【漢字と日本人】小野篁は“無悪善”と“子子子…”をどう読んだ?

 

abcといったローマ字と違って漢字にはそれぞれ意味があるから、いろんな楽しみ方ができる。
毎年恒例の「今年の漢字」もそのひとつ。
きのう発表された2020年の「今年の漢字」は、個人的には「禍」を予想していたけど「密」に決定。
流行語大賞も「3密」だったし、ことしの日本社会を一文字で表すなら「密」しかないか。

さてこれにネットの声は?

・密を避けようって動きだったのに密を選ぶセンス
・明らかに疫病の疫だろww
・菅 だろ。w
・これはまあ妥当でしょ
・色んな意味とかかってる漢字じゃないから芸がないな
・むしろ「疎」では?

せっかくなんで、今回は漢字の話を書いていこう。

 

 

鹿児島県には「志布志町志布志」という地名がある。

左右どちらから読んでも「しぶしちょうしぶし」でノリの「山本山」のようだけど、志布志の由来は由緒はきわめて正しい。

むかしここに天智天皇が訪れたとき、現地の人間が布を献上したことから「上からも下からも志として布を献じたことは誠に志布志である」ということでできたと言われるこの地名は、いまではよくネタにされている。

 

 

「日本一言いづらい市役所」とテレビ番組で紹介された、志布志市志布志町志布志の志布志市役所志布志支所。
*しぶしし、しぶしちょう、しぶしの、しぶししやくしょ、しぶしししょ。
でも2021年1月1日から市役所本庁になることによって、「志布志市志布志町志布志の志布志市役所本庁」と髪の毛一本分ほど読みやすくなるらしい。

 

ではここでクエスチョン。

平安時代の貴族で、小野妹子や小野小町と同じ一族の「小野篁」は何て読むでしょう?(下の人物)

 

 

答えは「おのの たかむら」。

小野篁(802年~853年)は平安時代を代表する天才で皇太子に学問を教えたり、律令の解説書である『令義解』(りょうのぎげ)の序文を執筆したりした。

また小野篁には、昼は天皇に仕えて、夜は井戸を通って地獄へ行って閻魔王に仕えていたという不思議な伝説がある。

【小野篁】昼は朝廷で天皇、夜は地獄で閻魔王に仕えた謎役人

 

平安時代のはじめ、平安遷都した桓武天皇の息子の嵯峨天皇がいたころの話。

あるとき内裏(天皇が生活していたエリア)で、こんな漢字の書かれた立て札が見つかった。

「無悪善」

日本の知性が集まる内裏でも、この読み方の分かる人がいない。
みんなが首をひねっているのを見た嵯峨天皇は「たかむら、おまえって超頭いいじゃん?これ読める?」ときくと、小野篁は「さが(悪)なくてよからん」と答えた。

これは「嵯峨天皇がいなければよいのに」という意味にも読めることから天皇は怒って、「これ書いたの、絶対おまえだろ!」と迫ると、「いえいえ天皇。わたしはどんな言葉でも読めちゃいますんで」と篁は弁明する。
「ほう。ならこれも読めるんだな?」と嵯峨天皇が提示したのはこんな漢字。

「子子子子子子子子子子子子」

するとこの天才は「ねこのここねこ、ししのここじし」とすぐに読んでしまう。
「おまえ、ホントすげえな!」と天皇の怒りが解けたことで、立て札の件は許されたという。

 

子の読み方には「こ・し・じ」の他に干支のネズミの子(ね)があるから、それを「子子子子子子子子子子子子」に意味が通るように当てはめて、「猫の子仔猫、獅子の子仔獅子」と読んだのだ。
嵯峨天皇は言葉遊びとしてこの問題を出して、小野篁がそれをみごとに解いたというお話。

そんな話が宇治拾遺物語の「小野篁広才の事」にある。
表意文字の漢字は本当に奥深くて面白い。

 

最澄の死を悼む嵯峨天皇の詩

 

 

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1 個のコメント

  • 台湾の繁体字(日本の旧字体)、日本の新字体(現在使われている漢字)、中国の簡体字を比較してみると思うのですが、どうも、中国の簡体字には「先祖が考案した文字に対する敬意」が感じられません。彼らは、「区別できて簡単に書きさえできればよい」と考えているのかな? 単なる記号の組合せであるように見えます。
    日本の新字体をを作る際には、草書体の表し方とか、市中で既に使われている略字とか、それなりに色々根拠があったうようですけれども。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。