数年前、東ヨーロッパから来たリトアニア人(20代の男女)と夏の京都を旅行した。
その時2人が驚いたことは盆地・京都の蒸し暑さ。
山を越えた空気が降りてくると高温の風(フェーン)が吹いて、その先の地域の気温が上昇することを「フェーン現象」という。
フェーン現象に加えて、周囲を山で囲まれている京都には空気がこもってしまうから、それを上から太陽が熱すると、日本人でさえ音を上げるほどほど暑くなる。
冬はいいのだよ。寒さなら何とでもなる。
でも、暑い時期に悪い住居にいるのは耐えられない。だから家をつくるときは、夏の暑さをむね(中心)に考えるべきだ。
鎌倉時代に吉田兼好が京都で書いた『徒然草』にそんな文章がある。
「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。」
そんな熱地獄の反対側にあるのがリトアニア。
緯度が高くてロシアの隣にあるリトアニアは冷涼な国で、首都ヴィリニュスでは1年で最も暑い7月でも平均気温は 17度しかない。
平均最高気温は 23°Cで最低気温は 13°Cと、日本人の感覚だと春か秋だからリトアニアに夏は無い。
その代わり冬は極寒で1月の平均気温は-4℃と、温暖な気候で育った静岡県民なら軽く死ねる。
だから、リトアニア人が京都歩きを「サウナの中を歩いてるみたい」と力なく言うのも当然かと。
フェーン現象
「ところで、日本の祭が見たいんだが?」とこのとき一緒にいたドイツ人が言うから、ネットで調べると北野天満宮で「御手洗祭」をしていることが発覚。
境内にある川に入って清らかな水で邪気を祓い、ろうそくに火をつけるこの神事はさいっこーに清涼感にあふれている。
外国人に夏の京都を案内するなら、ぜひ体験させてやってほしい。
リトアニア人はこれが気に入り過ぎて、なかなか川から出てこなくてカッパ(川の住民)になりそうだった。
北野天満宮でリフレッシュした後、前を歩くリトアニア人女性が急に足を止めた。
菅原公の怨霊でも見たのかな? と思ったら、「ねえ、これはなに?」と足元を指さす。
見るとアブラゼミが落ちていて、ひっくり返ってお腹を見せている。
すでにお亡くなりになったようだ。
そのセミは天に召されたことを伝えると、彼女は悲しそうな顔をして「RIP」とつぶやいた。
*Rest in peace(ご冥福をお祈りします)
…ということはなく、いままでこんな昆虫を見たことなかった彼女はもっとよく見ようと、腰をかがめた瞬間、セミが急に復活して飛び出した。
映画やドラマではなくて、ヨーロッパ人女性の「ぎゃあ~!」というリアルな悲鳴を聞いたのはこの時が初めてだ。
それと、尻もちをつきそうなほど驚く光景も。
死んでると思ったセミが突然動き出す。
このビックリ現象をネットでは「セミ爆弾」とか「セミファイナル」と呼ぶ人もいる。
冷涼な気候のせいだろうけど、リトアニアにセミはいないらしい。
だから彼女は「うっわナニこれ。気持ちワル~」と思い、日本の変な虫を家族や友人とシェアしようと、スマホで写真を撮るために近づいたら「セミファイナル」をくらった。
その後、日本旅行を終えて母国に戻った彼女と話をしていて、日本で一番印象的なことを聞いたら、それは京都で体験したあのセミ爆弾だった。
(もちろんリトアニア人が”セミボンバー”と言ったわけではない)
あの不意打ちには日本人だって驚かされる。
生まれて初めてセミを見て、死骸がいきなり動き出したとしたら、心臓が止まるほどのショックをリトアニア人が感じるのもやむなし。
「街がとてもキレイ」といったこととは違って、あれには恐怖も付随するから、インパクトとしては最高レベルだったというのも納得。
ゴキブリが飛ぶのを見た日本人の数倍の衝撃だったと思われる。
リトアニアには無い「セミ爆弾」や「セミファイナル」も、日本も9月に入ったからそろそろ終わりだ。
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