慰安婦問題で、“真実”を話せない韓国社会の空気 

 

数年前、日本の会社で働いていた20代の韓国人男性と話をしていると、彼が「何でも聞いていいですよ」と言うから、日韓の重要な外交問題で、うかつに触れると危険な慰安婦問題について聞いてみた。

すると、まず意外だったのは、彼がこの問題に対して冷静というか、ほとんど関心がなかったこと。
これは韓国では、国民的な問題と思っていたのだけど。
もちろん、慰安婦のおばあさんたちに同情していて、この問題にすごく熱心な人も多いけど、自分のような若い韓国人では少ないと言う。
彼の考えでは、この問題は70年以上前の出来事で、今さら過去の歴史は変えられない。それに、日本が正しい歴史認識を示し、心から謝罪したとしても、自分たちには具体的なメリットがないから身近な問題に感じられない。
若い世代では慰安婦問題よりも、2019年に日本政府が行った対韓輸出の管理強化の方に高い関心があるらしい。
これは韓国経済に大きな影響を与えて、自分たちの生活に関わる問題だから。

 

彼は距離を置いて慰安婦問題を見ていて、感情的になることはなかったから、こちらとしては話しやすい。
この問題に対する日韓の認識はまったく違う。
韓国では、「朝鮮人女性は日本軍によって強制連行され、性奴隷にされた」と考えられていて、それを否定することは許されない。
でも、公文書などの確実な根拠がないから、日本はこの説を否定している。
だから、日韓は激しく対立してきた。

彼も「強制連行説」と「性奴隷説」を事実と信じていたけれど、日本が強く否定するには、それなりの理由があると思って調べてみた。
その結果、韓国側の主張の根拠は、ほとんど慰安婦だった女性の証言だけで、客観的で信頼できる証拠は見つからなかった。
しかも、女性たちの証言が変わっていて、どれが正しいのかよく分からない。
「強制連行説」と「性奴隷説」はどうも根拠が薄いように感じられ、彼は否定しないものの、疑問を感じるようになった。
韓国メディアは慰安婦問題について、日本の間違った歴史認識を正さないといけないとよくと主張し、韓国の通説を否定する人には「極右」のレッテルを貼る。
だから、こんな認識をしている韓国人と出会ったのはちょっと感動的だった。
しかも、彼の予想では、韓国にそんな人が実はたくさんいる。

 

一般の韓国人は、日本の主張をくわしく調べようとしない。
強制連行説と性奴隷説を絶対的な真実と考えていて、社会にはそれを否定させない雰囲気がある。
日本人は「空気を読む」ことがうまいけど、韓国人は思ったことをそのまま言うから、それが苦手な人が多い。
でも、日本との関係では、特に歴史問題については、まわりの空気を読んで慎重に発言する。
彼の場合、日本で働いているだけで、「おまえは親日(=裏切り者)だな」と言われやすいから、韓国の定説を否定することは不可能に近い。
デメリットしかないから、そんなことをするつもりは1ミリもないらしい。
だから、自分のように慰安婦問題について、韓国の主張に疑問を感じていても、黙っている韓国人はわりと多いのではないかと彼はみる。

実際に、朴裕河(パク・ユハ)教授はそれで地獄のような経験をした。
慰安婦問題について調べ、著書で強制連行説と性奴隷説を否定するようなことを書いたら、訴えられて裁判所から有罪判決を受け、世間からは「売国奴」とののしられ、給料も差し押さえられてしまった。
朴氏を擁護したら、今度は自分が攻撃対象にされるから、学者も記者も見て見ぬふりをしていたという。

【全体主義的暴力】韓国で慰安婦問題の定説を否定すると?

でも先日、韓国の最高裁が朴教授に無罪判決を言い渡し、朝鮮日報は「学問の自由が勝利した」と評価した。
朝日新聞も同じように、これを韓国の学問やの民主主義に関わる問題ととらえ、社説でこう書く。(2023年10月30日)

日本の官憲が少女を暴力的に連れ去ったという、韓国内での一面的なイメージに疑問を投げかけ(中略)これらをめぐる記述のいくつかは、韓国社会に浸透していた被害者像とは一致しなかった

「慰安婦」判決 学問の自由 守られた

 

2017年に、韓国の歴史家であるシム・ヨンファン氏が、慰安婦問題をテーマとした映画『鬼郷』について、半分以上が事実の歪曲と指摘した。
これは、韓国社会に浸透していた被害者像を否定する、汚すことになるから、「反歴史的、反人権的な詭弁」とシム氏は袋だたきにされる。
最終的には、「理由のいかんを問わず、おばあさんたちが傷付いたのだとしたらすべて私の過ちです」と公開謝罪に追い込まれた(鬼郷)。
歴史問題について、韓国社会の定説に疑問を投げかけるとこういう悲惨な目にあう。
ただ、シム氏は自分の主張は間違いと認めていない。

最近、このブログの韓国人の読者さんから、こんなコメントをもらった。

「韓国社会の全体主義的性向は言葉で表現できないほど深刻です。真実を知っていながらも「全体」が怖くて真実を言えない人が多数です。」

知人の話と合わせて考えると、韓国社会でも「強制連行説」と「性奴隷説」を否定しないまでも、疑っている人はやっぱり多いのかもしれない。
今回の判決によって社会の空気が変わり、思ったことを自由に言える雰囲気が出てくることを願う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。