韓国の首都ソウルで記録的な大雨が降った。
…ということだけなら日本でも起こるし、それなりの被害も発生する。
でも、今回ソウルを襲った雨は空前絶後のレベルで、映画のシーンのような現実離れした世界が広がった。
*2分55秒から秒の「半地下」を見てほしい。
現時点でもう10人以上が亡くなったこの大雨で、改めて「半地下」という韓国独自の居住空間に注目が集まった。
完全な地下室ではなくて、文字どおり建築物の半分が地下にある物件を韓国ではこう呼んでいる。
1970年の朴正熙(パク・チョンヒ)政権の時に国家非常事態を想定し、バンカー(防空壕)として地下室を設置することが決められた。
そのあと1980年代に、政府がこの空間を賃貸物件として貸し出すことを認めたことで、低所得者が住むようになり、映画『パラサイト』で韓国の格差社会を象徴する空間として海外でも有名になる。
日本にはない居住空間で分かりづらいから、これを理解するには映像を見てもらうのが早い。
下の動画では最初に、外で人がまく殺虫剤をあえて取り入れる場面が出てくる。
太陽光があまり届かない「半地下」では湿気が多くて換気ができないから、いろんな害虫が発生する。だから窓は閉めずに、住民は殺虫剤を室内に入れて虫を殺そうとしているのだ。
上の男性は1人だからまだいいとして、家族で半地下に住んでいると大変だ。
今回の豪雨ではそこに水が流れ込んできて、逃げることのできなかった小学生の女児と母親、それと伯母が溺死したことが分かって、いま韓国民が大きなショックを受けている。
朝鮮日報(2022/08/10)
半地下の家族3人、避難できず死亡…現実は映画『パラサイト』より過酷だった /ソウル
中央日報(2022.08.10)
「お母さん、ドアが開かない」これが最後だった…韓国半地下部屋の悲劇
母親が水が迫っていることに気付いた時には、水圧のため、もう家の中からドアを開けられない状況だったという。
室内に水がたまっていき、どうすることもできずに家族3人が溺死したと思うとあまりに悲しい。
ニューヨーク・タイムズやロイター通信など海外の主要メディアも「半地下の悲劇」を集中的に報じた。
朝鮮日報によると半地下部屋には、「ソウル在住の全世帯では100世帯に6世帯が暮らしている」ということだから、16~17世帯に1世帯と考えるとそう珍しくもない。
今回の悲劇を受けて韓国政府はこれから、「半地下」に根本的な対策をしていくという。
でもまずは、ソウルの異常な物価高や住宅事情を変えないと。
「半地下」がなくなると困る人もいるのだから。
ボクが韓国の「半地下」を初めて知ったのはこの報道でも、映画『パラサイト』でもなくて、知人のアメリカ人からの情報だ。
彼女は日本に3年ほど住んでいて、いまはソウルの小学校で英語を教えている。
まえにスカイプで話をしていた時、日本との違いをたずねるとそのアメリカ人はこんなことを言う。
「それは格差!韓国は格差社会で、日本とは比較にならないほど金持ちと貧しい人、教育を受けた人とそうではない人の差が大きい。職業でその人の“価値”を判断する傾向が強いことも日本と違う。」
韓国社会にある格差の象徴として彼女が「半地下」を持ち出したから、ボクも初めてその存在を知った。
そのアメリカ人からみると、韓国には「上にはい上がってやる!」という向上心や野心の強い人が多くて、日本人は全体的に競争を嫌い、穏やかでおとなしい。
それと経験的に、英語を話せる人も韓国のほうが多いという。
彼女の出身地であるニューヨークも格差社会で、貧しい人たちの住むブロックがあり、そこに行けば雰囲気が違うからすぐにピンとくるらしい。
それでも「半地下」を知った時は、彼女も大きな衝撃を受けた。
とはえいえ、それも悪いことだけではない。
ソウルには人もチャンスも集中しているから、半地下住居についても「貧困」というネガティブな面と同時に、お金はないけどハングリー精神に満ちた若者には、将来の可能性を提供しているというポジティブな印象を彼女は持っていた。
韓国は「ソウルとそれ以外」の2つに分けられるほど、ソウルは特別なところらしい。ここまでの都市格差も日本にはなさそう。
ただこのアメリカ人はソウル以外のことはあまり分からないから、これは韓国の平均的な姿ではなくて、ソウルに限定した話と考えたほうがいい。
そんな彼女の話と今回の悲劇を重ねると「半地下」に代表される格差は、たしかに日本と韓国の大きな違いだと思う。
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