【外国人のカン違い】過激派テロと神風・真珠湾攻撃との違い

 

きょうは9月11日なので、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロについてもうひとつ記事を書こうと思う。

911テロは21世紀にイスラーム過激派が起こしたテロ事件だけど、アメリカ人やほかの外国人はこれを、半世紀前に起きた太平洋戦争の日本と比較することがよくありやがる。
両者は本質的にはまったく違うけど、「見た目」やアメリカ人が受けた衝撃は似ているから。

例えばことし4月、アメリカで新型コロナウイルスの感染が広がったとき、政府の公衆衛生政策を担当するアダムス医務総監が国民にこう呼びかけた。

「真珠湾攻撃と911の同時多発テロ事件と同じような時だ。多くの国民にとって人生の中で最も困難な時を迎える」

「もし感染の拡大を抑え込みたいなら、国民全員がみずからの役割を果たさなければならない」

ソースはこのNHKニュース(2020年4月7日)

「今週1週間 真珠湾攻撃や同時多発テロと同じ」米 医務総監

 

いまもあるか知らないけど、同時多発テロのあとシカゴの高速道路に「アメリカは決して忘れない。2001年9月11日と1941年12月7日を」という巨大な掲示板が建てられた。

1941年12月7日は日本軍による真珠湾攻撃がおこなれた日で、日本との戦争がはじまった日になる。(日本時間では12月8日)

2001年にニューヨークのワールドトレードセンターに、テロリストに乗っ取られた旅客機が突っ込んで爆発炎上したシーンは、多くのアメリカ国民に真珠湾の奇襲を思い起こさせた。

 

旅客機が激突したワールドトレードセンター

 

日本軍の爆撃を受けた戦艦アリゾナ

 

イスラーム過激派による911テロに日本の奇襲攻撃を重ねることは他の国でもあって、フランスメディアのル・モンド紙(2001年9月13日付)は「“真珠湾”テロ」という見出しの記事を書きやがります。

L’Amérique sous le choc d’un «Pearl Harbor» terroriste

世界的に、特に第二次世界大戦で日本とたたかった連合国では、真珠湾攻撃は「日本によるだまし討ち」「卑怯な行為」という認識が一般的にあるから、フランス人も911テロと真珠湾を結びつける。

 

でも、真珠湾攻撃の場合はちょっと違うゾ。
攻撃がはじまる10日前、スチムソン陸軍長官が日記にこう書いた。

「差し迫った日本との戦争の証拠について議論するために、ルーズヴェルト大統領に会った。問題は、『我々にあまり危険を及ぼさずに、いかにして彼ら(=日本)を先制攻撃する立場に操縦すべきか』」

こうした資料から、日本との戦争を“望んでいた”アメリカは、事前に真珠湾攻撃を知っていたという説(真珠湾攻撃陰謀説)もあるのだ。
でも911テロは、こんな議論の余地がないほどの完全な不意打ち。

 

陰謀説は置いておくとして、911テロを真珠湾攻撃と同一視するアメリカ人や外国人はたくさんいる。
でも、イスラーム過激派がおこなったこのテロ攻撃は民間人をターゲットにしたものけど、日本軍の真珠湾攻撃は軍事基地をねらったものだから、両者は本質的にまったくの別もの。
戦争で相手国の軍人を殺害するのはルールの範囲内で、アルカーイダがした一般市民の大量殺害はまさに外道。
両者にはこんな違いがあるのだけど、アメリカをはじめ海外では同一視されることがある。

アメリカ人の場合はこんな大規模な直接攻撃は歴史上、きっと真珠湾以来で、言葉にならないほどの衝撃を受けたのだろう。
それでアメリカではリメンバー・パールハーバーになぞらえて「リメンバー9/11」という言葉がうまれた。

 

アメリカの同時テロを伝える先ほどのフランス紙には、別の記事の見出しで「カミカゼ」という言葉を使う。

Les attaques kamikazes révèlent les failles de la sécurité aérienne

旅客機をビルに激突させるのを、神風特攻隊の攻撃と重ねたのはアメリカメディアも同じ。
これに限らず、イスラーム過激派による自爆攻撃を「カミカゼ」と表現する外国メディアはよくある。もはやこれは国際語。

でもこれも真珠湾攻撃と同じで、神風特攻隊は民間人をねらったことは一度もない。
自爆攻撃ではあるけれど、市民の犠牲者はゼロだから、過激派のテロ行為とは“見た目”が似ているだけで目的や思想がまったく違う。
でも残念ながら、海外ではよく「同じ」とみなされる。

真珠湾攻撃でも神風特攻隊の攻撃でも、日本軍は民間人をねらったことは一度もないから、卑劣なテロ行為とは明確な一線を引いている。
日本人なら、ご先祖がしたことは正しく理解をしておこう。

 

 

 

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4 件のコメント

  • >こうした資料から、日本との戦争を“望んでいた”アメリカは、事前に真珠湾攻撃を知っていたという説(真珠湾攻撃陰謀説)もあるのだ。

    米国の一部上層部が攻撃開始前に知っていようがいまいが、正式に宣戦布告をしないうちに真珠湾を攻撃したのは日本軍です。当時ハワイに住んでいて、不意打ちの先制攻撃を受けた米国側にとっては、真珠湾攻撃は卑怯なやり方だった、その一言でオシマイです。

    >でもこれも真珠湾攻撃と同じで、神風特攻隊は民間人をねらったことは一度もない。
    >自爆攻撃ではあるけれど、市民の犠牲者はゼロだから、

    もちろん、戦争行為ですから、民間人を「あえて狙った」ことは一度もないでしょう。ですが、本当に民間人の犠牲者はゼロだったのですか? 真珠湾の当時だって、軍事基地にも多数の民間人(たとえば「軍属」と呼ばれる人達や軍人の家族とか)がいたと思いますが? ケガ人の一人もいなかったのですかね?

  • >ですが、本当に民間人の犠牲者はゼロだったのですか? 真珠湾の当時だって、軍事基地にも多数の民間人(たとえば「軍属」と呼ばれる人達や軍人の家族とか)がいたと思いますが? ケガ人の一人もいなかったのですかね?

    軍属は、基本的に民間人ではありません(日米地位協定においては民間の米軍関係者を指す)。軍人ではないですが、軍には属しています。ですから、戦闘員です。戦闘で殺害する分には問題ありません。

    また話題を逸らすようではありますが、原爆投下と東京大空襲は完全に民間人の虐殺です。呉や皇居ならいざ知らず市街地への爆撃ですし、特に後者は民家(ほぼ木造)を焼くための空襲です。どう考えても民間人が目標でしょう。戦時国際条約によって戦闘員以外の文民は一応保護されていますから、この時の米軍の行為は完全に戦争犯罪です。

    戦争に善悪を問うべきではありませんし日本も大概(例:風船爆弾 どこに飛ぶかはわからず、民間人数人が死亡)かつとうに解決した問題ですが、無視すべきではないと思います。

  • 東京大空襲で約10万人を殺害した米軍のカーチスルメイはこう言いました。

    「もし戦争に敗れていたら私は戦争犯罪人として裁かれていただろう。幸運なことにわれわれは勝者になった」

    結局、勝った側は裁かれません。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。