「疫病退散」に見る日欧の文化:イタリアではピッツィカの踊り

 

いま世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。

こいつは本当にやっかいで、日本でも「よっしゃー!おさえ込んだ!」と思って外出規制を解除したら、また広がり始めたでござるの巻。

これに対抗するため日本では、疫病除けに「効果」があると言われる江戸時代の妖怪・アマビエが復活して、和菓子やぬいぐるみなど各種グッズのデザインに採用されて一大ブームとなった。

 

江戸時代に現れたというアマビエさま

 

命を奪う可能性のある病気を恐れる気持ちは人類共通。

だから病気除けや疫病退散の発想は世界中にあって、例えばドイツ(というかカトリックの発想)では、伝染病患者の守護聖人「聖コロナ」がいて、いまのコロナパニックが落ち着いたらドイツのアーヘン大聖堂で「聖コロナ」の遺物が公開される予定という。

以上、アマビエと守護聖人についてくわしいことはこの記事をどうぞ。

【日本人と西洋人の発想】アマビエとキリスト教の守護聖人

 

疫病対策として日本では妖怪、ドイツでは守護聖人が登場するところに文化の違いがよく表れている。
日本ではそこらじゅうに神や妖怪がいるから、人間の願いをかなえてくれる(と言われる)存在を探すのはむずかしくない。

さてドイツの南、イタリアに目を向けるとコロナ退散のためにダンスを踊るようだ。

日本語ペラペラのイタリア人がSNSにこんなメッセージを投稿していた。
*すこし不自然なところもあるけど、原文をそのまま載せようと思う。

「この動画では、新型コロナウィルスに応じた社会隔離の時期の間、プッリャ州レッチェ市の人がわずかしかいないある広場で女性が疫病を祓い落とすように独りでpizzica(ピッツィカ)という民俗舞踊を踊り出します。日本人の皆様、pizzica をご存知ですか。プッリア州は私の住んでいる州じゃないんですが、イタリア人は pizzica と言えばプッリア州のサレント地方を連想します。南イタリアです。」

ピッツィカ(pizzica)とはプッリャ州のサレント地方に伝わる伝統的な踊りのことだから、これはイタリア全体の文化というわけではない。
サレント地方には、むかし毒グモにかまれた女性が毒を抜くために踊り続けたという言い伝えがあって、それが現在のピッツィカの踊りになったという。

イタリア語で「刺す」を「pizzicare」というから、pizzica(ピッツィカ)も語源は同じでは?

*この「毒クモ伝説」はイタリアの港町タラントにあって、毒クモの「タランチュラ」はこの港町に由来する言葉といわれる。
これはまー別の記事で書きますよ。

でも、そこはイタリア人らしく(ステレオタイプ?)、気になる女性を口説くために男性がピッツィカを踊ることもあったとか。

 

これがコロナウイルスを「祓う」ために、数か月前にレッチェ市で披露されたピッツィカ。

 

「コロナ退散」のためかひとりで踊っているけど、ふつうピッツィカはペアで踊るダンスだ。

英語版ウィキペディアくわしい説明がある。

The traditional pizzica is a couple dance. The couple need not necessarily involve two individuals of opposite sexes, and often two women can be seen dancing together.Nowadays it has become rare to see two men dancing an entire pizzica.

Pizzica

 

伝統的なピッツィカはカップルダンスだけど、必ずしも異性である必要はなくて、2人の女性が踊っているのはよくある。
でも、男性同士のピッツィカはめったにない。
「two men pretend to be engaged in a duel」と、2人の男が決闘(duel)をするフリをして踊ることもあるらしい。
これもイタリアの伝統っぽい。

決闘をあらわすデュエル(duel)は、カードゲームなんかですっかり日本にも定着した。

 

ピッツィカ

 

ということで「疫病退散」として日欧にはこんな文化があるわけだ。

日本ではアマビエさまにお願いする。
ドイツでは守護聖人に祈る。
イタリアではピッツィカを踊る。

どれでも好きなものを選んで実践してほしい。
でも日本人ならやっぱり、アマビエ饅頭を食べてパワーをもらうとか、身近にアマビエグッズを置くのが合っているとおもう。

 

 

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1 個のコメント

  • >サレント地方には、むかし毒グモに噛まれた女性が毒を抜くために踊り続けたという言い伝えがあって、それが現在のピッツィカの踊りになったという。
    >この「毒クモ伝説」はイタリアの港町タラントにあって、毒クモの「タランチュラ」はこの港町に由来する言葉といわれる。

    毒グモに噛まれた直後に踊ったりしたら、毒を抜くどころか、かえって早く毒が全身に回ってしまうような気がするのですが?

    イタリア南部に伝わる「タランチュラ」のダンスと音楽、おそらく、イタリア半島南端に位置するシシリー島にも、同じ伝統が伝わっているのだと思います。映画「ゴッドファーザー」の冒頭のシーン、コルレオーネ・ファミリーの長女の結婚式の披露宴で人々が賑やかに踊っているのが確か「タランチュラ」のダンス音楽です。
    続編「ゴッドファーザー Part2」では、冒頭、ネヴァダへ移住したコルレオーネ・ファミリーのミード湖畔でのパーティの会場で、主人公マイケルの叔父であり部下でもあるドン・チッチオが音楽隊に「タランチュラ」の演奏を要求するも、その音楽を楽団員が知らなくて、そのことを嘆くというシーンがあって、第1作からの時代の流れが表現されていました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。