価値観や考え方の違いから、政治的にはよく対立している日本と韓国。
でも、食文化については「素材の新鮮さを大切にして、生きたまま調理する」という共通点があって、これが欧米人をドン引きさせる。
現代の欧米の動物愛護精神を基準にすれば、こんな残酷な食べ物は考えられないが、日本には同じような料理がある。
ハンギョレ新聞の記事(11/14)
韓国のどじょう汁のドジョウ、塩で殺さないで…世界的倫理学者の呼びかけ
米プリンストン大学の名誉教授であるシンガー氏が「動物も苦痛を感じるなら、人間と同じく道徳的に接するべきだ」と主張し、それが世界の動物権運動の理論的基盤になってきた。「動物の解放に向けた戦い」が重要であるというシンガー教授の意見は、欧米の動物愛護団体もよく強調している。
米誌に「現存する最も影響力のある哲学者の一人」に選ばれたシンガー氏が韓国メディアとインタビューに応じ、動物の権利を守るためには人間が肉を避け、菜食主義者になることが最も有効だと訴えた。
韓国では伝統的に犬肉食が行われてきたが、2023年に「犬食禁止法」が制定され、2027年から犬の食肉処理や販売ができなくなることになっている。シンガー教授はこれを熱烈支持し、犬だけでなく鶏、豚、牛を食べることも禁止することへ拡大することを期待しているという。
そんな価値観からすると、韓国料理の「どじょう汁」を認めることができない。
これを作るときには塩をかけてどじょうを殺すから、教授の見方では、どじょうに大きな苦痛を与える残酷なやり方となる。ドイツでも昔は塩を使ってうなぎを殺していたが、今では法律で禁止されているという。そんな例を挙げて教授は韓国でも、魚類を苦しめながら殺すことを全面禁止するように法律を改正してほしいと訴えた。
欧米のメディアは韓国の犬肉食を強く非難するが、日本のメディアはそんなことはしない。日本にもそんな食習慣はないが、日本人は基本的に自分の価値観を他人に押し付けることはなく、他国の食文化に口を出さない。権威のある人物が韓国に対して、法を変えるよう呼びかけたという話は聞いたことがないし、これからもきっとそんな動きは出てこない。
この世界的な倫理学者は、アメリカ人が七面鳥を食べることも「七面鳥に対する人間の差別的認識」が表れていると主張するから、わりと過激な考え方を持つ人で、一般のアメリカ人の意見を代表しているとは思えない。
しかし、苦痛を感じる能力のある生き物には、人間と同じように倫理的に接するべきだという主張は欧米で支持されている。タコやロブスター、カニなどが苦痛を感じるという“科学的証拠”が明らかになり、ヨーロッパの中には、こうした生き物を調理する際、痛みを感じさせないように意識を失わせてから処理することを法的に義務付けた国もある。
イギリス政府は2021年に、「エビ・カニ・ヤドカリ・イカ・タコなどは意識を持っている」ということで、動物福祉に関する法案が修正されると発表した。この法案が施行されると、イギリスではエビやタコなどを生きたまま茹でることは違法行為となる。
アメリカのカリフォルニア州では今年10月に、タコは知的で、痛みやストレス、恐怖などを感じる生き物であるという理由から、タコの養殖を禁止する法が成立した。
欧米ではこうしたことを人間の「道徳的義務」と考え、支持する人は多いが、日本人の価値観はそうではない。
「タコの養殖禁止」のニュースに対する日本のネット民の反応は、きっと韓国も同じだ。
・たこ焼き屋のおばちゃん「なら他の動物はアホってことか?」
・賢い生き物は殺しちゃいけない
馬鹿な生き物は頃していいって優生思想ですね!
・自分らだけで勝手にやったらいい 日本に干渉するなよ
・美味しいかどうかできめろ
・クジラやイルカは頭がいいから食ってはいけない
牛はバカで気性が荒いから食ってもいい
これが差別でなくて何という
ベトナムで見た豚の丸焼き
日本の食文化では素材の新鮮さがとても重視されていて、生きたまま調理する料理がいくつもある。しかし、それを見て、「マジかよ…」と青ざめる欧米人は多い。
以前、ドイツ人と東ヨーロッパのリトアニア人、それとタイ人といっしょに港町へ行ったとき、こんなことがあった。
4人で道を歩いていると、「浜焼き」を提供している海の家があって、客が網の上で大きなはまぐりを焼いていた。そのすぐ横を通りかかったとき、ちょうどはまぐりがパカッと開いたから、「おいしそう!」とボクとタイ人は思ったけれど、リトアニア人とドイツ人の反応は違った。
彼らは足を止めて、「あのはまぐりは生きているんじゃないのか? 客は生きたまま焼いているのか?」と聞いてきた。明らかに引いている。
この2人は日本のさまざまな食べ物を試したり、動画で見たりしていたから、日本の食文化についてそれなりの知識がある。
彼らヨーロッパ人の感覚だと、食材を生きたまま調理することは新鮮さをアピールするだけでなく、魚やエビなどが苦しそうに体を動かしているを見て、客は楽しんでいるように感じるらしい。
言われてみれば、確かにそういう「残酷エンタメ」の要素はある気がする。欧米人の価値観では、それは不必要な苦痛を与える残虐行為になると思われる。
こんな感じに、はまぐりや伊勢海老などを生きたまま焼くのを「残酷焼」(または地獄焼)と言って、伊勢地方の郷土料理になっていて、ネットを見ると、そんな残酷さを“売り”にしている店は静岡や徳島、大分にもある。
韓国にも魚介類を生きたまま焼いて食べる習慣があって、それを試す日本人はよくいるが、欧米人でその食文化を受け入れる人は例外だ。きっとドン引きするか怒り出す人がほとんどで、国によっては違法行為になる。
友人のアメリカ人は日本と韓国に住んでいた。
彼女は「食材の新鮮さを重視する」という日韓の食文化の考え方には共感できても、タコの踊り食いは理解できないし、倫理的に許せないと怒る。
生きた食材の命を目の前で奪うことを「残酷」と思うか、「おいしそう」と思うかは個人の感覚によって違う。欧米を基準にすれば、日本人と韓国人はわりと近い。しかし、「残酷エンタメ」系の料理は韓国のほうが発展していると思う。
最近は、特に若い日本人のあいだで韓国料理が人気になっている。
それで、前に20代の女性がSNSで「へチョンタンを食べてきましたー おいしかったー」と投稿しているのを見た。「へチョンタンってなんだ?」と思ったら、生きているタコを一匹丸ごと熱々のスープにぶち込んで、足をハサミで切って食べる料理のことだった。
プリプリの食感が最高だとか。
韓国にはウナギの残酷焼もある。
へチョンタンやウナギの踊り食いを見ると、個人的にはちょっと引いてしまって、あの時のドイツ人やリトアニア人の感覚が分かる気がした。
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