人が“悪”を行う時:コロナ禍での初詣 / 川口慧海のチベット入境

 

2020年の「今年の漢字」は“密”。
21年はまだ分からんけど密状態は社会の敵として、今年も避けられ嫌われるのはまぁ間違いない。

昨年末からコロナの感染が爆増し、1日の新規感染者数は連日のように過去最高を記録して状況はますます悪化ばかり。
密を回避しないといけない状況はまったく変わっていないけど、そこはやっぱり日本人、めでたい初日の出を拝みたいという衝動を抑えられなかった人がたくさんいて、ボクのまわりでも何人かSNSで日の出の写真をアップしていた。

ボクもそれを考えていたが、31日に東京で、過去最高の1000人を超える新規コロナ感染者が出たと聞いてあきらめた。
自粛を守ってソンした気分だ。

コロナ禍での「GOTO初日の出・初詣」にはネットでも賛否が分かれていて、どちらかというと、初日の出より初詣の方が批判を集めている。
この状況下で、「早くコロナが収まるようにお祈りしてくる!」は前後で矛盾しているというのに、各地のお寺や神社がかなり賑わっていてビックリ。

例年ほどではないというけど、たとえば愛知の熱田神宮はこんな感じだ。
中日新聞の記事(2021年1月1日)

拝殿前では午前0時前にカウントダウン。人が密集して混雑し、警察官らが密を避けるよう呼び掛ける場面もあった。

「日常、戻りますように」名古屋・熱田神宮で初詣 分散参拝の呼び掛けも

 

これにネットの反応は?

・初詣で感染爆発は草
・神様拝んで幸せになるなら警察いらない。
・凄く並ぶ神社は行かないで小さい神社にお参りで良いだろう。
・オンライン参拝でヨクネ?
・迷わず行けよ
行けば罹るさ
・明治神宮行ってきました。11時半時点で本殿前は100~200人弱で3分並んでお参り。

否定派が8割といったところか。

これで、「GOTO初日の出・初詣」をした人はご利益を授かってコロナ禍からまぬがれて、その気持ちをおさえて自粛した人が感染するというマンガみたいなオチになったらやってられない。

 

 

いまのこの時期に、人の集まるところに行くのは超NGということは日本中の誰もが知ってるはずだ。
でも、日本の伝統文化のためなら、少しぐらいの禁を破ってもいいと考える人が全国にいたらしい。
大きな善のためには小さな“悪”も仕方ない、と思う人はどこにでもいる。
実際、結果的に多くの人に利益をもたらしたのなら、その過程でおかした悪行は見逃されて“快挙”として称えられることがある。

いまから100年ほど前、1897年(明治30年)にチベットへ潜入した川口慧海(えかい)はその代表格。
この僧は日本や日本仏教界のために、当時は外国人の入国が禁止されていたチベットに潜り込んで、仏教を学んで経典を手に入れて帰国した。

 

チベット仏教僧(ラマ)の恰好をしている川口慧海

高校日本史でならう人物だから、常識として知っておこう。

河口慧海

1866~1945 仏教学者・探検家。 1900年、密入国して日本人として初めてチベットのラサに入る。チベット仏教紹介は世界的な業績とされる。

「日本史用語集 山川出版」

 

禁を破ってチベットへ入境した動機について慧海はこう書いている。

私がチベットへ行くようになった原因は、どうか平易にして読み易い仏教の経文を社会に供給したいという考えから

「チベット旅行記 (河口 慧海)」

 

理由は立派だけど、これは当時のチベットでは違法行為だからアウト。
でもこれによって日本へ貴重な教えがもたらされたし、秘められていたチベット社会の様子が世界に紹介されたから、国の内外で慧海は高く評価された。
ここまでのレベルになれば、たとえ密入国でも世界的な業績として称賛される。

結果としてみんなの役に立つなら、悪を行っても正当化されることはある。
でも、コロナ禍での初日の出や初詣がこれに当てはまるかは微妙。

 

さてチベットへの潜入に成功した慧海は、人殺しが多発していた地域でこんな諺があったと記している。

人殺さねば食を得ず、寺廻らねば罪消えず。人殺しつつ寺廻りつつ、人殺しつつ寺廻りつつ、進め進め

「チベット旅行記 (河口 慧海)」

 

人を殺さないと自分が生きていけない。でもそうすると、必ず来世で報いを受ける。
それで寺に行ってホトケに祈ったり、僧侶にお金や食べ物などを提供する。
そうやって罪を帳消しにしたら、また人を殺して持ち物を奪う。するとまた…のエンドレス状態に生きていたチベット人がいた。

これとは次元が違うけれど、初詣に行く人もそれによって、この時期に行くことの後ろめたさをチャラにしていたもかも。

「悪を打ち消せる」という発想とその具体的な方法があると、人は何度でも悪いことを繰り返すことができる。
罪悪感をなくそうとする心理に時代や国は関係ない。だから中世のヨーロッパ人は免罪符にすがった。
最悪なのは、悪行を善とホンキで信じて行うこと。

 

 

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