【死穢の禁忌】ヒンドゥー教と神道に共通する考え方

 

インドのジャイナ教では、生き物を殺すことが厳禁されている。
地面を掘ると、誤って小さな虫の命を奪ってしまう可能性があるから、ジャイナ教徒で農民は例外的に少なく、商人をしている人が多い。
虫を吸い込まないように、口にマスクのような布を当てて外を歩く信者もいる。

(見た目だけなら、花粉症対策でマスクをしている日本人と同じだ。欧米には、「マスク着用=重病人」のイメージがあるから、この光景を見てビックリする人も多い。)

ジャイナ教徒は死を「穢れ」のように考えているから、ジャイナ教の寺院に入る時は革製品を身に着けていてはいけない。
これはマスト。
でも、ある外国人がその禁を破って、革製のサイフをポケットに忍ばせて寺院に入ったら、中でそれがバレてしまった。
それで「神聖な寺院が穢れた!」と大騒ぎになったという話をこのまえ書いたのですよ。

日本にもあるジャイナ教 仏教との共通点・ド迷惑な外国人

 

皮製品で穢れてしまったというジャイナ教の寺院

 

生き物の命を尊重する考え方から、逆に、死を「穢れ」とみなす発想はヒンドゥー教にもある。
それで、インドを旅行中にヒンドゥー教の寺院に入る際、ガイドから「革製品の持ち込みは厳禁だからな。少しでも皮が使われている物はすべて外せ」と厳重注意を受けた。
この場合は、「押すなよ!押すなよ! 絶対に押すなよ!」(=押してください)というフリではない。
禁止を無視して、ヒンドゥー寺院に革製品を持ち込んだら、きっと恐ろしいことが起こる。

インドのヴァラナシに行った時、死体は「穢れ」とされているから、それを焼くのは「ドム」と呼ばれる特定の人だけと聞いた。
ドムの人たちの仕事は遺体を火葬することだから、彼らは日常的に死穢に触れている。
高位カーストの人間は彼らに触れると穢れてしまうと考えているから、それを避けている。
このため、歴史的にドムは「不可触民(アンタッチャブル)」のダリット・カーストに属している。

Historically, they were considered an untouchable caste called the Dalits and their traditional occupation was the disposal and cremation of dead bodies.

Dom (caste) 

ドム・カーストの人(1860年)

 

カースト差別は別として、死を穢れとする発想は日本にもある。

 

菅原道真の怨霊の化身とされる雷神が雷を落とし、貴族たちが逃げまどっている。

 

平安時代の930年に、醍醐天皇や多くの貴族がいた清涼殿で雷が落ちた。
この落雷で服が燃え、体が炎に包まれたり、顔を焼かれたりして3人以上の貴族が死亡し、現場は地獄絵図となる。
人々はこの出来事を、謀略によって無念の死をとげた菅原道真の怨念のしわざと考えた。
天皇のいる場所は日本で最も神聖な場所であるべきなのに、そこへ雷が落ち、死の穢れが発生したことで人々はパニック状態となる。

清涼殿にいて難を逃れた公卿たちは、負傷者の救護もさることながら、本来宮中から厳重に排除されなければならない死穢に直面し、遺体の搬出のため大混乱となった。

清涼殿落雷事件

 

死の穢れを避けるため、醍醐天皇はすぐに清涼殿を離れ、場所へ移動したが、体調を崩して3ヶ月後に亡くなった。
天皇が死穢に触れたことが原因と考えた人もいたはずだ。

古代の日本では、平城京に都が固定されるまで、天皇が亡くなるたびに都を移転していた。
こんなことをしたのは世界で日本だけらしい。
『逆説の日本史』シリーズの著者・井沢元彦氏は、天皇が亡くなることでその場所は縁起が悪くなり、「死の穢れからの回避」として一代ごとに遷都をくり返したと指摘する。

 

現在の清涼殿(京都御所)

 

現代の日本でも、神道で死は穢れとされている。
といっても、ジャイナ教やヒンドゥー教の寺院のように、神社に革のサイフやベルトの持ち込みが禁止されるほど厳しくはない。
でも、自分に近い人が亡くなって、四十九日の法要までの忌中(きちゅう)の期間は死の穢れのため、神社へ参拝してはいけないことになっている。
神々がいる神社において、聖域を穢すことはタブーだ。

欧米人やムスリムに尋ねてみても、キリスト教やイスラム教で教会やモスクが「穢れる」という話は聞いたことがない。
教会やモスクは重要なところだけど、神聖とは思わないと言う外国人もいた。
神道・ジャイナ教・ヒンドゥー教で「死穢の禁忌」の考え方はとても大事だけど、一神教の世界では馴染みがないのかもしれない。

 

 

仏教 目次

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イスラーム教 「目次」

ヒンドゥー教・カースト制度 「目次」

日本人の宗教観(神道・仏教)

日本はどんな国? 在日外国人から見たいろんな日本 「目次」

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。