【欧州と日本の違い】神道が仏教に“ハイジャック”されなかった

 

今週の14日はいよいよバレンタインデー。
決戦は金曜日だ。

このバレンタインデー、3世紀に殉教したローマの司祭バレンタインにちなんでキリスト教の記念日となっているけど、もともとの起源は別にあった。

結婚の女神ユノのために行われていた、古代ローマのルペルカーリア祭に由来するという説があるのだ。

この祭りは現在のバレンタインデーの源流である。当初は、キリスト教からすれば異教の神々の祭りであり、現在のバレンタインデーのようなキリスト教色は全くなかった。

ルペルカーリア祭

 

クリスマスやハロウィンも、元はキリスト教とは別の宗教の行事だったというのが定説。
くわしいことはこの記事を。

【キリスト教の文化】ペイガニズムを乗っ取った結果ですか?

 

前にアメリカ人とイギリス人と話をしているときにそんな話題になった。
このときアメリカ人は、キリスト教がペイガニズム(キリスト教前にヨーロッパにあった信仰や宗教)の文化を「テイクオーバー(乗っ取った)」と言って、イギリス人は「ハイジャックした」と表現する。
「ハイジャック」のこういう使い方を初めて聞いた。

クリスマスはキリスト教がペイガニズムの文化を乗っ取った結果なら、仏教徒がそれに便乗するのも五十歩百歩だ。

キリスト教がいろいろなものをハイジャックした結果、現在あるキリスト教文化の中で、どれがペイガニズムに由来するものかは普通の人ではわからないという。

 

 

ヨーロッパのキリスト教とペイガニズムの関係を日本で例えると「仏教と神道」になる。

仏教が外から伝わった世界宗教であることに対して、神道はその前から日本にあった民族宗教だ。

ヒンドゥー教、神道、タキトゥス描く所の民族大移動前のen:Germanic paganism、カエサル描くケルトの多神教、古代ギリシア及び古代ローマの宗教がこれに属する。

ペイガニズム

 

ヨーロッパと違って、日本では神道が仏教にハイジャックされることはなかった。
これが日本の宗教の大きな特徴になっている。

でも、仏教が日本へ伝わった6世紀に、神道が仏教に乗っ取られる危機はあった。
このとき仏教信仰をすすめる蘇我稲目は、「西の諸国はみな仏を礼しております。日本だけこれに背くことができましょうか」と欽明天皇に進言する。
それに対して反対派の物部尾輿(おこし)らは、「我が国の王の天下のもとには、天地に180の神がいます。今改めて蕃神を拝せば、国神たち(神道の神々)の怒りをかう恐れがあります」と言って対立する。
これがいわゆる「崇仏論争」だ。

意見が真っ二つに分かれたのをみて、欽明天皇はとりあえず稲目へ仏像を預けて礼拝させてみた。
仏教を信仰したらどうなるか、様子をみようと考える。
するとそのあと疫病が流行。
仏教反対派の物部尾輿(おこし)が「仏教を受け入れたことで、国神が怒っているためだ」と主張したのは言うまでもない。
こんな不幸が起きたことで仏教の「お試し期間」はすぐに終了して、仏像は捨てられて寺は破壊された。
*この仏像が長野の善光寺へ運ばれて、いまも祀られているという。くわしいことは善光寺の概要を。

そんなことが日本書紀に書いてあるけど、実際には仏教とは関係なく、蘇我氏と物部氏の政争だったという説もある。

でもこのあと、稲目の子である蘇我馬子と聖徳太子がタッグを組んで物部氏を攻め滅ぼしたことによって、仏教は天皇に認められて日本へ広く布教されることとなる。
聖徳太子が四天王像に戦勝を祈願して、戦いのあとで四天王寺(大阪)を建てた。

くわしいことは丁未の乱(ていびのらん)をクリックですよ。

 

それでも神道が仏教にハイジャックされることはなく、神と仏は同時に崇拝されるようになった。
「神を敬い仏を尊ぶ」という聖武天皇の言葉はいまの日本人の宗教観と変わらない。

その後の長い日本の歴史のなかで、神道と仏教が平和共存することは“なかった”。
両者がごちゃ混ぜになって信仰される、日本人独特の信仰スタイル「神仏習合」が進んで行く。
それで現代では神と仏の区別がよく分からない日本人も多いのだ。

 

 

これと同じことで悩む外国人もいる。
仏教(お寺)と神道(神社)の違いが分からないというアメリカ人やイギリス人には、いままでに何人も会ったことがある。
タイには仏教があって神道はないから、分かりやすそうな気もするけど、知り合いのタイ人は自信をもって区別することができない。

「鳥居があるのは神社」と覚えていたインドネシア人は京都の清水寺の境内で、鳥居があるのを見て「ここはどっちですか?」と迷路に迷い込んでいた。
神道が仏教にハイジャックされて吸収されていたら、こんな事態にはならなかったはずだ。

 

 

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キリスト教 「目次」

イスラーム教 「目次」

ヒンドゥー教・カースト制度 「目次」

日本人の宗教観(神道・仏教)

 

4 件のコメント

  • 当初導入時には色々摩擦もあったかもしれないが、最終的には神道が仏教にハイジャックされずに済んだ理由。そこには、中東起源世界3大一神教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)が「一神教であること」もその理由の一つじゃないでしょうか。彼らの宗教における布教と発展の歴史は、暴力による征服の歴史と言ってもほぼ間違いありません。一神教の信者は、「自分達の神こそが唯一の神であり、異教徒の信じる神(あるいは信じ方)は邪教であり、打ち倒し、滅ぼし、征服して、自分達の正当な宗教を広めるべきだ」という狭小で暴力的な考え方に傾きがちです。他人に被害を及ぼし不幸にする考え方がどうして宗教なのか?
    この一神教の特徴こそが、カール・マルクスの喝破した「宗教こそは人類のアヘン」という言明に合致するものです。おそらく、カール・マルクスも仏教を対象としては、そのような表現をしなかったことでしょう。

  • そうか、白人文化は自分たちの価値観を押し付けるきらいがあるけども、そもそもでゆうと欧米文化の根本であるキリスト教が乗っ取りから始まってるからそらそうか。侵略して支配するってのがベースにあるのか。オレはこれを一神教であることによる弊害やと思ってる。

  • 他の神を認めない一神教の性質はもちろん影響しています。
    ただ韓国やタイ、カンボジアなどでは仏教が伝来する前の宗教がいまではほぼ消えうせています。
    その点、日本はやっぱり違います。

  • 「乗っ取り」でいえば、仏教にもそんな傾向はあります。
    タイや韓国では仏教前の宗教や信仰がいまではほとんどありませんから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。