「インドへ行くと人生観が変わる。」
何度もそう聞いて、インドにはもう5回以上行っているけれど、特にそんな実感はない。「人生観が変わらなかったら、インドへ行ったと言えない」とあせったこともあったが、それでも変わらず、もう才能が無いと思ってあきらめた。
でも、やっぱりインドは「何でもアリ」の別世界で、日本の価値観や感覚がふっ飛ばされる経験は何度もした。
たとえば、ミネラルウオーターを買おうと商店に向かっていると、前から象が歩いてくるというのは、ボクにとっては完全にアニメの世界の出来事だ。
日本の常識からすると、異世界転生レベルのありえなさ。
地元の人たちにとっては、これは日常風景のひとつで常識の範囲内にある。
だから、インド人は象ではなく、「すげえ!」と興奮して何度も写真を撮るボクを見て笑う。ここではボクの行動が常識外れで、明らかに浮いていた。
日本人がインドへ行って価値観や考え方を揺り動かされるなら、インド人が日本へ来たら、同じことが起こるのでは?
ということで、今回は、日本の大学に留学していた20代のインド人男性の話を紹介しよう。
ちなみに、彼はインド南部のタミル・ナドゥ州の出身だ。
ーー日本に来て、「インドと違うな」って思ったのはどんなところ?
「来日してすぐに感じたことは、この国の人びとはルールをしっかり守って行動するってこと。だから、社会に秩序があって効率的なんだ。空港でも駅でも、エスカレーターで利用者はいつも一列にならんでいて、片側が空いていた。初めてあの光景を見た時はビックリしたし、感動的だったよ。」
ーーなるほど。
ボクがインド社会でカオスを感じたように、インド人の君は日本の社会にコスモス(秩序、調和)を感じたと。
「それは都市部だけじゃなかった。地方へ行っても、みんなが同じようにルールを守って行動していて秩序があった。電車の運行もとても時間に正確ですごいね。日本ではどこでも、乗客は共通して高い意識を持っていて、列を作ってならんで待ち、スムーズに乗り降りをしている。だから、効率的な運行ができるんだ。」
ーーボクにとっては、街中で象が歩いている光景が衝撃的だった。
でも、君にとっては、乗客が列に並んでいる、エスカレーターで片側を空けている、電車が1分単位で正確に走っている、といった光景が衝撃的だったってのか。
まぁ、お互い“普通”の基準が違うからね。
インドは基本的に暑い。
しかし、北部に行くとこんな雪景色が広がっている。
ーー日本の初めての印象は「秩序正しい社会」だったとして、実際に生活するようになってからは、どんなところに違いを感じた?
「基本的には第一印象と変わらない。むしろそれが深まった。日本では、誰もがルールやマナーを守って行動していることに何度も感心した。インドはその反対なんだ。ドライバーは信号や速度を守らないで、われ先に進もうとする。それが普通の感覚で、ルールを知っていても、みんなが破っているからら何も感じない。ぼくもインドにいたころ、バイクに乗っていた時はよくルールを無視したよ。」
ーーそこはドヤるところじゃないかな。
でも、インドと日本では、世界が逆転しているというのはわかる。
インドでタクシーに乗ってホテルへ向かっていた時、ドライバーが交差点を曲がって、逆走してホテルの前でとまったことがある。
(日本で言えば、車が右車線に突っ込むような危険行為)
客を乗せていても、平気であんなことをするとはね。
「インドでは平常運転だね。バスが信号無視をしたら、ちょっと驚くかな。」
ーー君としては、日本とインドの大きな違いは社会全体に秩序があるところだと。
ほかにそう感じた例はある?
「コンビニに行くと、並ぶ位置を知らせるために、床に足跡のマークが貼ってあるだろ? インドだと、街中にある店がそういう配慮をしたり、客がそのルールをきちんと守ったりすることはむずかしい。客がレジから離れると、横入りする人が必ず出てくる。ぼくもきっとそうする。」
ーーそうか。さっきも感じたけど、日本人とは恥の感覚が違うようだ。
知り合いのバングラディシュ人も同じことを言っていたよ。あの足跡マークの間隔はとても正確でスゴイと。
メジャーを使って、センチ(かミリ)単位で測って床に貼ったと思う。
「そういうところも違う。日本人はインド人が気づかないところに気づくし、インド人なら手を抜きそうな部分も丁寧に仕事をする。注意や配慮が行き届いているから、秩序が生まれるんだろうね。それに、どのコンビニでもあの足跡マークはいつもきれいだ。日本にあるものは何でも質が高い。」
ーーなるほど。
話をまとめると、ボクにとってインド社会はカオスだったけど、インド人の君にとって日本の社会はコスモスだと。それは国民一人一人のルールやマナーの遵守に支えられている。
「そうだね。そこは本当に違う。インド人は日本人に学ぶべきだね。」
もちろん、日本がパーフェクト・カントリーであるはずはなく、彼から見て不満なところもある。
それについてはまた別の記事で伝えるとして、今回は日本を一方的にほめて終わりにしよう。
聖地・ヴァラナシでは、観光客でも火葬場を見学することができる。撮影は禁止されていたけど、遠くから動画を撮ることはできた。(小さな炎が見えると思う。)
近くに行くと眼の前で遺体が燃えていて、どうしても生や死について考えさせられるから、それが「インドへ行くと人生観が変わる」というフレーズの背景になったのでは。
ま、ボクは変わりませんでしたけどね。
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