“女子に会った!”で炎上。現代でも通用する鎌倉武士の女性観

 

愛知県犬山市には、世界最多となる約60種850頭を飼育する霊長類動物園の「日本モンキーセンター」がある。

ここは飼育スタッフがSNSでユニークな発信をして話題をよんでいたのだけど、今回は攻め過ぎてしまったらしい。
ある飼育スタッフがツイッターにある投稿をしたところ、「これって女性蔑視では?不快なんだけど」といった批判が殺到する騒ぎに発展し、モンキーセンター側は不適切な投稿をしたとホームページ上に謝罪文を掲載した。

毎日新聞の記事(2020年11月6日)

謝罪文では「多くの方に不快な思いをさせお詫(わ)び申し上げる。添えられた文言によって多くの方を傷つけた事実に弁解の余地はない」としている。

日本モンキーセンターが不適切投稿で謝罪 「女性蔑視」と批判相次ぐ

 

問題となった投稿は10月末のもので、センターにいるサルの「モップ」を見にきた女性について飼育員がこうツイート。

「『モップくんが大好きなんです!』と来園してくださる方は素敵(すてき)なお姉さまばかりだと思っていましたが、なんと!本日初めて『女子』にお会いしました!!」

ここでいう「素敵なお姉さま」というのは人生経験のある女性で(推定年齢40歳以上)、「女子」は20代の若い女性のことだろう。

これに対してツイッター上では、

「このツイートを公式アカウントで投稿する意味を考えてください。差別と侮蔑入ってますよ?」
「時間がたてばたつほど、このツイートは気持ち悪い」

といった怒りコメントが寄せられ炎上し(抗議の電話もアリ)、センターは投稿を削除して「多くの方を傷つけた事実に弁解の余地はない」となったワケだ。
にしても、「弁解の余地はない」という所長の潔さは侍レベル。

これにネットの反応は?

・そんなに怒ること?
これ男女逆だったらスルー案件でしょ
・婦女子にお会いしました(爆)
とかならねえ・・・
・イケメン ← これは差別にならないんですか?
・男はおじさんって自覚してないだけだし、年齢より地位や学歴を見下されたら傷つく生き物じゃん
・職場で勤務中に「若い美女キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」って
客を品定めするようなことを客に向かって発言する従業員ちょっと頭おかしい
・ばばあだけどそこまで怒るもんなの?これ??わからんわ…気にもならん、笑うとこやろ…

 

 

さっき偶然、侍という単語が出てきたから(ええっ!)、ここからは鎌倉時代の女性に対する武士の認識や見方を紹介しよう。

幕府と朝廷が激突した日本の歴史上、唯一の戦いが13世紀におきた承久の乱。
このとき総大将をつとめて朝廷側を圧倒し、その後の武士(幕府)による全国支配を確立した北条泰時の弟に、北条重時(ほうじょう しげとき)という武士がいる。
重時は第3代執権の泰時から第5代執権の北条時頼を補佐して、鎌倉幕府による政治の安定に大きく寄与した人だ。

重時の統治は民心を重視した公平・中立なもので、当時の日本人から高い評価を受けていた。

任務に対して迅速・公平・厳格に務めた。重時の念仏信仰を攻撃した日蓮も、重時個人の人物については「極楽寺殿はいみしかりし人」(立派な人物)と好意的な見方をしている

北条重時

*極楽寺殿は重時のこと。

 

重時の画像がなかったので、参考までに北条泰時の像を載せとこう。

 

北条重時は「極楽寺殿御消息(ごくらくじどのごしょうそく)」という武家の家訓をつくったことでも知られている。
これを見ると、当時の武士の理想とする考え方や行動がわかる。

彼の家訓からは、頼朝およびその周辺の武士たちの生き方が強くにじみ出ていると思ってよい。

「日本人とは何か。山本七平 (PHP文庫)」

 

この家訓の中で「女わらべとて、いやしむべからず。天照大神も女躰にておはします」と、相手が女や子供だからといって侮辱してはいけない、天皇の先祖神である天照大神は「女体」だったと北条重時は言う。

フェミニスト(?)の重時は、武士として女性にはこう接しろと説く。

いかなる賤の女なりとも、女の難をいふべからず。(中略)よき事をば申も沙汰すべし(よい事なら言って評判にしてもよい)あしきをかくし給ふべし。是を思ひわかぬ人は、わが身にはぢがまし事有べし。すこしも高名ならず。

「日本人とは何か 山本七平 (PHP文庫)」

 

身分の低い女性でも、相手を傷つけるような欠点を言ってはいけない(女の難をいふべからず)。
女性の良いところなら言って世間の評判にしていいけど、悪いところは隠しておきなさい。
北条重時は武家の家訓としてこう言い残した。

「女・子供を軽く見てはいけない」「どんな女性にも配慮して、その美点だけを口にしなさい」といった鎌倉時代の武士の女性観はそのまま現在の日本にも通用するはずだ。
ほかにも、近くで葬式があったら決して笑い声を立ててはいけないといった教えもあって、重時はこの時代の武士に、争いのきっかけを作らないよう周囲に配慮して行動することを求めている。

「日本モンキーセンター」の飼育員が重時の教えを知って守っていれば、「なんと!本日初めて『女子』にお会いしました」なんてツイートはしなかった。かも。

 

 

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1 個のコメント

  • 確かに、幕府方の総大将となって朝廷側を一撃で粉砕したのは、北条重時です。
    でも承久の乱が起きるきっかけとなった「武士よ今こそ立ち上がれ!源氏の恩を忘れるな!」とばかりに檄を飛ばしたのは、既に政治の一線から身を引いていた「尼将軍・北条政子(北条重時の父方伯母)」であったと聞いています。
    北条重時がことのほか女性を尊重するよう説いたのは、おそらく、北条政子のそのような活躍を若い頃から目にしていたことの影響もあったのでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。