【仏教の感覚】韓国・日本人はゆるく、東南アジアは真面目

 

芸能人が売れるためには、独自のキャラ設定をすることが重要だ。
韓国では最近、あるお笑いタレントが頭を剃(そ)って袈裟(けさ)を着て「お坊さんキャラ」になり、クラブでDJで行うパフォーマンスが人気を集めているという。
彼が東南アジアでもそのパフォーマンスをしようとしたところ、韓国との価値観や感覚の違いを痛感させられた。
タレントが仏教僧の姿でクラブで活動することは、仏教の教えを汚していると、現地の仏教界から強烈な「NO」を突きつけられてしまった。

朝鮮日報の記事(2024/06/15)

韓国お笑いタレントが僧侶に扮して海外でDJパフォーマンス、東南アジアで公演中止相次ぐ

マレーシアでは、元運輸相がこのパフォーマンスは仏教界を怒らせ、仏教の価値と教えに対する誤った認識を植え付けたと指摘し、タレントの入国禁止を訴えた。シンガポールでも内務相が、彼の振る舞いは仏教界に対する侮辱であり、受け入れられないとコメントした。
仏教や政治の関係者などから大反発を招き、予定されていたパフォーマンスは全て中止に追い込まれたという。

韓国社会では、このお笑いタレントを批判する人もいるだろうけど、一般的には受け入れられている。
しかし、東南アジアでは、宗教に対する感覚が違う。
彼らは信仰には真面目&シリアスだったから、「仏教僧がDJパフォーマンスを行う」というスタイルは認められなかったのだ。

 

サウン・ガウを演奏するビルマ人

 

最近、日本に住んでいて、日本語がペラペラのミャンマー(ビルマ)人3人と話をした。
SNSに「今日はみんなさんと話ししてたのしかった」と書く初心者レベルの外国人とは“レベチ”で、「今日はいろいろな人と話ができて、とても楽しくて有意義でした。また機会があれば誘ってください」と書けるほどうまい。当然、日本とミャンマーの事情にもくわしい。
そんな彼らと話をしていて意外に思ったのは、3人とも『ビルマの竪琴』を知らなかったこと。

これは戦時中のビルマを舞台に、日本兵をモデルにした小説で、 1948年に単行本として出版された。この感動の名作は日本人の心をぶち抜き、大人気となって、1956年と1985年に2回も映画化されている。
現在の日本でも、40代以降の人には知名度が高いだろうけど、若い世代では「なにそれ?」となるかもしれない。竪琴(たてごと)を読めない人もいるかも。

 

『ビルマの竪琴』は、ヴェネツィア国際映画祭で賞を受賞したり、アカデミー外国語映画賞にノミネートにされたりと、海外でも高い評価を受けたにもかかわらず、3人とも知らなかった。
調べてみると、この映画はミャンマーでは公開されていなかった。
どうやら、日本人の感覚ではOKでも、仏教徒のミャンマー人の基準ではNGの表現があったかららしい。

それは、日本兵(水島上等兵)が頭を剃って袈裟を着て、仏教僧の格好をしてビルマ伝統の竪琴「サウン・ガウ」を演奏するシーン。
ミャンマーの仏教では、僧侶が音楽を演奏することは戒律に反するため、禁止されている。
だから、この描写は仏教に対する侮辱になってしまう。

ちなみに、『ビルマの竪琴』の内容は小説や公開された映画によって、内容がすこし違うかもしれない。
あるサイトには、水島が竪琴を弾いて仲間と別れる際、彼は僧の格好をしていただけと書いてあったけど、別のサイトでは、彼はその時すでに出家していて、本物の僧になっていたと書かれている。でも、ここでは、水島が僧になったタイミングは重要ではないから、それにはこだわらない。

 

仏教僧が戒律によって、音楽を演奏できないことは日本でも知っている人がいたから、このシーンについては、昔から国内で批判があがっていた。でも、ほとんどの日本人は「問題なし」と考えていて、映画ではそのシーンをそのまま公開していた。

*当時は、映画の制作もゆるやか(テキトー)だった。
ビルマでのロケは難しいから、「国内で撮影すればいい。河は多摩川でもいいじゃないか」とか「築地の本願寺はビルマの寺に似ている」なんて意見もあったという。

 

3人にユーチューブでそのシーンを見てもらって、感想を聞くと、彼らはこんな話をする。

「仏教僧が竪琴を弾くことは、確かに良くはないけれど、自分たちからすると「仏教を侮辱している」というほどじゃない。でも、世代によって感覚や意見は違うから、お年寄りはそう感じるかもしれない。全体的に考えると、ミャンマーでこの映画を公開すると、反発を招いて問題になると思う。若い世代は、仏教への信仰が薄いというよりは、表現の自由を尊重する気持ちが強い。」

 

ということで、『ビルマの竪琴』も韓国のタレントと同じように、東南アジアでは「NG扱い」を受けるかもしれない。
日本の社会は宗教に寛容で、細かいことはあまり気にしない。
現役のお坊さんがバンドを結成して、「禅禅禅世」なんて曲をユーチューブにアップするような“ゆるさ”があるから、仏教僧のDJパフォーマンスもできると思う。
仏教に対する感覚は日本人と韓国人ではわりと近いけど、東南アジアの人たちは真面目で厳格だ。
だから、日韓ではOKでも、東南アジアでは「冒とく」と見なされることもある。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。