【それが武士の生き方】日本人はなぜ周りの目を気にするのか?

 

日本人は他人の目をよく気にする。
だから、「日本は海外からどう見られているか?」「日本に来た外国人はどう思うのか?」といったテレビ番組がよくある。

まえに同じことをイギリス人に聞いたら、「イギリスには白人も黒人もアジア人も、キリスト教徒もイスラーム教徒もユダヤ教徒もいる。多文化共生の国だから『外国人の目』を気にする人はいないと思う」とのこと。
日本は全国どこでも日本人が多い同質性の高い国だから、よけい海外の目が気になると思う。
同質性が高い点は韓国も同じで、ソウルにいるアメリカ人も韓国人は外国人の目や海外の評価を気にすると話していた。

日本人はなぜ周りの目を気にするのか?

「NIKKEI STYLE」の記事(2019/7/3) にハーバード大学教授の意見がのっている。

ハーバード大学で日本文学・文化を専門とするディヴィッド・C・アサートン氏は、戦う機会がない武士が、よそ様からどう思われているのかを気にしていたのが、その原点ではないか

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*これは「ハーバードの日本人論 佐藤智恵著 (中公新書ラクレ)」を紹介する記事だから、くわしいことはこの本を読んでほしい。

 

1615年、大阪夏の陣で豊臣家を滅ぼした徳川家康は元号を「元和」として、戦いの時代が終わったことを全国に知らせた。(元和偃武
平和な時代は武士から戦いをうばう。
武士が世間の目を気にするようなったのはこれが大きな理由という。

武士が武士たるゆえんは戦うことなのに戦うべき機会もありません。そのため、「戦っていない自分を世間がどう見ているのか」が気になって仕方がありませんでした。この世間体を気にする習性は、その後、武士から町人や農民にまで広がりました。

あくまで仮説だけど、この習性が外国人の目を気にするいまの日本人の意識につながるという。

 

「武士は食わねど高楊枝」という言葉があるくらい武士はメンツや体面を気にしていたから、この説は案外正しいかもしれない。

 

 

でも平和な時代になるまえから、武士は周囲を気にして生きていたのだ。
北条重時(六波羅探題北方など鎌倉幕府の要職をつとめた人物)が書いたとされる「極楽寺殿御消息(ごくらくじどのごしょうそく)」という家訓を見るとそれがわかる。

極楽寺殿御消息

室町時代には,北条時頼が子の時宗に与えた『最明寺殿教訓書』に仮託されて広く流布し,武家家訓書の原型となった。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

 

重時の叔母は源頼朝の妻・北条政子だから、この武家の家訓には当時の鎌倉武士の生き方や行動基準などが表れている。
これはそのひとつ。

人の妻をば心をよく見て、一人をさだむべし。かりそめにも其外に妻をさだめて、かたらふ事なかれ。

「日本人とは何か。(上巻)山本 七平(PHP文庫)」

 

妻は一人だけに決めて、それ以外の妻をつくってはいけない。
これは一夫一妻制のことだけど、この当時のアジア大陸の国では一夫多妻制が当たり前。
日本は中国や朝鮮ともちがう例外的な国だった。
この家訓では女性を尊重するよう説いていて、「いかなる賤の女なりとも、女の難をいふべからず」とある。
どんなに身分の低い女性でも、悪いこと(ブスとか)は言ってはいけないということだろう。
鎌倉時代の武士は女性を思いやる心を持っていた。

評論家の山本七平氏はこの家訓で、あらゆる人に気を配るよう求めていることに注目する。

その気くばりは、商人から百姓、百姓の従者、自分の下部、乞食にまで及んでいるのには少々驚く。

「日本人とは何か。(上巻)山本 七平(PHP文庫)」

*乞食という表現はもちろんいまはNG

 

これが鎌倉武士にとって大切な心がけ

・葬式がおこなわれている近くで、笑ってはいけない。
・前から人が来たら、相手がだれでもあっても自分から道をゆずれ。
・酒のつまみやお菓子は、他人にたくさん取らせろ。そして料理は人より多く取ってはいけない。
・旅をするときは、人夫や馬に重い物を持たせるな。
・借りた物は急いで返せ。
・農家が植えた果物をほしいと思うな。
・他人と議論をするな。

などなど。

鎌倉時代の武士は本当に周囲を気にして、気配りしながら生活をしていた。
江戸時代の地方公務員のような武士と違って、この時代の武士は本物の戦士。
重時の兄・北条泰時は1221年の承久の乱のときに、幕府軍の総大将として朝廷側と戦っている。
そんな時代の武士が日常生活で心がけていたのは、「前から人が来たら、自分から道をゆずれ」ということ。
これはいまの日本でも理想的な考え方で、「あおり運転」をする人間は鎌倉武士の風上に置けやしない。

ということで、こういう価値観が大切にされていたことも、「日本人はなぜ周りの目を気にするのか?」の答えのひとつにあると思う。

 

 

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2 件のコメント

  • >「戦っていない自分を世間がどう見ているのか」が気になって仕方がありませんでした。この世間体を気にする習性は、その後、武士から町人や農民にまで広がりました。

    そうですかねぇ?あまり当たっていないような気がします。その時代に生きてもいないのに、時代の雰囲気が分かるかな?
    日本人(および韓国人も)が周りの目を気にするのは、おそらく、社会での同質化へのプレッシャーが非常に強いことが一番の原因だと思いますね。外見上あるいは思想上の変わり者がいると、すぐに仲間外れにされてイジメの対象にされる。それに対する防衛反応だと考えます。日本で暮らしている外国人とか、海外生活が長かった日本人なんかに聞けばすぐ分かりますよ。日本に関する何冊もの本にも書かれていること。
    この悪しき習慣(一種の人権侵害に近いのだが日本人自身はあまり気付いていない)は、昔も、今も、あまり変わっていません。だから現代っ子は学校ですぐイジメに加担したり、イジメにあったりするのです。
    これからの世の中は「ダイバーシティが重要だ」とは多くの社会評論家が言うところですが、本当の意味でその方向に日本社会を動かすことには、想像を絶する困難さが、日本人を待ち受けているだろうと思います。

  • 一つの意見には百の見方があります。
    その意見をもとに考察を深めて自分の考えを深化することは、うのみにするより有意義なことですよ。
    私も同質性の高さが外国人の目を気にする要因になっていると思います。
    そんな日本が多様性を受け入れるのはむずかしいことが多いでしょうね。
    でも少子高齢化ですから仕方ないです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。