江戸時代の身分は、当時の日本人が言うには「町民>武士」

 

時代は変わった。
ならば頭の中身も変えないと。
でないと「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」なんて、時代遅れのことを言って致命的な失敗をしてしまうかもしれない。

さて、昭和の時代に学校でならった「武士>農民>職人>商人」という江戸時代の身分制度はじつは違っていて、支配階級にある武士はそのままで、その下に農民・職人・商人がほぼ同じ立場で生活していたことがわかった。
つまり、農工商のあいだに上下の違いはなし。
だからのいまの新常識だと江戸時代の社会は「士>農≒工≒商」という状態で、いま学校で子供たちはそう教わっている。

「士農工商」も「四民平等」も歴史教科書から消えたということについて、くわしいことはここをクリックですよ。

士農工商

ということで江戸時代の日本の社会は、支配する武士とされる側の農・工・商という関係で成り立っていた。
それはそうなんだが、当時の人の話からみると必ずしもそれだけではない。

 

 

海外からは「奇跡のような平和な時代」と言われる江戸時代には、船による物資の大量輸送が可能になったことに加えて、上の飛脚(ひきゃく)が全国を走り回り、手紙や小さな荷物を津々浦々に届けていたことで日本の社会は大きく発達した。

このとき飛脚が運んだ重要なものに「情報」がある。
たとえば大阪の米相場の最新情報を「米飛脚」が月に10回ほど各地の米商人へ伝えたことで、商人はそれを参考にして米を売ったり、買い付けたりして儲けることができた。
また、馬の背中に千両箱を乗せて幕府や私的なお金を運ぶ「金飛脚」がいなかったら、為替(現金以外の方法で決済する方法)なんて不可能だったはずだ。
この時代の日本は為替による取引が発達して、世界で最も優れた送金システムを構築した。
江戸時代に経済が爆発的に発展した背景には、物・金・情報を全国に届けた飛脚がいる。

 

もちろんそれ以外にもいろんな要因があるのだが、とにかく江戸時代には金が回って、それまでの時代とは比べられないほどリッチな世の中が到来した。
そうなると金のある町民の立場が上昇していき、相対的に貧乏な武士の地位は下がっていくことになる。結果、地位の高い武士が商人を恐れるようになることもでてきた。

それで江戸中期の儒学者、太宰 春台(だざい しゅんだい:1680年 – 1747年)や、幕末の大久保 利通(おおくぼ としみち)は当時の日本の社会をこう表現した。
*商賈(しょうこ)は商売・商人のこと

武士階級は「商賈を頼みて、内外のことを営む故に、位ある人も、商賈を恐れ敬うこと甚だし」という状態である。最終的には大久保利春の言う「日本国六十余州、名目にては武家の所領なれど、内実は町人の所領」という状態を現出していた。

「一九九〇年代の日本 (PHP文庫) 山本 七平」

 

歴史教科書に書いてあるように、武士が支配階級にいたことは間違いない。
でも金がものを言う時代に、戦士としての武士はハッキリいって「いらない子」。
そんな時代を背景にして武力重視の戦国時代と違う、経済的な意味での下剋上が江戸時代に起こっていた。
だから武士は名前だけの支配者で、内心では金のある町民を恐れ敬(うやま)っていて、江戸時代の終わりごろになると、日本という国はじつは「町人の所領」だったという状態になる。

見た目は「士>農≒工≒商」でも、その時代を生きた日本人は「商>士」だったと言う。
でも名目上は武士のほうが偉かったから、武士を前にしたら町民の頭が上がらなかったのは事実。
ただこの状態も場所や時代によって違いがあるから、江戸時代の身分はけっこう複雑なのだ。

 

 

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2 件のコメント

  • > 時代は変わった。(改行)ならば頭の中身も変えないと。(改行)でないと「女性がたくさんいる理事会は時間がかかる」なんて、時代遅れのことを言って致命的な失敗をしてしまうかもしれない。
    ははは、それは大間違いですよ。
    必要なのは頭の中身を変えることではなく、新たな価値観を頭の中身に付け加えることです。新しい価値観に迎合して頭の中身をすっかり変えてしまうようでは、フェイクニュースに踊らされて致命的な失言をしたり、デマを広げたりする愚か者と同レベルです。情報は、自分の頭で考えて受け止めることですね。

    「士農工商」と言ったって、そもそも、士+農、士+工商では、居住していた地域さえも違いますからね。何かの文書や記録にでもまとめられたのでない限り、士・農・工・商がインデックスとして順序付き分類名称となることはありません。
    それに「身分」とは、マルクス主義経済学が言うような「経済力の階級格差」を表す概念とは違いますよ。儒教やヒンズー教の価値観に基づく社会の階級を表します。経済力格差はそれに付随することが多いというだけのことです。その意味において、「士」とは江戸時代の「役人」あるいは「公務員」を表す用語であると考えた方がいいと思います。

  • >新たな価値観を頭の中身に付け加えることです。
    これも頭の中身を変えることのひとつです。

    ここでいう「士農工商」は江戸時代にあった身分のことです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。