元駐韓大使の武藤正敏氏といえば、韓国を最もよく知る日本人と言ってもいいぐらいの韓国通だ。
その武藤氏がアメーバタイムスの記事で、韓国にとっての正しい歴史についてこう説明している。(2019/8/8)
韓国の歴史的研究というのは、事実を突き詰めることよりも自分たちの主張に合った事実をどうやって当てはめていくかというもの。
“少女像”の公的展示に元駐韓大使「日本国民を冒涜」、騒動の根本に“主張に歴史を合わせる”韓国のスタンス?
韓国の歴史では事実より先に主張がある。
慰安婦問題なら、「中学生ほどの少女が日本軍の性奴隷にされた」「韓国人女性が日本軍に強制連行された」といった主張がまず“真実”としてある。
その真実に合った事実を当てはめていくと「正しい歴史」が完成する。
でもそれらのピースが必ずしも事実は限らない。
それで武藤氏は、「国民感情は横に置いて、歴史的事実だけを突き止めましょう」という態度が大事だと言う。
たしかに根拠のある事実にもとづいて歴史の議論が行われたら、日韓関係はきっとよくなる。
さて前回、フランスの哲学者ヴォルテール(1694年 – 1778年)の名言を紹介した。
「私はあなたの意見には反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
この短い言葉には表現の自由や民主主義の精神がある。
同時に、事実よりも自分たちの主張を優先するという態度の反対側にある考え方だ。
日本で徴用工問題と呼ばれるものを、韓国では「強制徴用問題」と呼んでいる。
慰安婦問題でも韓国のマスコミは「強制」という言葉をよく使う。
そうしたほうが日本の加害性や韓国の被害性が強調されるから、韓国の国民感情には合っている。客観性より主張や感情が優先されるのが韓国だ。
でもこれだと客観性からは遠ざかるから、事実が見えなくなるという副作用もある。
そんな反日面があるけど、韓国は決してそれだけではない。
国内にはいろんな考え方があって、中には「強制徴用」と反対の意見を持つ人もいる。
感情や主張より真実を優先する人や、日本や韓日関係のために声を上げる人たちもいるのだ。
ただし、その代償は大きい。
韓国の経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究員がジュネーブの国連本部にまで出向き、徴用工問題について「賃金の民族差別はなかった」と主張した。
これは「奴隷のような待遇を受けた」という強制徴用の説とまったく違う。
韓国人が国民感情に反する主張を国際社会の場で唱えると、帰国したらこうなる。
産経新聞の記事(2019/8/6)
7月29日、韓国人の男3人が研究所に押し入り、李氏に対して「売国奴」「親日野郎」などと罵声を浴びせ、つばを吐いたという。
強制連行論否定の韓国研究員 帰国後罵声浴びる
警察官が駆けつけたけど、現行犯逮捕することなく釈放されたというから韓国社会の闇は深い。
でも李氏は負けない。
おそらく韓国最大の反日団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯」(旧挺対協)の関係者に公開討論を呼びかけている。
日韓関係を真剣に考えて、「彼らと『戦争』する覚悟を決めた。そういう過程を通じて韓国も変わることができるはずだ」と李氏は語る。
いまの韓国でこんな人がいるというのは何か奇跡を見ているようだ。
いつもは韓国に厳しいヤフコメもこんな勇者には好意的だ。
韓国社会には包容力というか、すごく極端なところがある。
日本大使館前に行って謝罪を求める団体がいれば、逆に、日本に謝罪する団体もあるのだ。
市民団体「母部隊奉仕団」が日本大使館前で記者会見をおこなって、いまの文政権と与党が反日感情を助長していると主張をした。
それだけでも勇者なのに、この市民団体は韓国政府に日本政府への謝罪を要求したというからすごい。
この団体の代表は、「文大統領が頭を下げて日本に謝罪しなければ絶対に解決できない」と発言する。
韓国社会には、公の場でこんな発言ができる包容力もある。
さらにこのあと、「私たちの指導者が無知で日韓関係の全てを破壊している。国民の1人として心から謝罪します」と安倍首相に謝罪までしている。
個人的には「ジャパンボイコット」などの反日活動は止めてほしいけど、日本に頭を下げる必要はないと思う。
「母部隊奉仕団」は会見の様子をユーチューブで公開している。
この人たちも「彼らと『戦争』する覚悟を決めた」という信念の持ち主なんだろう。
でもその代償は大きい。
レコードチャイナの記事(2019年8月7日)を見ると、韓国のネットで袋叩きだ。
韓国市民団体が安倍首相に謝罪「良き隣人に」=韓国ネットユーザーは激怒
「まず日本が韓国にとってどんな存在だったのかを考えるべきだ」
「『母』と言いながらこんなことをして、子どもに恥ずかしくないのか?」
「現大統領の全てを否定し日本の首相に謝罪するのか。どうしようもないな」
「そんなに安倍首相が好きなら日本に行けばいい。韓国に住んでいながら何をやっているのか」
「同じ国の人だということが恥ずかしい」
いま全国的に展開されている「ノーノージャパン」という運動を見てわかるように、韓国は全体的としては反日的だけど、完全な反日社会ではない。
日本に謝罪する「母部隊奉仕団」はちょっと別として、「売国奴」と呼ばれてつばを吐かれても真実を譲らない韓国人もいる。
そんなふうに「国民感情は横に置いて、歴史的事実だけを突き止めましょう」という声が大きくなれば、日本と韓国はきっとうまくやっていける。
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金完燮氏や趙英男氏、朴裕河女史の例もありますし、身辺が心配ですよね。
金完燮氏は当時、脅迫は日常茶飯事、リンチされても近くにいた警官は見て見ぬふりで、亡命してはどうかという声まであったほどですし。
趙英男氏も全国放送のテレビ番組で土下座を強要された挙げ句、事実上の芸能界追放。朴裕河女史は裁判で賠償判決ですからね。
今回の件も応援したいですが、日本側から表だって応援すると、かえって「親日派」「日本の代弁者」として攻撃されそうですし……。
意見や見解を述べるどころか、資料を公表することすら許されないとなると、もうどうしようもない、行き着くところまで行くしかないと思えてしまいます……。
日本人としては応援したい人たちですけど、それをすると韓国で彼らがより悲惨な目にあうでしょうね。
ジレンマです。
でも、こういう人の声を拾って多くの日本人に届けたいとは思います。
韓国にもいろんな声があるのは事実です。