アメリカ人が見た明治日本の火事・江戸時代の発想「広小路」

 

11月9日は「119番の日」。

電話番号の119にちなんでできたこの記念日は、3月10日の「たけのこの里の日」のような「無理やりつくりました感」がなくて好感が持てる。
たけのこの里は好きだけど、「さ(3)+と(10:とう)」の語呂合わせから「たけのこの里」を連想するのはハードル高すぎ。

とにかく今日から「秋の全国火災予防運動」が行われるというので火災にはご注意あれ。

 

奈良県に世界最古の木造建築物・法隆寺があるように、国土の7割が森林という日本では古代から木を使って建物を建てるのはあったりまえの発想なんだが、それは同時に火事とのたたかいを意味する。

明治時代に東京大学の教授をしていて、大森貝塚を発掘したことでも有名なアメリカ人モースは日本の町を見てこう申す。

一軒が火を発すると一町村全部が燃えて了うのに不思議はない。杮というのが厚い鉋屑みたい で、火粉が飛んで来ればすぐさま燃え上るのだから……。

「日本その日その日 (モース エドワード・シルヴェスター)」

*「了う」はしまう。

 

エドワード・S・モース(1838年 – 1925年)

文部省に採集の了解を求めるため横浜駅から新橋駅へ向かう汽車の窓から、貝塚を発見。これが、後に彼によって日本初の発掘調査が行なわれる大森貝塚である。

エドワード・S・モース

 

モースが言った杮は、「柿食へば 鐘が鳴るなり 法隆寺」の柿(かき)ではなくて、木片・木くずの「杮(こけら)」のこと。
薄い木の板を何枚も重ねて屋根をつくる「杮葺(こけらぶき)」は日本に古くから伝わる伝統的手法で、いまでも歴史的建築物で見ることができる。
*「こけら落とし」の杮(こけら)は木片や木くずのことですよ。
最後に屋根の木くずを払い落とせば、建物が完成したということになるから。

ちなみに「柿(かき)」と「杮(こけら)」はそっくりだけど実は別の漢字。
「柿(かき)」では右側が「亠+巾」なのに対して、「杮(こけら)」は縦の棒を切らずにつなげる。

 

銀閣寺にある杮葺(こけらぶき)の屋根

柿(かき)で屋根はつくれませんっ。

 

世界的に有名なこのお寺の屋根も杮葺

 

いまの日本で杮葺の屋根なんてむしろ高級品で庶民の家にはないけど、江戸時代にはこんな家がよくあったから、火事になると木造の壁や柱が燃え上がるのはもちろん、屋根の杮が風に乗って火の粉となって飛び散るから、「一軒が火を発すると一町村全部が燃えて了うのに不思議はない」とアメリカ人が言う。
明治初期のモースが見た一般人の家は江戸時代とそう変わらない。

こんな負の運命共同体にならないよう、1657年の明暦の大火をきっかけに江戸幕府は「広小路」という火除地(ひよけち)を上野や両国などに設置。
するとこれが他の都市でも作られるようになった。

後に各地に広まって同様の趣旨をもった通りを「広小路」と称するようになった。江戸時代から昭和戦前までに名付けられた街路のため、太平洋戦争後の復興で広小路より更に広い街路を持つ都市も少なくない。

広小路

サッカーや野球ができそうな江戸時代の火除地

 

ボクの住む東海のメガロポリス・浜松市にはいまでも「広小路通り」があるし、秋田市・名古屋市・京都市など全国各地にこれにちなむ道や地域がある。
それは火事に対する日本人の恐怖や警戒の名残りだ。

とはいえ、昔の日本人はこんな災害を想定して生活していたようで、モースは友人からこんな話を聞いたという。

保険というような制度は無いが、商人達は平均七年に一度焼け出されることに計算し、この災難を心に置いて、毎年金を貯える。

「日本その日その日 (モース エドワード・シルヴェスター)」

 

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4 件のコメント

  • 江戸時代~明治初期で庶民の家の屋根に「杮葺き」が多かったのは、むしろ江戸以外の地方都市ではなかったでしょうか? 江戸では、防火対策のこともあって、古くから「板葺き」が主に利用されていたと思います。時代劇とかでよく見る「貧乏長屋の屋根に玉石が乗っけてある」パターンですね。あの玉石は、大風で屋根が吹き飛ばないようにするためだったとか。(効果あるのか?) 玉石載せ板葺き屋根の民家は、戦後になっても、超貧困スラム地域にはまだありましたよ。漫画「あしたのジョー」なんかにも出てきます。

    この記事にも書いてあるように、江戸幕府は防火対策として「広小路通り」を全国の都市に普及させました。それ以外にもう一つ、江戸時代の中期以降に重要な防火対策として庶民にまで普及を進められたのが、「瓦葺き屋根」とすることです。このことも延焼防止対策としてかなりの効果を上げたはずです。
    現代では、昔と異なり屋根瓦もかなり軽量化が図られるようになってきました。葺き方も昔のように屋根の野地板の上に粘土を載せて瓦をくっつけるのではなくて(これだと非常に重くなる)、金物で野地板・桟木に固定する「乾式工法」が普及しています。屋根を軽量化することによって、家屋の耐震性は格段に向上しました。
    現代でも、世界各国の屋根葺き材料で、日本の屋根瓦(陶器瓦)ほど防水性と耐久性を兼ね備えたものは他にありません。日本の焼き物技術の真髄が瓦には備わっているのだとも言えます。

  • >杮葺きは板葺きの一種と思いますよ。

    うーん、どうかな。素人さんの目から見ると同じように見えるのかもしれないですが(その意味では、アメリカ人のモースだって日本の木造家屋には素人だったとも言えます)。
    「こけら」は丸太の表面から削ぎ落として作った薄い木材であり、「板」はあくまで丸太を(主として長手方向に)薄く切断することによって作った木材です。こけらは、とても薄くて丸太の太さ方向に丸まってしまう傾向がある。これに対して「板」の場合は「反り」が発生する程度です。「こけら」は、家の壁を作るのには薄すぎて使えませんし。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。