前に静岡の大学で学んでいたドイツ人と話をしていて、新年の過ごし方の話題になったとき、「あなたは初めての夢で富士山を見ましたか?」と聞かれて驚いた。
彼が日本の文化や歴史に興味があるというのは聞いていた。
でもまさか、「一富士、二鷹、三茄子」という江戸時代にできた言葉まで知っていたとはね。
なるほどこれがゲルマン魂か。しらんけど。
初夢で見ると縁起が良いとされるものの1位~3位が上の3つで、この言葉の由来には諸説あって、駿河国(静岡)の名物を順にあげたものと言われる。
ちなみにそのあと「四扇、五煙草、六座頭」とつづく。
ドイツの新年はすごく“つまらない”らしい。
12月31日の大晦日に家族や友達と集まってパーティーをして、夜遅くまでおしゃべりをすることが多いから、元旦はリラックスして疲れを回復させる。
ドイツでは1月2日から仕事が始まるのが普通だから、1日は特に何もしないようだ。
だから彼にとっては、その年で初めて見た夢の内容から1年の吉凶を占う「初夢」や、「一富士、二鷹、三茄子」という日本の風習や文化が面白い。
「富士山、タカ、なすび」のユニークな組み合わせがこのドイツ人のツボにはまって、その3つが描かれた絵(湯呑かも)を見つけたときには買わないという選択肢はなかった。
初夢とは元日の夜に見る夢のことだったけど、江戸時代はいまのドイツと同じように新年の2日目が仕事始めの日だったことから(世界大百科事典 第2版の解説)、いまでは一般的に1月2日の夜に見る夢が初夢とされる。
では日本でこの風習はいつはじまったのか?
正確な時期は不明ながら、鎌倉時代にはその記録があるからまぁかなり古い。
文献での初夢の初出は、鎌倉時代の『山家集』春 にある。すなわち「年くれぬ 春来べしとは 思ひ寝む まさしく見えて かなふ初夢」。
鎌倉武士も初夢を楽しみにしていたらしい。
縁起の良い初夢を見ることができれば、その年の運勢はきっと良い。
そんな考え方や信仰が広がれば、魚心あれば水心で、そのための「方法」が考案されるのは自然な流れ。
室町時代のころになると、良い初夢を見るには七福神の乗った宝船の絵に、
「長き夜の 遠の眠りの 皆目覚め 波乗り船の 音の良きかな」
という歌を書いたものを枕の下に入れて眠るといいという話が登場する。
これは「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」と反対から読んでも同じという回文だ。
これでも良い初夢が見られなかったら、その年は何をやってもダメということだ。ということはない。
もし悪夢を見たら次の朝にこの絵を川に流せばOKだから、おみくじと同じで、良いことだけを採用して悪いことは気にしなくていい。
初夢は鎌倉時代かその前にうまれ、室町時代にはそのためのテクニックが考案されて、江戸時代には具体的な内容が整った。
日本人の迷信・信仰・ゲン担ぎといったものは、いつの時代も続いてきたということだ。
ではきょうの夜、夢の中でこのどれかが出てきたら、2021年はきっとラッキーな年になる。
こういう楽しみはドイツにはない。
反論できる?「日本人が、外国人の日本料理をインチキと言うな!」
日本と欧米での新年の扱いの違い、それを最も感じさせるのが「正月三が日」の存在です。日本ではスーパーマーケットなど小売店の初売りでもない限り、正月三が日は休みですよね。ですが、欧米だと、1月1日だけは[New Year’s Day で休日であるにしても、もう2日から平日なんですよね。
その代わりに、(私が住んだことのある米国では)12月24日のクリスマス・イブは早引けで、翌25日から1月1日まで連続して「年末休暇」でしたけど。レストランとかスーパーマーケットとか、全部がほとんど休みになってしまうので本当に困りました。
わたしも欧米人から話を聞いて、「正月気分」がないことに驚きました。