「てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!」といった怒りの感情は人類共通だとしても、その「スイッチ」は文化や社会の価値観によって違う。
ある国の人を激怒させる案件でも、別の国の人からしたら「なんでそんなに?」と、怒りのポイントすらよく分からないこともある。
アメリカ人と日本人を比べた場合、キーワードはやっぱり「人種」だ。
アメリカ社会では一度これに火がつくと、ただの炎上では終わらず、大規模なエクスプロージョン(爆発)につながることもある。
だから彼の国で発火性の高い「人種マター」は“触るなキケン”状態になっているのだけど、日本はそれほど敏感ではない。
というか同じ事案でも、反応がまったく違うこともあるから、これは日米の価値観・考え方の違いを表す良い指標になっている。
では早速、具体例をみてみよう。
日本が大好きで、日本文化の「スーパーファン」を自称するアメリカの歌手グウェン・ステファニーさんが10年ほど前に、「Harajuku Girls」という歌を発表した。
同時に、日本人と日系アメリカ人からなる4人組のバックダンサー「Harajuku Girls」をつくって、ステージやミュージック・ビデオで起用する。
そのハラジュクガールのダンスがこれで、アイコンの白人女性がグウェンさん。
伝統を保持しつつも未来的で、細部や規律に気を配る文化がとても魅力的で、そんな日本から影響を受けたと語るグウェンさん。
そんな日本観や日本要素を満載した「原宿ガールズ」について、彼女が白人だったことから、当時のアメリカでは「日本文化の盗用だ!」との批判が上がった。
そう聞いて、「たしかにそうだな。で、文化の盗用って?」となる日本人が続出すると思われる。
人種問題についてはおそらく世界一敏感肌なアメリカでは、白人がアジア人や黒人の文化アイテムを身につけたり利用すると、「文化の盗用」(Cultural appropriation) をしたとよく非難されるのだ。(もちろん、この場合の人種は入れ替わる。)
そして日本人にはこの行為を”悪”や”罪”とみなす感覚が無い、と言っていいほど薄い。というかむしろそれはご褒美で、そうされるとむしろ喜ぶ。
例えば、京都を旅行する外国人観光客がレンタルした浴衣や着物を着て、街を歩いたりお寺や神社で写真を撮っていたら、日本人ならそれを見てむしろ嬉しく思うだろうし、店員に土下座を要求するようなモンスタークレーマーでもきっとこれはスルーする。
日本人の価値観や文化コードからして、これには怒りの導火線に火がつかない。
でも、自分と違う文化圏の民族衣装を着る、ダンスを踊る、シンボル・言葉・音楽を利用すると「文化を盗んだ!」とみなされ、集中砲火を受けることがアメリカではある。
これに対しては「いやでも、それは文化交流では?」という日本人らしい発想が出てくると思われるが、あちらではこうした行為を対等な文化交流ではなくて、”一種の植民地主義”と理解する人もいるからめんどくさい。
cultural appropriation differs from acculturation, assimilation, or equal cultural exchange in that this appropriation is a form of colonialism.
アメリカ先住民の格好をする白人女性(1909年)
いまのアメリカで有名人がこれをしたら大炎上必至。
話を「Harajuku Girls」に戻そう。
最近インタビューを受けたグウェンさんは、このとき文化盗用の批判を受けたことについて、こう反論した。
「美しいもののファンであることや、それをシェアすることを批判されるのはおかしいと思う」
「他の文化からインスピレーションを受けてもいい。もしそれが許されないのなら、人々は分断されてしまう」
これだけなら、フムフムで終わったと思われる。
でもグウェンさんが以前、原宿へ行った時に「私は日本人だと思った」と発言したことで、また問題になった。
「ELLE」の記事(2023/1/11)
グウェン・ステファニーの「私は日本人」発言が物議を醸す 日本文化を賞賛したつもりが「盗用」と再び批判
「なんてこと。知らなかったけど、私は日本人だった」とたしかに言ってる。
アメリカ社会でこの問題発言は、ポリコレ的によろしくない。
でも、日本のネットでは「Harajuku Girls」も含めて、文化盗用の批判が理解できないという人がほとんどだ。
・コンプラうるさ過ぎ
・原宿は古い、時代は巣鴨
・キモノを着ると盗用とか言われてるけど
それじゃデニムで日本人がMVに出たら盗用か?
・日本も三国志や春秋時代で金儲けしてる
・日本人置いてけぼりのニュース
これは日本文化に関わることだから、あえて被害者をあげるとしたら、それは文化を”盗まれた”日本人だ。
でも、この案件は日本人の怒りポイントとズレているから、これで怒り出す人なんて想像できない。「一種の植民地主義」なんて理解できないだろう。
ただこれは、アメリカ人の価値観や文化コードに触れる国内問題だから、日本にいる日本人には実は関係のない。日本人は当事者ではないから、「日本人置いてけぼり」もアタリマエ。
もちろん、「コンプラうるさ過ぎ」という人もたくさんいて、知人のアメリカ人はみんな人種に対してここまで敏感肌な人にはウンザリしている。
ただ「郷に入っては郷に従え」は世界の常識だから、アメリカでは「Cultural appropriation」という超えてはいけない一線があることは知っておいていい。
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