最近、アメリカのフィラデルフィアにあるスターバックスで、人種差別騒ぎが起きた。
2人の黒人男性が店内で知人を待っていると、店長がそれを不法侵入とみなして警察に通報する。
かけつけた警官によって、彼らは後ろ手に手錠をかけられて連行されてしまう。
ただ、2人は何も注文していなかった。
くわしいことはこの記事をご覧あれ。
このニュースに日本のネット上の反応は?
・飲食店のテーブルに勝手に座って何も注文しないとかあり得ない
・友達を待ってるって理由だけで席を占領されちゃ敵わんな
・トイレ借りる時は何か買うべきだよなww
・一方日本のコンビニではいちいちトイレ借りた時にガム一個とか買っていくなと店員が怒っていた
・これは、友人と合流してから注文するつもりって解釈すべきなのでは?
コーヒーショップで待ち合わせならこの方が自然な解釈に思える
・日本人の感覚で、こんなんで差別とか!って思う奴はアメリカいくとビックリするぞ
・店の前で待ち合わせすればいい
・頼んでないなら席に座るなよ
なんでも差別にすり替えるな
こんな感じで、これは人種差別ではなくて営業妨害だからこの黒人に問題があるという意見が多い。
注文しない人は客ではないから「出ていけ」と言ってもかまわないと。
どうもボクが見たアメリカでの反応と違う。
アメリカでは完全な人種差別行為とみなされ、非難と抗議の嵐が起きていた。
たとえばこんな感じだ。
In America, blackness means you’re a problem, not a customer: https://t.co/vAKhCSaLcU via @slate
— Melissa DePino (@missydepino) 2018年4月19日
アメリカで黒人は存在自体が”問題”とされるという。
日本のネットはこういった反応とはちがう。
「これって、人種差別は関係なくない?注文してないのに店で座ってた、ってことの方が問題のような?追い出されても仕方ない」という意見がすごく多かった。
じつはボクもそう思った。
「警察を呼ぶという店の判断は間違っていた。でも、何も買わずに店にいた人にも、責任や問題があるだろう」
ということで、そのことをアメリカ人に聞いてみることにした。
「この騒動をどう思う?」と、知り合いのアメリカ人に意見をたずねる。
彼はニューヨーク出身、40代の白人。
大学では東アジアの文化を学んでいた。
アメリカ社会では、たぶん「頭がいいゾーン」に入る人間。
彼は力強くこう言う。
「人種差別はアメリカの恥だ!あれは絶対にやってはいけないことだった!」
・・・と言うと思ったら、全然ちがった。
「マジで?フィラデルフィアでそんなことあったの?おまえ、よくそんなこと知ってるな」と感心されてしまった。
まあね。
ほら、ボクって意識高いからさ。
世の中の動きには敏感なんだよ。
じゃねえよ。
日本のテレビや新聞で報道されているようなアメリカのニュースを、なんでメリケンのおまえが知らないんだよ。
おまえのアンテナ、どんだけ低性能なんだよ。
しょうがないから、店で起きたことを説明して「どう思う?」と改めて聞く。
以下、彼の話。
日本で「お客様は神様です」と言うように、アメリカでは「Customer is always right(客はいつも正しい)」という言葉がある。
客を大切にする考え方は、もちろんアメリカにもある。
でも同時に、店には客を選ぶ権利もある。
たとえば、Tシャツを着ている人は客と見なさないで、入店をことわる店もある。
でも、これは差別ではないしまったく問題もない。
店に入った客でも、酔っ払いや迷惑なヤツは、警察を呼んで追い出すこともできる。
「ここはアメリカだ!韓国語で話すな!」という人種差別主義者であれば、警察に通報してたたき出してもいい。
huffingtonpostの記事(2017年12月21日)のように。
騒ぎを聞きつけた店員がやってきて「すみませんが、当店ではどんな言語でもしゃべってOKです」と女性を諭した。
それに対して女性は「オバマ大統領は、アメリカにいる人はみな英語を話すべきだと言ったわ」と反論したという。
(中略)とうとう店に駆けつけた警察官に連れ出される形となった。
「どんな人間を入れたり追い出したりするかは、店によってルールが決まっているはず。注文してないのに店にいていいかどうかも、その店の決まりによる。スターバックスの店長はルールに従って、その黒人を追い出したつもりなんだろう」
店には、決まりにしたがって客を追い出す権利がある。
けど、肌の色はその条件にはならない。
彼は言う。
「今回の件については、彼は心の中でつぶやくだけにすればよかった。それなら問題は起きなかった。彼は今日も、店長として働いていたはずだ」
学校の先生なら、「人種差別はいけません。たとえ心の中であっても。差別は完全になくさないといけないのです」と子どもに言うだろう。
でもそんなことは、大人ならみんな知っている。
それは理想で、彼の意見はこうだ。
「心の中だったらいいんだよ。どんな差別的なことを言っても。でも、それを絶対外に出してはいけないんだ」
極端な話、日本人を見て「この黄色いサルが!店に入って来るなよ!」と心の中で思うことはOK。
でも、それを口に出してはいけない。
態度に表してもいけない。
彼は持論を続ける。
「それをしたら、自分やまわりがどうなるか?それがわからないヤツは頭が悪い。わかっていてもやってしまうヤツは、自制心がない。どっちにしても、ダメな人間だよ」
「そんな差別は許せねえ!」と彼は怒ることはなく、「バカなヤツだな。おかげでスターバックスも大損害だ。いい迷惑だよ」と淡々と言う。
法律には、「殺人はいけません」とか「差別は禁止します」とは書いてない。
「それをやったら、これだけのペナルティがあるぞ」と言っている。
内心でどう思うかは、法律はノータッチ。
だから心の中で差別をしても、法的には問題ない。
外面上に現れた行為を法律で裁くことはいい。
でも、人の内面を法で裁いてはいけない。
これは「思想・良心の自由」を保障した憲法に違反するだろう。
「心の中では何を言ってもいい。でも、絶対にそれを外に出すな」というのは、そういうことだろう。
他人に気づかれたら、差別問題になる。
もちろん、学校の先生が子どもにこう教えるのはまずい。
でもこれが彼の本音で、言っていることは間違っていない。
大人なら、最低限わきまえておかないといけない社会のルールだ。
「差別は絶対にいけません。心の中でもダメです」と言う教師や政治家だって、本音はわからない。
ホントは何を考えているのかなんて、本人以外はだれも知らない。
「それにしても、君がこのことを知らなかったのは意外だった。ゲームばっかやってんなよ。世の中見ろよ」
と最後の部分をのぞいて言うと、彼は笑った。
「そんなもんだって。そんなことがあったなんて、知らないアメリカ人はたくさんいる」
日本人でも知っているようなアメリカのニュースを、アメリカ人が知っているとは限らない。
それが普通だという。
それと、ある事件に対して、アメリカ人が同じ反応をしめすことは本当に少ないとも言う。
店長が警察に通報したことに激怒して、ボイコット運動をする人もいる。
その出来事を知っても、「自分には関係ない。好きにやればいい」と関心をしめさない人もいる。
「店から黒人を追い出したのか!よくやった!」と思う人も絶対にいる。
「ひょっとしたら、スターバックスの売り上げはこれから伸びるかもしれない」というのは、案外本当かもしれない。
知り合いのアメリカ人の関心は別のところにあった。
「アメリカの最大の問題はトランプだ。アイツがすべて悪い。あいつのせいで、『人種差別をあからさまにもしていい』という風潮が広がったんだよ。絶対にそうだ」
彼の見方ではそういうことらしい。
もし、内心で差別をしていても、それを表に出さなかったら社会はうまくまわる。
でも、「それを言ってもいい」「態度に出していいんだ」という空気が広がると、たしかに危険だ。
そういう空気をつくり出す人間には、注意する必要がある。
*今回の内容は、1人のアメリカ人に聞いたことだけ。
これがアメリカの白人男性の代表的な意見かはわからない。
こちらの記事もいかがですか?
最後のトランプのくだりは特に興味深く読ませていただきました。表に出さない事でやり過ごす、なんだか日本人の思考回路のようにも思えました。
>興味深く読ませていただきました
ありがとうございます。
日本人とは種類が違いますが、アメリカ人も本音と建前を使い分けていると思います。
いろいろな宗教や人種の人がいますから、思っていることをそのまま言ったらきっとぶつかります。