韓国は日本と違って、なんと病院の中に葬儀場があるのだ。
くわしいことはこの記事をどうぞ。
歌手のク・ハラさんが亡くなって、遺体のある病院に殯(ひん)所が用意された。
そんな韓国紙の報道を見て、「殯所」ということばに目が引かれる。
日本で見た記憶はないけど、韓国では一般的にあるものだ。
*「ひんじょ」で漢字変換すると「品所」になってしまう。
それにしても韓国の芸能人には自殺が多すぎる。
「殯(ひん)所」というのは出棺するまでの間、棺を安置しておく場所のこと。
同じ漢字だから、これは日本でいう「殯」(もがり)をするところだろう。
殯とは正式な葬儀の前におこなう仮葬儀のことで、古くは弥生時代に行われていた。
魏志倭人伝にその記述がある。
人が死ぬと、棺はあるが槨のない土で封じた塚を作る。死してから10日あまりもがり(喪)し、その間は肉を食さない。喪主は哭泣し、他の人々は飲酒して歌舞する。埋葬が終わると家の者は水に入り体を清める、これは練沐の如し。
殯(もがり)は日本の伝統的なお葬式の風習で、古事記・日本書紀・万葉集にもその記録がある。
最近では上皇さま(当時は天皇陛下)もそれに触れられた。(平成28年8月8日)
更にこれまでの皇室のしきたりとして,天皇の終焉に当たっては,重い殯の行事が連日ほぼ2ヶ月にわたって続き,その後喪儀に関連する行事が,1年間続きます。
弥生時代の殯は10日ほどだったけど、天皇の場合は2か月間もある。
そしてこれが退位をご決断された理由にもなった。
子供のころ、亡くなった知り合いが動かなくなったことを不思議に思ったことから、映画監督の河瀬直美さんが制作した殯の森という映画もある。
遺体をすぐに埋葬せず、殯(もがり)として長時間、人目にさらしておく理由には次の2つがあると言われる。
・死者の霊魂が災いをあたえることのないように、しっかり鎮魂を行うため。
・死体が腐敗して白骨化するのを見て、生者が死を確認して受け入れるため。
「復活するのでは?」という期待があっただろうし、昔は死を確認する技術が発達していなかったから、「生き返る」ことも多かったという。現代でもまれにそんなニュースがある。
古代の中国や韓国にも殯の風習があったけど、これが中国に由来するかは分からない。
日本の場合は飛鳥時代のあたりから衰退している。
殯の儀式は大化の改新以降に出された薄葬令によって、葬儀の簡素化や墳墓の小型化が進められた結果、仏教とともに日本に伝わったと言われる火葬の普及もあり、急速に衰退する。
この殯の期間が短縮されて現在の「通夜」になったといわれる。
こういう背景や意味を考えると韓国で殯所が用意されることは理解できるけど、病院内に葬儀場をつくるという感覚はやっぱり不思議。
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古代の天皇家でまだ長期の殯が当然だった頃、「暗殺、誅殺、戦死など他人に殺された天皇の場合、殯の期間が全く無いか、もしくは非常に短い」という説があります(例:逆説の日本史、井沢元彦)。
殯とは、「正式な葬儀の前におこなう仮葬儀」と言うよりは、「死者の遺体を傍らに置いた状態で時間をかけて徐々に穢れを祓い清める儀式」といった感じではないでしょうか。殺された天皇の場合はその怨霊が強すぎる穢れを有しているため、人の力で祓うことは不可能だと、したがって一刻も早く埋葬してしまうしかないと考えられていたのかもしれません。
殯の解釈はいろいろあると思います。
「正式な葬儀の前におこなう仮葬儀」というのは複数の辞書を見て抽出した表現です。
日本の場合は神道の影響で特に穢れが関係しているように思います。
井澤元彦さんの逆説の日本史はわたしも好きです。