は外国人が使う首都の呼称でタイ人は「クルンテープ」と言うのだ。
ギネスブックに「世界で最も長い地名」として認められた正式名称がこれ。
「クルンテープ・マハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロック・ポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシット」
もう高位魔法の詠唱や魔人を召喚できるレベル。
あまりに長すぎるから、タイ人は日常生活の場面で「クルンテープ」(かクルンテープ・マハーナコーン)と言っている。
外国人用と国内用の2種類の呼称があっても、ニホンとジャパンみたいなもので特に混乱は生まれない、タイ政府がこんなことを言い出さない限りは。
スポニチアネックス(2022年2月18日)
タイの首都名表記はバンコクではなくクルンテープ・マハナコーン? 政府見解に市民が困惑
今月15日の閣議でタイ政府は、バンコクの英語での正式表記を「Krung Thep Maha Nakhon;Bangkok」から、「Krung Thep Maha Nakhon;(Bangkok)」へ変更すると決めた。
それまではクルンテープ・マハーナコーンとバンコクが「同等」だったのに、今回 Bangkok は( )に入れられたから、「クルンテープ・マハナコーンだけが正式表記になるのでは?」、「バンコクという首都名は消えてしまうのか?」といった噂が広まって市民の間では困惑が広がっているという。
でも、日本のネット民には他人事でしかない。
・万国が混乱するな
・長いわ
・そんなややこしい名前だったのかアレ
・後の「ハマーン・カーン」である。
・円周率と同じくらい覚えにくい
・長いのでクルクルコーンならいい
そう言えばバンコクの主要駅で外国人が「ファランポーン」と呼ぶ駅も、正式名称は「クルンテープ(駅)」でタイ人はこっちを使ってたっけ。
世界一長い首都名だと、それだけで歌ができてしまうのだ。
「山岡家」なみにクセになりそうな歌
この首都名を日本語にするとこんな感じだ。
イン神(インドラ、帝釈天)がウィッサヌカム神(ヴィシュヴァカルマン神)に命じておつくりになった、神が権化としてお住みになる、多くの大宮殿を持ち、九宝のように楽しい王の都、最高・偉大な地、イン神の戦争のない平和な、イン神の不滅の宝石のような、天使の大都。
*ヴィシュヴァカルマンとはヒンドゥー教の「建築神」で、カンボジアのアンコールワットをつくったのもこの神という伝説がある。
これを省略してタイ人は「クルンテープ(マハーナコーン)」という。
クルンテープは「天使の都」の意味で、マハーは「偉大な」でナコーンは「都市」、「マハーナコーン」は「偉大な都市(大都市)」になる。
タイ語の「マハー」は古代インドのサンスクリット語を語源にしている。
ヒンドゥー教の聖典「マハーバーラタ」、大王の「マハラジャ」、「マハトマ(偉大なる魂)・ガンディー」のマハと由来は同じ。
ちなみに、日本語の「摩訶不思議」の「摩訶(まか)」の語源もこれだ。
さらにちなんじゃうと、サンスクリット語の「ナガラ(nagara:都市)」がタイ語のナコーンになって、カンボジアではアンコールになったのだ(たしか)。
いまのクルンテープの歴史は1782年4月21日午前6時45分、ラックムアンという柱が建てられたことで始まった。
星占いによって、都市建設を始めるのに最もふさわしい日にちと時間がこう決まったから、まさにその瞬間、地面にラックムアン(市の柱)を建立し、あとから王宮などをつくっていったのだ。
では、バンコクとはどういう意味なのか?
バン(バーン)は「村」で、コークとはマコークという植物のこと。
数百年前のアユタヤ王朝時代、ヨーロッパ人が船で南からチャオプラヤ川に入り、北上してきて現在のバンコクの辺りの地名をタイ人にたずねたところ、「マコークのある村(水村)」の意味で「バーンマコーク」と言ったのがなまって、 「バーンコーク(バンコク)」としてヨーロッパ人に定着する。
それでタイ以外の世界では「バンコク」が広がっていった、という話をタイ人の日本語ガイドから聞いた。
マコークについては「タイの首都の木」に詳しい説明がある。
専門書によるとアユタヤ時代、いまのバンコクには要塞があって、首都アユタヤを目指して進む外国船の関門になっていたから、ヨーロッパ人にはよく知られた場所だった。
この地の俗称がバンコク(バーンコーク)、すなわりコーク(アムラタマゴノキ)の生える村であったことから、アユッタヤーを訪れる外国人たちにはバンコクの名で知られていた。
「物語 タイの歴史 (中公新書) 柿崎一郎」
クルンテープができる1782年よりも前から、外国人の間でこの地は「バンコク」として有名でそのまま現在にいたる。
神にも等しい国王のいる首都名は「バンコク(マコークの生える村)」よりも、「クルンテープ(天使の都)」の方が良いに決まってる。
日本語でいうなら、より優雅に美しく表現する「雅語」の感覚に近い。
平安時代の古典でみられる「伝統的で雅(みやび)かな言葉」が雅語で、具体的には夜を「さよ」、過去を「いにしえ」、永遠を「とわ」、誘うを「いざなう」と表現した。
昔の日本人の感覚ではこうすると格調が高くなって、その場にふさわしい言葉になる。
タイ人もこんな雅語的な発想(と神に都市を守ってもらう魔術的発想)から、最高に上品で雅(みやび)で、縁起の良い「クルンテープ・マハーナコーン~」が首都名にふさわしいと考えたのだろう。
もちろん外国人がバンコクではなくて、こっちを使うのもアリ。
タイ人との会話の中で「クルンテープ」を含ませると、「それを知ってるのか!」と驚かれたり喜ばれたりして、好意的な反応が返ってくることが多い。
インドラ神の不滅の宝石にして天使の都・クルンテープの様子。
ここに見える川がチャオプラヤ川だ。
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