外国人の明治日本の第一印象/「ぼったくり」は米騒動から

 

「日本にいる外国人は斬る!」なんてサムライ・テロリスト(攘夷派の浪士)が消えて明治の世の中となり、日本が外国人旅行者を受け入れるようなったころ、イザベラ・バードというイギリス人女性がやってくる。

船が横浜港に着いたときの印象を彼女はこう記している。

わたしの受けた第一印象は、この国はよく統一されているというものです。上陸したとたん、サンパンや人力車の料金表、掲示板の広告文(中略)それにこれも言わなければならないでしょうか。ぼられることがまるでないのです!

「イザベラ・バードの日本紀行  (講談社学術文庫) 」

イザベラ・バード

1878年(明治11年)に東京から北海道まで旅した、この女性冒険家についてくわしいことはここをクリックですよ。

その宿屋(やしま屋)の大変清潔である様を、埃まみれの人間ではなく妖精が似合う宿であると形容し、1泊したうえで金谷邸への帰途に就く。
山形県南陽市の赤湯温泉の湯治風景に強い関心を示し、置賜地方を「エデンの園」とし、その風景を「東洋のアルカディア」と評した。

イザベラ・バード

現在の南陽市民が「東洋のアルカディア」と聞いてどう思うか。

 

このイギリス人の日本の第一印象は「ぼられることがまるでないのです!」というスバラシイものだった。
なんでこんな話を紹介したかというと、今週の木曜日7月23日は「米騒動の日」たから。

この騒動がおきたころ、1918年(大正7年)の日本では、米の価格が急激に上がっていて市民が日々の生活にも困窮していた。
大阪堂島の米市場の記録によると、1918年の1月に1石15円だった米価が6月には20円を超えて、翌月には30円を突破している。

米価が半年で2倍以上になったら、現代の日本でもパニック状態になるのは必然。

特に肉体労働者が米を必要としていたけど、困ったことに、そういう貧しい人ほど米が手に入りずらい。
そしてこの年の7月23日、富山県の主婦らが米を求めて市役所に押しかけた。

そのときの様子について『北陸政報』は、「杖にすがったむさ苦しい婆さん達もあれば子供の手を曳いた女房連」もいて、「昨今の米高が如何に細民をして生活難に陥らしめているが窺われる」と書いている。

当時こんな思いをしている人は日本中にいたから、米を求める騒ぎが全国に広がっていき、いまの歴史教科書にある「米騒動」に発展した。
万国の労働者よ、団結せよ!」という共産党宣言と同じ思いだったかも。

怒り狂った全国各地の民衆をおさえるのに警察だけでは不可能で、政府は10万人以上の軍隊を投入し、やっとこの騒ぎを鎮圧した。それでも30人の死者と多数の負傷者を出す惨事となり、事件の責任をとって寺内内閣は総辞職する。

 

この背景には「ぼったくり商人」の存在がある。
米価格がグングン上がるのを見て大もうけをたくらんだ米商人が、売り惜しみや買い占めをするようになったことが米騒動の大きな原因だ。
これは人災と言っていい。
政府は1917年に「暴利取締令」を出して、米・綿・薬品などの買い占めを禁止したけど、金の亡者には蛙の面に水、まったく意味はなく米価の上昇は止まらない。
いまの日本人が使う「ぼる」(暴る)という言葉は、この「暴利取締令」の「暴利」を動詞にして生まれたのだ。

ソースは由来・語源辞典

 

だから「ぼったくる」「ぼったくられる」という言葉には、大正時代の民衆の怒りが込められている。

法外な利益を求める一部商人のせいで米価が急上昇したら、令和の日本人でも暴れだす。
店が襲われることはないとしても、つぶれるまでネットでたたかれるのは必至。

 

米騒動で燃やされた神戸の商店

 

いまの日本でこんな騒ぎはもはやおこらないけど、新型コロナの感染拡大でマスクが手に入りにくくなったときに、全国で「ぼったくり」が横行した。
あまりの高額に国民から批判が上がると、業者や個人は10枚や5枚の小分けにして売って、結局はぼったくり価格と同じ利益を得ていたし、「これは良心的な値段だ!」と思ったら実は使用済みマスクだったとか、あきれるほどいろんなチート行為が登場した。

1箱約500円のマスクに栄養ドリンクなんかを付けて、約9000円で販売するドラッグストアもあったとか、大正時代から日本がどのていど進歩したか謎。

いつの時代でも悪い奴らはいるけど、「わたしの受けた第一印象は、この国はよく統一されているというものです。ぼられることがまるでないのです!」という日本は守っていきたい。

 

 

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1 個のコメント

  • >置賜地方を「エデンの園」とし、その風景を「東洋のアルカディア」と評した。

    「エデンの園」が旧約聖書に記されたアダムとイブの暮らしていた理想郷であることは、日本人でも知っている人が多いと思いますけれども。「アルカディア」も同様に、ギリシャ神話に出てくる「理想郷」のことだと知っている人は、特に日本人には、あまりいないんじゃないでしょうか。
    今の若い人達にとっては、ゲーム「モンスター・ストライク」に出てくる「アルカディア【爆絶】」かな? 少し前だと、キャプテン・ハーロックの宇宙海賊船「アルカディア号」とか?
    「アルカディア」は、欧米の小説や映画において「場所の名前(=アカディア)」「女性の名前(=アーケイディア)」としてよく使われる単語ですね。アジモフ「銀河帝国シリーズ:第二部」において、人の心を操る超能力者を打ち破った若い女性(活発な女の子)が「アーケイディア」という名でした。それと、「赤毛のアン」の舞台となったカナダのプリンス・エドワード島を含む地域が「アカディア」であり、ケベックと同様に、カナダに属するフランス語圏です。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。