新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ日本に突如として登場して、たちまち全国区の人気者となった妖怪アマビエさん。
江戸時代に肥後国(熊本県)で現れたこの妖怪は、「私は海中に住むアマビエと申す者なり」と礼儀正しく自己紹介をしたあと、「疫病が流行したら、私の姿を描いて人々に見せなさい」と言い残して海中へ姿を消したという。
それでアマビエは疫病除けの妖怪として知られるようになり、けっこうカワイイ外見が現代人に受けて、いまでは商品化されてまんじゅうやTシャツなどのグッズが売りに出されて、厚生労働省のキャラクターにまで上り詰めた。
いま一番ホットな妖怪だ。
アマビエについてくわしいことはこの記事を。
「私の姿をみなに伝えなさい」という言葉から、自己流のアマビエを描いて拡散する「アマビエ・チャレンジ」が流行っている。
アマビエのように疫病除けの妖怪なのに、知名度では遠く及ばない残念な妖怪で「件(くだん)」がいる。
同じように江戸時代に広く知られるようになって、人の言葉を理解して話す妖怪なのに、いまではアマビエに人気を独占されたこの不遇な妖怪をこれから紹介しようと思う。
この人物はいまの東洋大学を設立した教育者の井上 円了(いのうえ えんりょう:1858年 – 1919年)。
妖怪に興味があって深く研究した円了は『妖怪学講義』などの本を世に出して、「お化け博士」とか「妖怪博士」なんて呼ばれた変わり者でもある。
円了は日本の妖怪を次のように分類した。
真怪:当時の科学では解明できない妖怪
仮怪:自然現象によって実際に発生する妖怪
誤怪:誤認や恐怖感など心理的要因によって生まれてくる妖怪
偽怪:人が人為的に引き起こした妖怪
アマビエと下の件(くだん)は誤怪か偽怪と思われ。
記録に残る「件」の最古の例は江戸時代後期、天保7年(1836年)の瓦版で報道されたもの。
アマビエとの差はcuteか不細工。
瓦版はいまでいう新聞で、これによれば天保7年12月に丹後国で人面牛身の怪物「件」が現れた。
その瓦版にはこう書いてある。
「宝永2年12月にも件が現れ、その後豊作が続いた。この件の絵を貼っておけば、家内繁昌し疫病から逃れ、一切の災いを逃れて大豊年となる。じつにめでたい獣である」
災いを避けて幸福をもらたすのだから、件はオソロシイ姿をしているけど実は頼れるいいヤツ、吉獣だったのだ。
さてこの報道の背景だけど、このときには天保の大飢饉で飢えに苦しむ人が続出していたから、豊作への期待を持ちたいという願いがあったとの指摘がある。
ということは件は偽怪の妖怪か。
件はその後の日本でも現れて、慶応3年(1867年)の瓦版には「出雲の田舎で件が生まれ、『今年から大豊作になるが初秋頃より悪疫が流行る。』と予言し、3日で死んだ」と書かれている。
「この瓦版を買って家内に貼り厄除けにして欲しい」と人面牛身の件の絵が描かれていたから、これは便乗商売だけど、いまとなっては件の絵画史料として高い価値がある。
ゴミも150年間保存すれば、宝になったりする。
明治42年の『名古屋新聞』には、家畜の牛が人の顔を持つ子牛を産んで、その件が「日本はロシアと戦争をする」と予言をして死んだという記事がある。
また明治から昭和初期にかけては、件の「はく製」が見世物小屋などで公開されていた。
件はかわいそうな妖怪で、一説には必ず当たる預言をするけど、それをするとすぐに死んでしまう。
だからアマビエもいいけど、たまには薄幸の件も思い出してあげてください。
ちなみに件の言うことは絶対に正しいから、「件のごとし」という言葉が生まれたという。
水木しげるさんが描いた件
最近ではアニメ「虚構推理」にも件が出てきた。
英語版ウィキペディアでも紹介されているから、海外の妖怪・ミステリー好きの間ではわりと有名かもしれない。
During World War II, many rumors were spread about prophecies regarding the war and air raids. In 1943, a kudan was said to have been born in a geta shop in Iwakuni. This kudan predicted that “the war will end next year, around April or May.”
第二次世界大戦中に件が現れて、戦争や空襲などに関する予言をしたという噂がいくつもあったという。
だから件はやっぱり、人びとの願いや期待が生んだ妖怪なのだ。
1943年(昭和18年)には岩国市の下駄屋で件が生まれて、「来年の4、5月ごろには戦争が終わる」と予言したという話がある。
知人のアメリカ人に件のことをおしえると、ギリシャ神話にでてくる半人半獣のケンタウロスみたいだと言う。
ギリシャ人には乗馬の文化がなかったから、馬に乗った騎馬民族のスキタイ人と戦って、彼らを怪物視したという説がある。
するとこれは誤怪だ。
こちらの記事もどうぞ。
>件はかわいそうな妖怪で、一説には必ず当たる預言をするけど、それをするとすぐに死んでしまう。
>第二次世界大戦中に件が現れて、戦争や空襲などに関する予言をしたという噂がいくつもあったという。
ブログ主さんは、このエピソードを主題としたSFホラー小説、小松左京作「くだんのはは」をご存じないですか? ものすごく怖くて悲しい話。傑作です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%AF
おそらく私が少年期に読んだ小説の中では最も恐怖を感じた作品の一つ。
当時のイメージ(自分の想像だけなのですが)が脳裏に焼き付いていて、絶対に忘れることができません。
どれほど「戦争反対」を主張する政治的メッセージよりも、この小説の方が説得力がありました。
ある意味、今のこの世の中の状況下では、その怖さがひとしおです。
件って可哀想。 予言したら死んじゃうなんて(><。) 件にも光が当たるといいな♪
イラストレーターのブロガーさんにリクエストしてみます。 この前アマビエを描いて更新してたしリクエストも受け付けますって書いてたので。 水木さんの件はカワイイですね♪
アマビエと件がいっぱい居たら日本はコロナに勝ちそうな気がします(*^^*)
円了氏の日本の妖怪の分類はとってもわかりやすいです。
それにしても海外にも妖怪は有名なんですね~。 びっくりです。
私は「虚構推理」というアニメで初めて件を知りました。
だからここ最近の話です。
小松左京がこんな小説を書いていたのは初耳です。
たしかに件は題材になりやすい興味深い話ですね。
件って、見た目でかなり損してますよね。
海外で日本の妖怪好きはけっこういるようで、ウィキペディアやいろんなメディアで紹介しています。
これは意外でした。