【ドイツ統一30年】いまドイツ人に聞く、良い点/悪い点

 

日本で「統一」といえば14世紀に、京都の北朝と奈良(吉野)の南朝に分かれていたのを足利義満がまとめた南北朝の統一が有名だけど、いまの世界で「統一」といえばやっぱこれでしょ。

 

 

ベルリンの壁が崩れた翌年の1990年10月5日、東西ドイツが統一されていまのドイツが生まれた。
日本では一般的にこれを「ドイツ統一」と言うけど、ドイツでは動画にあるように「Reunification」(再統一)と表現される。
ドイツで「統一」というのは、1871年1月18日のドイツ帝国の成立を指すから。

くわしいことはドイツ再統一を確認されたし。

 

この偉業から30年をむかえたことで先週、日本の各紙が社説で東西ドイツの統一を取り上げた。

第二次世界大戦後に東ドイツは共産主義、西ドイツは資本主義と別の経済体制でスタートした結果、西ドイツは世界的な経済大国となった一方、東ドイツは西の背中も見えないほど発展が遅れてしまった。
同じ民族でも政治や経済のやり方を間違えると、こうした取り返しのつかない差となる。

日本の南北朝統一では社会的な格差がなかったから対等な立場で統一できたけど、ドイツの場合は東ドイツが自滅して西に吸収されたようなものだから、経済格差が大きな問題となっていた。

でも、現在のドイツはそれをうまく対処していると評価したのが読売新聞(2020/10/5)。

ドイツ統一30年/東西の格差縮小が繁栄導いた

 

メルケル首相が「国民全員が成し遂げた、歴史的に例がない業績に感謝したい」と述べたドイツの現状をみると、1人当たりの域内総生産(GDP)では、旧東ドイツの地域は統一時から4倍以上に伸びて、賃金水準も西の85%まで追いついた。
また東西が統一されたあと、西側へ行く旧東ドイツ国民が続出して、東地域では人口減少に歯止めがかからなかったけど、最近では西側への移住者が減って、東側への流入と釣り合うようになったという。

これをふまえてドイツ政府は東西分裂について「大部分克服された」と強調したけど、国民はいまのドイツや東西統一をどう考えているのか?

このまえ旧西ドイツで生まれ育ったドイツ人とスカイプで話したときに、このことをたずねてみたから、これからこの彼の意見を中心に書いていこうと思う。

日本には直接関係のないことだけど、南北に分かれている韓国と北朝鮮にとっては他人ごとではない。
もし朝鮮半島が統一されたら、韓国人もきっと旧西ドイツ国民と同じことを思うはずだ。

 

日本の粉ものが好きなこのドイツ人が最近買ったもの
南ドイツではタコを食べる人が少ないから、スーパーで売ってるタコはかなり高いらしい。
たこ焼き器より、新鮮で安いタコのほうが入手困難だった。

 

ベルリンの壁崩壊や東西ドイツの統一についてきくと、当時そのドイツ人はまだ子供だったからほとんど記憶がないと言う。
それまで数十年ものあいだ続いていた対立を直接知らなかったから、東西がひとつの国家になった感動やよろこびも特にない。
だから彼の見方は、30代以下の旧西ドイツ国民のものと考えていい。

そんな彼に統一のデメリットについてたずねたら、東西では圧倒的な格差があったから、東側社会のインフラを整備すること、教育水準を押し上げること、生活費を支給することなどにとんでもない額の金がかかったことを指摘する。
いまでもそのための税金を払っていると不満をこぼす。

このドイツ人の感覚では、西と東では全体的に15年ほど遅れていたから、東を西と同水準にするためにはまだまだ時間とお金がかかる。
*ただ新しく整備された部分は、むしろ西より進んでいる場合もある。
この費用を出すのは西側の人間に多いから、彼にとっては統一のメリットは特にない。

また東への偏見については自分の世代より、東ドイツがどんな国だったかをよく知る親世代のほうが強い。
大学を卒業後、就職先で良い条件の企業が旧東ドイツの地域にあったから、親に相談すると「そこはやめろ。東には住まない方がいい」と強く言われてあきらめた。
彼も東に対してはややネガティブなイメージがあるけど、ここまでの悪印象はないから驚いたという。

 

 

ドイツが統一されても、西側で良かったことは少ないけど、社会が急速に近代化した(西に近づいた)東側ではメリットが多かったはずと彼は話す。
そもそも分断されていたころから、西での生活にあこがれ、逃れてくる東ドイツの人たちがたくさんいた。
でもそういう人たちが国境で見つかると、射殺されることもあった。

統一といっても東が西に併合された形だから、東の人をバカにする西側の人間はよくいるし、それを恨みに思う東の人もいる。

「東西の格差縮小が繁栄導いた」と称賛する読売新聞の社説も、旧東ドイツの人間には「2級市民として扱われた」とのわだかまりが消えないと指摘する。
ベルリンの壁が崩れたいま、こうした東西の「心の壁」をなくすことがドイツの課題らしい。
もし韓国と北朝鮮が統一したら、これと同じ問題がきっと生まれる。

ドイツ人から聞いた話で意外だったのは、移民排斥を主張する極右的で差別的な人間は東の地域で多いということ。
このことは読売新聞の社説も書いている。

「反難民」を掲げる新興右派政党が近年、東側で支持を広げているのは、西側を基盤とする既成政党への不満の表れと言える。

 

あくまで西側の見方だけど、東地域を立て直すためにばく大な費用を投じたのに、いま東の人間は移民反対を主張して西に不満を言うのだから、これじゃ「心の壁」はますます高くなるばかりだ。

イギリスはひとつの国家の中に、イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4つの国があるけど、女王という統一のシンボルがある。
ドイツにもそんな統合の象徴があるかきくと、しばらく考えてから、「思い浮かばない。国旗が同じぐらいかな?」と言う。

日本や世界から見ると東西ドイツの統一は画期的な偉業だけど、ドイツ人に話を聞くとこれは始まりで、いろんな問題が噴出していつ解決するかも分からない。

1919年に辛亥革命を成功させた孫文が死ぬ間際、まだ中国の自由平等は実現されていないことに触れて、「現在、革命はいまだ成功していない」と言った。
この言葉を借りれば、ドイツの統一もいまだ途上だ。

 

 

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1 個のコメント

  • ドイツ(再)統一のシンボル、それはおそらく、東ドイツ出身の偉大な女性政治家「メルケル首相」こそがそうなのでしょうね。色々と批判されることもありますが、ドイツ国民の全員に自由と平等を保障し、差別は絶対に許容しないという強い意志は、現在でも世界で群を抜いた理念の政治家ではないでしょうか。
    かつては英国のサッチャーもすごい政治家だと思いましたが、それを上回っています。

    ひるがえって日本は・・・まだまだですねぇ。いろんな意味で。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。