いまの日本と韓国で「どっちもどっち」は中立を装う不公平

 

アパルトヘイトと戦ったアフリカの人権活動家、ツツ牧師がかつてこんなことを言った。

「不正義が行われている状況で、もしあなたが中立でいるのなら、あなたは圧政者の側を選択したことになる」

異議なんてありえない。
正しいことをしている側と不正をしている側がいて、「どっちもどっち」「それぞれに解決の責任がある」と言うのは中立ではなくて、不正の側に立っている。

 

彼は黒人大衆から広く人気を集めており、反アパルトヘイト活動によって国際的評価が高く、ノーベル平和賞を含む一連の賞を受賞した。

デズモンド・ムピロ・ツツ

 

さて、先月はじめの読売新聞にこんな社説(2019/07/06)があった。

対韓輸出厳格化 文政権は信頼に足る行動とれ

日本が韓国に対する輸出管理を強化した。
結果的に、半導体製造に必要な部品が思うように入って来なくなるから、韓国側はパニック状態におちいった。
それから反日感情に火がついて、日本製品のボイコット運動がいまも激しく行われている。
韓国側は「日本の経済報復」「経済侵略」と呼んで自らを被害者、日本を加害者に設定しているけど、読売新聞はこうなった原因を韓国側の不誠実な態度にもとめた。

韓国が元徴用工訴訟を巡る問題などで国家間の約束を守らない現状を、これ以上看過できないと判断したのだろう。
輸出管理当局同士の協議もほとんど行われておらず、日本政府が「信頼関係」が損なわれたと結論づけたのは、やむを得まい。(中略)そもそも事態をここまで悪化させた責任は文在寅政権にある。

 

1965年の請求権協定でもう解決済みの徴用工問題をもちだし、韓国最高裁がきょねん10月、日本企業に賠償を命じた。
この協定を一方の国が国内法でひっくり返すことは国際法で禁じられている。
国際法違反の状態を認められない日本政府は、韓国に対してくり返し是正をもとめてきた。
でも、文政権は日本の要求には耳を貸さず、半年以上この状態を放置する。

日本が輸出管理の強化を行った要因には、法や約束を破る韓国側の不誠実な態度があったはずだ。
だから読売新聞は、「崩れた信頼関係の回復へ、韓国政府は責任ある行動をとるべきだ。」と注文をつける。

日韓関係が「最悪」といわれるほど悪化した原因は韓国側にあるのだから、文政権が責任を持って信頼回復に取り組む必要がある。

 

この社説の12日後、毎日新聞がこんな社説(2019年7月18日)を載せていた。

強まる日韓対立 両首脳は感情論の自制を

見出しからわかるとおり、典型的な「どっちもどっち論」だ。

安倍首相の「感情論」とはこの言葉のこと。

韓国について「国際条約を守れない国」「国と国の約束が守れない」と繰り返しなじった。

 

一方、韓国のムン大統領は日本の輸出管理に関してこう言う。

「結局は日本経済に、より大きな被害が出るだろうと警告しておく」と威嚇するような表現を使った。

 

両者の言葉を引用して、毎日新聞はこうなげく。

両首脳が率先してナショナリズムをあおっていては、外交は成立しない。国民感情は悪化するばかりだ。(中略)特に両首脳には、発言の自制を求める。

 

でもこれは、一方にかたよった見方だ。
韓国が「国際条約を守れない国」「国と国の約束が守れない」という指摘は事実。
現に請求権協定を守っていないし、慰安婦合意も事実上破棄した。
安倍首相には、今回の措置を行った背景や理由を国民に分かりやすく説明する義務がある。
「国家間の約束を守らない現状を、これ以上看過できないと判断したのだろう」と書いた読売新聞の主張のほうが公平だ。
「繰り返しなじった」という表現にも安倍首相への悪意がある。

それに対して、ムン大統領の「日本経済に、より大きな被害が出るだろうと警告しておく」というのは事実ではない。
韓国経済により多くの被害がでることは日本のメディアが指摘していて、韓国メディアも憂慮している。
いま韓国がしなければいけないことは、まずは信頼関係の回復だ。
その政府のトップが「威嚇するような表現」を使うのを「どっちもどっち」にしてはいけないのだ。

 

約束を破った韓国とすべて守った日本では立場がまったく違う。
それに言っている内容も違うのに、「両首脳には、発言の自制を求める」というのは中立ではない。
読売新聞のように、「事態をここまで悪化させた責任は文在寅政権にある」としっかり指摘するのが公平な態度だ。

少なくとも、この言葉にしたがえばそうなる。

「不正義が行われている状況で、もしあなたが中立でいるのなら、あなたは圧政者の側を選択したことになる」

日本製品の不買運動を取り上げて「韓国で反発が広がっています」と伝えるのも、まるで日本が悪いことをしたようで不公平感がぬぐえない。

 

 

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。