ヒンドゥー教徒とガンジス川 神聖な理由・終わらない悲劇

 

もし、病院で医者から、「あなたの息子さんは末期がんで、残念ながら、もう打つ手がありません」と告げられたら、次にどうするだろう?

あるインド人の家族は、5歳の息子に対して医者からそう言われ、絶望的な気持ちになった。
しかし、家族はあきらめず、息子を連れてガンジス川へ向かった。
ヒンドゥー教では、神聖なガンジス川には常識を超えた力があり、その水はすべての罪を消して心身を浄化し、苦しみから解放してくれると信じられている。
(効果には個人差があります)

家族はガンジス川で息子を沐浴させれば、末期がんを治癒できると信じて、衰弱した5歳の子どもを抱いて川に入る。
叔母がその子に沐浴をさせている間、両親は神に祈り続けたという。
しかし、その様子を見ていた冷静な第三者が「あれはヤバい!」と思い、無理やり子どもを引き上げたが、時すでに遅し。
「この子は生き返る!」という家族の叫びもむなしく、男の子は亡くなった。

英紙「デイリーニュース」にそんな記事がある。( 25 January 2024)

Boy, five, with terminal cancer is drowned as his family forcibly submerge him in India’s Ganges river in bid to cure him

インで起きた悲劇に、日本のネットユーザーの反応は?

・いや殺人だよね
・ガン死す川
・インド人はゼロを発見したけどそこから進めなかった模様
・長く苦しむよりいいのかな 地獄の選択だわ
・完治ス川ではないことだけは確か

 

絶望的な状況でも、「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」と前を向く気持ちは人類に共通しているが、その後の行動は宗教や文化によって違う。
ヒンドゥー教徒にとって、ガンガー(ガンジス川)は最高に神聖な存在。
だから、熱心な信者なら、「それでもガンガーなら、ガンガーならきっと何とかしてくれる…!」と期待したり、「そこに行けば、どんな夢もかなうという」みたいな現実離れしたことを信じたりする人もいる。

 

ヴァラナシのガンジス川で沐浴をするヒンドゥー教徒のみなさん

 

ヒンドゥー教徒がガンジス川を神聖視する理由について、インドにはこんな神話がある。

はるか昔、天を流れていたガンジス川がある時、地上に下ろされることになった。
しかし、天の川の流れはおそろしく強力で、それが直撃したら、地球は破壊されるかもしれない。
そこで、ヒンドゥー教の最高神シヴァが「クッション」として、地上で川の水を受け止めることになった。
天の川はシヴァ神の頭上に落ち、その髪をつたって地上へ流れ、それがガンジス川になったという。

 

シヴァ神

 

ガンジス川は直接シヴァ神の体に触れているから、その水はヒンドゥー教で神聖視されていて、川そのものも女神ガンガーとして神聖化されている。
ヒンドゥー教の聖地ヴァラナシでは、ガンジス川で沐浴をするインド人が後を絶たない。
彼らは神聖な水をすくって額の上まで持ち上げ、神々や先祖に祈りの言葉を捧げた後、再び水をガンジス川へ戻す。
きれいな花や火のついたキャンドルを川に流す人もよくいる。

しかし、ガンジス川での沐浴には危険もある。
大腸菌が多く、水質汚染が深刻だから、沐浴すること自体オススメできない。
ヴァラナシでは現地に住むインド人から、時期によっては川の流れが速く、沐浴中に川に流されて亡くなった人がいると聞いた。
2023年には、ビハール州で10代の少年が沐浴中(体を洗っていただけかも)に、ワニに襲われ、川の中へ引きずり込まれて死亡する悲劇があった。
深い信仰が不幸な事故を引き起こす原因になることもある。
だから、ガンジス川での事故は無くならない。

 

ガンジス川が増水して、ワニが街なかを歩いている。

 

ガンジス川はもともと天を流れていたから、この川に遺灰を流すと、魂が天に昇ることができると信じるヒンドゥー教徒もいる。
自分の死後、そうされることを望むヒンドゥー教徒は多いから、ヴァラナシに行くと、火葬場でいくつもの煙が立ちのぼっているのが見える。
あの5歳の男の子も火葬された後、遺灰はガンジス川に流されたと思う。
次に生まれ変わったら、親ガチャに恵まれますように。

 

ガンジス川で行われる祈りの儀式

 

 

インド 目次 ①

インド 目次 ②

インド 目次 ③

【ヒンドゥー教と神道】もしインド人を神社へ連れて行ったら?

ヒンドゥー教徒が牛を“神”とするのはいいが、牛肉殺人はダメだ

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。