日本の歴史上の人物で、もっとも評価が分かれる人はだれか?
ネットで見てみたら、徳川慶喜をあげる人がけっこういる。
徳川慶喜にはこんな評価がある。
・大坂城にいた兵を捨てて、自分は江戸へ逃げてしまった卑きょう者。
・新政府軍との全面戦争を回避して日本を救った人。
ボクは後者の意見に賛成。
慶喜が新政府軍と本格的にたたかっていたら、九州や北海道あたりがヨーロッパの国にとられていたと思う。
同じ人物でも、立場や価値観によって評価は変わる。
前回はそんな人物として、ポルトガル人のマゼランを紹介した。
ポルトガル人にとっては勇気ある冒険者でも、フィリピン人にとっては侵略者だ。
フィリピン人からしたら、マゼランを殺したラプラプが英雄になる。
今回はその続き。
見る人によって評価が正反対になる有名人を紹介しようと思う。
イタリア人のコロンブスと韓国人の安重根の2人だ。
コロンブス(1451~1504)はマゼランと同じ大航海時代に活躍した人。
高校の世界史ではこう習う。
コロンブス
トスカネリの地球球体説を根拠に西まわりでアジア到達が可能ととらえ、スペイン女王イサベルの援助で1492年8月にパロス港を西へ出発した。
「世界史用語集 (山川出版)」
そして彼はこの年にアメリカ大陸を発見した。
・・・と、30年ぐらい前は学校でそう習ったのだけど、今では「発見した」という言葉はあまり使われない。
アメリカ人から話を聞くと、「ディスカバリー(発見する)」と言う人もいたけど、「リーチ(到達する)」を使う人のほうが多い。
昔はこんなことも教わった。
「アメリカ原住民を『インディアン(インド人)』と言ってはいけない。『ネイティブ・アメリカン』が正しい言い方だ」
でも、これも人によって言うことがちがう。
「いや、必ずしもそうではない。ネイティブ・アメリカンのなかには、『インディアンのほうがいい』という人もいるからな」
そう話すアメリカ人もいた。
「アメリカン(アメリカ人)」と言われたくないネイティブ・アメリカンの人もいるらしい。
アメリカには価値観や考え方がたくさんあり過ぎて、話を聞くと、かえってよく分からなくなることがある。
1492年にアメリカ大陸を発見したコロンブスも、評価は大きく分かれる。
コロンブスがアメリカ大陸を「発見した」というのは当時のヨーロッパ人の見方。
「彼が来る前からアメリカ大陸はそこにあった。だから、コロンブスはそこに『到達した』だけだ」
こんなふうに、アメリカ大陸(原住民)を中心とする見方をする人が最近では多い。
だから、いまアメリカは「コロンブス・デー」でもめている。
コロンブスがアメリカ大陸に到達(発見)した日を記念して、アメリカでは10月12日を「コロンブス・デー」という祝日にしている。
コロンブス・デーについてくわしくはこちらをどうぞ。
見方によってはマゼランが英雄や侵略者になるように、コロンブスを偉人と思う人がいれば侵略者と思う人もいる。
ウィキペディアにもこんな説明がある。
「コロンブスがアメリカを発見した」という「功績」については、現代の多文化主義論者たちは、「“発見”などしていない」との見解で一致している。
歴史家のフランシス・ジェニングス(英語版)は、「ヨーロッパ白人は処女地に植民したのではない。彼らは先住民族を侵略して、入れ替わったのだ」と述べ
去年、アメリカではコロンブス・デーに反対して、「『先住民の日』に変えるべきだ!」という声が上がっていた。
TBS Newsの報道(2017年10月10日)から。
「先住民を大量に虐殺した人物をたたえるなんてひどい人種差別だ」(「名前を変えるべき」派)
「コロンブスはアメリカの歴史上とても重要だから、名前をなくすなんて弊害が出ると思う」(「名前は残すべき」派)
「米で「コロンブス・デー」巡り論争」
フィリピンとポルトガルのように遠く離れた国だったら、こんな対立は起こらない。
でも、いろいろな人種や宗教の人たちがいて、さまざまな価値観があるアメリカでは、こんなふうに面倒なことになってしまう。
「コロンブス・デー」を「先住民の日」に変えるというのも極端な考え方だと思ってしまうけれど、アメリカのことだから、アメリカ人が好きなだけ話し合って決めたらいい。
ええ、他人事ですよ。
でも、こっちは他人事とはいかない。
同じ人間でも、国によって善人になったり悪人になったりすることがある。
日本と韓国にとって、「安重根」はその代表的な人物だ。
安重根(ウィキペディア)
世界史ではこう習う。
安重根(アンジュングン、あんじゅうこん)
1879~1910朝鮮の独立運動家。1907年沿海州で愛国啓蒙運動と義兵闘争に参加。朝鮮の植民地化を決定づけたとして、09年10月に伊藤博文をハルビンで暗殺した。
「世界史用語集 (山川出版)」
安重根は朝鮮(韓国)の独立を守るために、伊藤博文を銃で暗殺した。
このことで韓国では、英雄として国民から広く尊敬されている。
韓国の高校生用の歴史教科書にはこう書いてある。
義兵として活躍していた安重根は満州ハルピン駅で韓国侵略の元凶である伊藤博文を処断した(1909年)。
「韓国の歴史 (明石書店)」
韓国の歴史認識では、伊藤博文は「侵略者」で、そんな人間を処断した安重根は英雄になっている。
でも、日本の歴史認識は正反対。
初代総理大臣の伊藤博文は偉人で、その人物を暗殺した安重根は「テロリスト」になっている。
日本政府(菅官房長官)は公式の場で、安重根を「テロリスト」と呼んだ。
産経新聞の記事(2014.1.20 12)から。
菅氏は「安重根は初代首相を殺害し、死刑判決を受けたテロリストだ」と強調。
国際社会では、この見方が常識だ。
どこの国でも、自国の首相を殺害した外国人は「テロリスト」と呼ばれる。
韓国の歴史認識では、安重根は英雄。
日本の歴史認識ではテロリスト。
韓国と日本では価値観や考え方がちがうのだから、安重根への評価が正反対になっても仕方ない。
でも韓国の場合、自国の見方を日本人に押しつけることがあるから、対立が起こってしまう。
最近もそんなことがあった。
朝鮮日報の記事(2018/03/01)によると、韓国の大学教授が日本人に向けて、「英雄・安重根」を紹介する動画を公開した。
教授はその目的をこう話している。
韓国の広報活動に取り組む誠信女子大の徐ギョン徳(ソ・ギョンドク)教授が、日本人に正しい歴史を知ってもらおうと企画した。
「英雄」安重根を日本人に伝える ユーチューブに動画
こんなことをしても、きっと逆効果。
「正しい歴史」を知る日本人より、「韓国嫌い」の日本人を増やすだけだろう。
アメリカ人なら、こんなことをするだろうか?
「外国人に”正しい歴史”を知ってもらおう」とアメリカ人が何かを企画して、それが全国紙で紹介された例が思い浮かばない。
韓国とアメリカのこんな「歴史認識の押しつけ」のちがいについては、1つの記事にして書こうと思う。
マゼラン・コロンブス・安重根のように、国や立場によって評価がぜんぜんちがう有名人はよくいる。
でもそれは、世界の当たり前。
自分とはちがう歴史認識と出会ってもショックを受ける必要はないし、そんなことで対立しても意味がない。
相手と自分の歴史認識がちがっていても、お互いの見方を尊重する態度が必要ですね。
こちらもどうぞ。
コロンブスのアメリカ大陸発見!の評価。偉人/迫害者?発見/到達?
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