日本人には違和感?アメリカの政教分離:大統領と聖書と軍隊

 

この前、ニューヨーク出身のアメリカ人から見た日米の違いについて書いた。

NY出身のアメリカ人が話す日本との違い「グルメ・差別・銃」

日本に比べてアメリカにはいろんな食べ物があって楽しいけど、人種差別は日常茶飯事だし銃が出回っているから生活するなら日本の方がいい、というのが彼の意見。

これとは別で日本に住んでいる生粋ジャパニーズのボクからすると、日本とアメリカでは宗教と政治の距離感がぜんぜん違うとよく思う。

だからこの時事通信の報道(2020/06/03)のように、日本ではあり得ないようなことが起こる。

トランプ氏は「聖書に反する」=宗教界から批判相次ぐ―米抗議デモ

日本の首相が「仏典に反する」という理由で仏教界から批判が相次いだ、というニュースは聞いたことがない。
あったとしてもそれは例外的少数、ほとんど個人的な主張だろう。

いまアメリカでは人種差別的な白人警官が黒人男性を暴行死させたとして、全国各地で抗議デモが発生している最中だ。
一部では暴動に発展し、店が破壊されて商品が略奪される騒ぎまで起きている。
略奪や放火に備えるために市民は家にいる必要があるということで、25都市で夜間の外出禁止令が出た。

 

暴動には物理的な力で対抗するのは仕方ないとしても、トランプ大統領は平和的なデモに対しても強硬で強い警察力や軍事力をぶつけようとしていて、先日教会を訪れたときにとったこのパフォーマンスに宗教界から批判の声が上がった。

トランプ氏は1日夕、ホワイトハウスを徒歩で出ると広場を挟んだセント・ジョーンズ教会へ向かい、聖書を片手に教会前で報道陣にポーズを取った。「治安回復」をアピールする狙いからで、その直前、広場にいた平和的なデモ参加者は、夜間外出禁止令の発動前にもかかわらず催涙弾で強制排除されていた。

 

トランプ大統領の言う「治安回復」とは警察や軍隊による力でデモを封殺すること。
だから聖書を持ってこれをアピールすることに、市民を抑圧して宗教を政治利用することは聖書の教えに反するとアメリカの宗教指導者が怒った。

あえて国民に聖書を見せたということは、神に誓って断固たる決意でデモを鎮圧するという意思表示か?
トランプ大統領は4年前、「私ほど聖書を読む人はいない」と信仰心のあつさをアピールしたけど、好きな聖書の一節を聞かれると「個人的な話なので言いたくない」と答えをはぐらかした。
アメリカ国民の信仰心を政治的に利用している面はきっとある。

 

大統領の”聖書パフォーマンス”を見てイエズス会のジェームズ牧師は、国民に対して軍を出すと脅しながら聖書を振りかざすのは「イエスの教えに反する」と批判し、「聖書は小道具ではない。宗教は政治的手段ではなく、神はおもちゃではない」と言う。

とはいえトランプ大統領を支持するキリスト教のグループは、「彼がそこへ行き、聖書を掲げてくれたことをうれしく思う」とこの行為を支持したから、アメリカの宗教界すべてが批判的ということではない。

日本がアメリカ社会と違うのはこの点で、強大な大統領のもとに政治・宗教・軍隊がからみ合って「三位一体」となることはない。

こんな感じに、反対に反対するということがアメリカではよくある。
ある人の言動に批判的な声が上がって抗議デモが生まれると、今度はそれを批判する人たちが出てきて、「抗議デモに対する抗議デモ」が登場し両者がぶつかり合うカオス状態に突入。
「アメリカあるある」のひとつと言っていいと思う。

映画なら「全米が泣いた」となるけど、政治的・宗教的な意見で全米がひとつになることはまずなく、そんなことがあったら奇跡的でそれこそ全米が涙する。
ただ知人のアメリカ人の話では9・11テロ事件のあと、「反アルカイダ」でアメリカ人は完全にひとつになったらしい。

 

欧米諸国では政治(国家)と宗教勢力を切り離す政教分離の原則がふつうだ。

それで、「アメリカは政教分離の原則を掲げるけど、これはそれに違反してないか?」とよく日本人が疑問に思うのが、新大統領が就任するときに聖書に片手を置いて神に宣誓を誓うセレモニー。

日本人の価値観や考え方からすると政教分離と矛盾しているように見えるから、これに疑問を持つ人は昔からたくさんいる。

 

 

これは首都ワシントンD.Cのリンカーン記念堂に配備された州兵。
民主主義の象徴を軍事力で守っている様子はとてもアメリカらしい。
彼らの”敵”は誰なのか。

 

日本の首都がこんな状態になったのは2・26事件?

 

 

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2 件のコメント

  • >欧米諸国では政治(国家)と宗教勢力を切り離す政教分離の原則がふつうだ。

    ははは、これほど欧米先進諸国を含めた現代世界においてまかり通っている「大ウソ」もないでしょうね。欧米諸国における「政教分離」は完全なタテマエに過ぎません。政教分離なんて全然実現できてない。そもそも「キリスト教民主党」などという類の名前の政党が欧米諸国にはとても多い、それが政教分離ができていないことの証拠です。
    おそらく、日本あるいは中国の方が、歴史的にも現状としても政教分離は欧米諸国よりもずっと進んでますよ。中国なんか、政教分離どころか、宗教を完全な政治の敵と位置付けて、何とかこの「悪魔の思想」を自国内から撲滅しようと国家は必死になっていますが、なかなかそこまで徹底するのは難しいみたいです。
    日本は、織田信長によって政教分離が開始され、現在に至るまで「適度な距離感」を保って政教分離を維持できていると思います。
    歴史的にみると、旧ソ連も政教分離に結局失敗しました。その最大の原因はゴルバチョフの裏切りですね。今のロシアはキリスト教国家です。

    欧米諸国(ならびにイスラム諸国)で政教分離ができない理由、それはおそらく、一神教であることに関係していると思われます。世界3大一神教こそは人類文明の麻薬であり癌でしょうね。
    麻薬に溺れたい民族は溺れていればいいですよ。他国へ迷惑かけない限り、自由です。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。