【欧米人と日本人の価値観の違い】表現の自由と悪口の罪

 

イギリス人は日本人やタイ人と違って、国王や王室に対して「ひょっとして敬意がないのでは?」と思えるほど自由にものを言えるし批判もできる。
女王をいじって怪獣を作り、みんなでそのデキを楽しむというのは日本で見たことがない。
そんな話を少し前に書きやした。

日本の天皇とイギリス・タイ国王との違い:歴史や国民の反応

 

もちろん「正しい」の基準はそれぞれの社会によって違うから、イギリス人がそれでいいなら英国社会はそれでOK。

ただ日本と比べると、欧米社会は「表現の自由」のストライクゾーン広いから、日本人のボクからすると「それをしますか?」と思ってしまうことを彼らは普通にやる。

例えば以前、アメリカ人・イギリス人・カナダ人とカードゲームをしていたときのこと。
そのカードの中にローマ法王を面白おかしく(というか小馬鹿にしたような)絵があってビックリしたけど、その場にいた外国人は「これはただのジョーク。まったく問題なし」で全員一致。

アメリカ人が(やや上から目線で)こんな話をする。

欧米社会では表現の自由が大事にされているから、女王や法王を”ネタ”にしていじってもいい。
日本人は天皇に対してそうしないだろうけどね。
もちろんその表現に怒ってもいいし、反対意見を言う自由も保証されている。
そういうフェアなところが欧米社会の良いところなんだ。

たしかにそんな表現の自由は日本の社会にはなさそう。
日本人の価値観からすると、自分の自由や権利より他者への配慮や敬意が優先されて、海外の国王やローマ法王を小馬鹿にするような絵を描くゲーム会社なんてないだろう。
アニメやマンガの架空世界でなら、キリスト教や国王らしきものをいじることはある。

とにかくこんな具合に、この前のエリザベス女王で作った怪獣と合わせて、欧米人と日本人には表現の自由については越えられない壁があって、価値観の違いを感じたわけですよ。

 

表現の自由が尊重されないといけないのは分かる。
けどいまフランス人のそんな価値観が、イスラーム諸国の価値観と正面衝突して対立が広がっている。

イギリスBBCの記事(2020年11月6日)

マクロン大統領は事件後、表現の自由を掲げるフランスの価値観を擁護しており、ムスリム(イスラム教徒)の多い国で反感を買っている。

マクロン仏大統領、欧州の「自由な移動」に改革訴え テロ攻撃受け

 

フランスには、イスラーム教の予言者ムハンマドを冒とくする自由がある。
ムハンマドを風刺する画を描いて公開することは、フランスの大事な権利だと主張するマクロン仏大統領に世界中のイスラーム教徒が大反発。
中東やアジア各国でフランス国旗を燃やすような抗議活動や、フンラス製品の不買運動に発展した。
*この風刺画については無料画像がなさそうだから、各自で検索して確認されたし。

マクロン大統領は、敵はイスラーム過激派であってイスラーム教徒ではないと言うけど、預言者を冒とくしたら一般のイスラーム教徒を敵にするのと同じだ。
税金を払って国に貢献するイスラーム教徒のフランス国民もたくさんいるのだけど、マクロン大統領はそういう人を傷つけても、宗教を冒とくする自由や権利を尊重するようだ。

 

「風刺画を見せる自由をあきらめない」というフランス的な表現の自由を守る姿勢は、イスラーム教の影響の強い国ではまったく通じない。

NHKニュース(2020年10月27日)

イスラム教では、預言者を風刺画などで表現することは教えに反するとされており、イスラム圏では、マクロン大統領の発言はイスラム教への冒とくを容認したとする受け止めが出ています。

イスラム圏でフランスへの反発広がる マクロン大統領発言受け

 

マクロン大統領の主張する「表現の自由」には、西洋社会でもツイテイケナイと思う国があり、カナダのトルドー首相はテロを非難して言論の自由を擁護しつつも、「限度がないわけではない」と釘を刺し、特定のコミュニティーを恣意(しい)的に、不必要に傷つけるべきではないと発言した。

 

いつもは、はっきり言ってイスラーム教に厳しくて欧米寄りの意見が多い日本のネットでも、フランスの主張する「冒とくする自由」には、ほとんどの人が「そこまでする必要性ってある?」と批判的。
日本人の価値観からすると、それよりも他人の痛みに配慮して、表現活動をひかえることを美徳とするのだと思う。
鎌倉時代には、悪口を言うと罪となる「悪口罪」があった。
御成敗式目によって他人をののしることが法的に禁止され、それを破った者は、重罪だと流罪になったという。
鎌倉幕府がこんな「悪口(あっこう)の咎(とが)」を定めたのは、悪口をきっかけに争いが始まり、時には殺し合いにまで発展することがあったから。

毎日新聞のコラム「余禄」(2019年1月30日)

悪口罪などというと一見争いの少ない時代の話かとも思うが、まったく逆で悪口が「闘殺(とうさつ)」になるのを防ぐ策だった

その昔、人をののしると罪になるという時代があった…

 

フランスの言う「冒とくする自由」とこの時代の悪口はもちろん違うけど、日本人にはやっぱり、争いを避けるこの伝統的な価値観のほうが合っている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。