「意味ある?」 タイ人が京都・竜安寺で感じた2つの違和感

 

きょねん発表された都道府県魅力度ランキングで44位になってしまい、「法的措置も検討する!」と知事が激怒した群馬に朗報だ。
ここにはタイ人を引き付ける要素があるという。
「初めてとは思えない自然環境だから?」と思ったら、理由は仏教だった。

毎日新聞(2022/08/12)

「タイ人に群馬は魅力的」 仏教徒多く、だるま作りなどに関心

日本の新しい見どころを探しにタイの旅行会社の関係者6人がやってきて、群馬県内の観光地を視察したところ、高崎市の白衣大観音やだるま作りなどを見て、「仏教徒の多いタイ人旅行者にとって魅力的」だと語る。
日本へ旅行に行きたいと思うタイ人はとても多い。
関係者の1人は、「群馬は自然がきれいで仏教や伝統を体験できる場所も多くある」と話しているから、いろんな意味で群馬とタイ人はマリアージュ(良い組み合わせ)のようだ。

 

日本人とタイ人には仏教という共通点がある。
でもその深さと篤さはまったく違う。
以前タイを旅行していてタクシーを利用した際、信号待ちをしていたタクシードライバーが斜めを向いて手を合わせて頭を下げる。
ワケをたずねたら、

「2年前、子供が道路に飛び出して、それを避けようとしてあの壁にぶつかったドライバーがいたんです。わたしの同期でね。彼には同じ年ごろの子供がいたから、思わずハンドルを切ったのでしょう。そんなヤツですよ。」

そう言うと信号が青に変わり、ドライバーは前を向いてアクセルを踏む。
…ということは特になくて、赤信号で止まったら、たまたまお寺が視界に入ったからリモートお参りをしただけのこと。
お坊さんに食事を提供したり、こうしたちょっとした善行を積み上げていくことで(タンブン)、タイ人はより良い来世にいくことができると考えている。
だから、信号待ちのわずかな時間も見逃さない。
今回はつくり話だけど、事故で亡くなった霊にお供え物をすることもタンブンになる。

 

10年ほどまえ、そんな国からやって来た20代の男性と京都旅行をした。
京都でもディズニーランドでも魅力満載のところでは、限られた時間でまわるには「取捨選択」が必要になる。
タイ人の彼は仏教徒だし、エリザベス女王が称賛した石庭のある龍安寺ならきっと外れることはない。
ということで彼をそこへ連れて行き、世界的に有名な枯山水に案内して、

「ここには全部で15の石がある。でも、どこから見ても必ず1つの石は隠れてしまって、一度に14しか見ることができない。」

という龍安寺の定番のネタを披露すると、「それはどうかな?」と彼は早速それにチャレンジする。
*石のごく一部を含めていいなら、15の石を同時に見ることは可能。だから、「~とよく言われているけど実は~」とマウントを取れないこともない。

素晴らしい枯山水にそんな遊びの要素もあって、彼は龍安寺をとても気に入った。
中を一周して出口に向かうと、「ちょっと待ってください。」と彼が呼び止める。
もう、“15に挑戦”なんてしてる余裕なんてないゾ。
「仏像に手を合わせたいです。でも、どこにも見つかりませんでした。」と彼から言われて、ボクも初めてそれに気がついた。
それで周囲をよ~く見ながらまた一周しても、仏像はどこにも見つからない。
理由は知らんが、無いものはナイ。
「こまけぇこたぁいいんだよ!! 」と次の場所に行こうとしたら、

「タイのお寺ではお坊さんに相談したり、仏像にお参りをします。でも、いままで行った京都のお寺ではお坊さんを1人も見なかったから、すごく違和感がありました。ここではそれに加えて、仏像もありません。」

と不思議を越えて、そのタイ人は不愉快そうに言う。
せっかくお金を払ってお寺へ入ったのに、タンブンすることはできなかった。
ボクとしては、シンプルで深くて美しい枯山水があればそれでいい。
観光客としてはそれでよくても、彼は仏教徒として納得できない。

 

最近たまたま、龍安寺の仏像(仏殿)は非公開になっていると知って、そんな話を思い出した。
禅宗のお寺では仏像に祈ることは必要ないという話を聞いたことがあるし、龍安寺にはそれなりの理由があって非公開にしているはず。

でも、大観音像やだるま作りに魅力を感じるタイ人だとそれではモノ足りないし、タンブンができないのならあまり意味は無い。
もはや仏教寺院とは思えないかも。
*龍安寺では外に仏像があるので、完全に無意味ではない。
それにしても、「必ず参拝をしてください」というお寺もあれば、本尊に手を合わせることができないお寺もあるし、日本の仏教は本当にバラエティー豊かだ。

そんな彼もこの石庭には称賛しかない。
「いいかげん動こうか」と言いたくなるほど、いろんな角度から写真を撮りまくっていた。
だからはじめから「ここでは枯山水、タンブンは別のところでプリーズ」と伝えて、彼を龍安寺に連れて来れば何の文句もなかった。
タイ人が大観音像にお参りしたり、だるま作りに魅力を感じる理由はそこに「タンブン要素」があるからだろう。
日本人とタイ人は同じ仏教徒でも、やっぱり違いは山盛りある。

 

 

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酒も肉もOKの日本仏教。タイ人が見た仏教徒との違い

日本とタイ(東南アジア)の仏教の違い① 飲酒・肉食・喜捨(タンブン)

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。