島国の日本には、外国は遠い海の向こうにある。
でも、大陸にあるヨーロッパ諸国は国境が陸続きになっていて、歴史的にいろんな人が行き来していたから、日本とは文化の成り立ちが違う。
たとえばオーデコロンだ。
オーデコロンとは「eau(水)・de ・ Cologne(ケルン)」というフランス語で、そのまま「ケルンの水」という意味になる。
ドイツのケルンへ移住した香水職人のイタリア人、ヨハン・ファリナが1709年にこれを作った時、新天地であるケルンに敬意を示して新しい香水にその名をつけた。
そしてフランス人の活動によって、オーデコロンは世界的に有名な香水となる。
イタリア人がドイツで開発し、フランス語で知られているオーデコロンは一体どこの国の文化なのか?
知人のドイツ人に聞くと、「もちろんドイツだよ。だって名前が”ケルンの水”で、そこで生産されていたんだ(いまもそうかも)。だからあれは間違いなくドイツ文化だ」と胸を張る。
でも、フランス人やイタリア人に聞けばきっと「あれはウチの文化だ」と主張する。
サウスチャイナ・モーニング・ポストの記事では、オーデコロンの”本当の歴史”からすると、これはフランスやドイツではなく、イタリアの文化(ルーツ)としている。(25 May, 2020)
The real story of eau de cologne: neither French nor German, the perfume with roots in an Italian medicinal drink
日本では桜や茶道などの文化で、韓国と起源をめぐる論争が起こることはあっても、オーデコロンのようなややこしい文化はない。
島国と大陸の国では前提条件がまったく違うから、「いつ・どこで・だれが作った」という情報がハッキリしているのに、結局どこの国の文化になるのか分からないような複雑な文化アイテムはない。
と思った時期が俺にもありました…。
リトアニア人とベトナム人とインド人、それと中国人と一緒に出かけた時、「そういや最近、お寺で座禅体験をしたわ」とリトアニア人が体験談をする。
瞑想をすると心が落ち着いたり、クリエイティブな発想が出てきたりするから、アメリカやヨーロッパではとても人気があるという話をしたまではよかったが、彼は禅を「日本の文化」と言った。
それに中国人が食いついて、
「いやいやちょっと待ってくれ。禅は中国で始まった仏教で、日本人に教えたのも中国人なんだ。だから、それを日本文化と言うのは間違っている」
と言い出す。
「そうなんだ。ただそういう歴史があったとしても、禅は日本文化ってイメージがあるんだよ」とリトアニア人が話すとベトナム人も同意する。
次に「ちょっと待ってほしい」と言ったのがインド人。
禅を始めたのはインド人のダルマ(達磨)だから、それは中国文化ではなくインドに属すると彼は主張する。
ダルマは南インドで王子として生まれてきて、やがて仏教僧になって、仏教を伝えるために6世紀の中国へやってきた。
そこで悟りを開いたダルマは中国禅の始祖となる。
中国人にこのツッコミは予想外で、しかも言っている内容は正しいから、彼は「禅=中国文化」説を主張するのをもうあきらめた。
禅はどんな教えなのか、リトアニア人から聞かれても彼は答えられなかったから、そもそも大して知らなかったと思われる。
剣豪・宮本武蔵が描いたダルマ
ではここで禅の歴史を確認しておこう。
6世紀にダルマが”発見”し、人々に伝えた禅はその後の中国で発展していったが、14世紀の明王朝の時代から衰退していく。
あの中国人が禅の内容を知らなかったことには、これが原因にあったはずだ。
日本では、宋で禅宗を学んで帰国した栄西が源頼朝から土地をもらって、1195年に日本最古の禅寺といわれる聖福寺(しょうふくじ)を博多で建てる。
その後、中国人僧の蘭溪道隆(らんけい どうりゅう)が来日し、鎌倉に建長寺を建てるなどして日本に禅宗が広がっていき、室町時代には幕府の保護を受けて日本仏教の一つとしての地位を確立する。
中国と違って、日本では禅宗が衰退したことはなかった。(禅宗)
そして21世紀のいまでは「禅」という言葉は中国語でも、欧米では「Zen」という日本語で定着している。
英語版ウィキベテアの項目も「Zen」だ。
なんで西洋世界で日本の禅が浸透したのか?
まず中国の禅はすでに消滅とまではいかなくても、国内で影響力を失っていたから外国へ伝わるはずがない。
西洋で日本の禅が注目されるようになった重要なきっかけは、1893年に行われた世界宗教者会議へ出席するために、釈 宗演(しゃく そうえん)がシカゴを訪問したことだ。
宗演は福井県に生まれた臨済宗(禅宗)のお坊さんで、「ZEN(禅)」を欧米へ伝えたことで知られている。
the visit of Soyen Shaku, a Japanese Zen monk, to Chicago during the World Parliament of Religions in 1893 is often pointed to as an event that enhanced the profile of Zen in the Western world.
釈 宗演(1860年~1919年)
この後、日本人僧の鈴木大拙(だいせつ)が英語で禅を説明する本を出すと、それが大きな関心を集めたこともあって、現在の欧米で最も人気が高いのは日本の禅だという。
(Japanese Zen has gained the greatest popularity in the West.)
ということで禅はインド人が開祖となって中国で始まって、日本人が欧米へ伝えて世界的に有名になった。
この流れはイタリア人がドイツで開発し、フランス人が有名にしたオーデコロンと重ねる。
だから、創始者でいえば禅はインド文化になるし、場所でいえば中国文化、広めた人でいうなら日本文化になる。
どに部分に注目するかと、愛国心の強さによって帰属がきまってくる。
でもいま世界の人たちがイメージするのは中国禅ではなくて、日本で発展し日本人が伝えた禅で、インド人僧のダルマなんて知らないだろうから、「ZEN」はやっぱり日本文化と言ってヨシ。
外国人(アメリカ人とヨーロッパ人)との会話がで盛り上がる話題
コメントを残す