2月9日の記念日は山盛りだ。
服の日、福の日、風の日(風がふくから)、肉の日、そしてふくの日。
最後の「ふく」は、下関や北九州のあたりではフグ(河豚)をこう呼んでいる。
その理由は、良いことであれ悪いことであれ、口にしたことが現実になるという言霊信仰をもつ日本人らしいもの。
では河豚をフグではなく、フクと言う理由はなんでしょう?
答えは、フグという音は「不遇」や「不具」に通じるから。
*「不具」とはからだに障害のあることを指すことば。でも現代では差別語になるからNG。
ちなみに英語でフグは丸くて地球みたいだから、「Globefish(グローブフィッシュ)」なんて言われる。
フグは食べれば死んでしまうような猛毒をもっている。
「ふぐ」という呼び方には不吉な予感がつきまとうから、フグの本場・下関や北九州では縁起をかついで「ふく(福)」と呼んでいるのだ。
英語版ウィキペディアに「A significant portion of Japanese superstition is related to language」という説明があるように、海外からみて日本人の迷信には、『ことば』が深く結びついているという特徴がある。
くわしいことはこの記事をプリーズ。
だから4や9は「死」や「苦」を連想させるので避けられる。でも、9を「ク」ではなくて「キュウ」と読めば問題ない。
そんな日本人の迷信は漢字文化圏の人なら理解できても、特に欧米人にはワケワカラン。
でもこの発想は日本人には常識的だから、「ふぐ」を「ふく」と言い換える理由も背景を知れば誰でも理解できるはず。
日本を代表する美食家の北大路魯山人(きたおおじ ろさんじん:明治16年 – 昭和34年)は著書『河豚食わぬ非常識』でフグをこう絶賛した。
「この美食恵沢に未だ出合わない薄幸者は一生の不覚を悔に残さぬよう、翻然なにをおいてもまずふぐ料理の美味を試むべきである。」
イタリアには「ナポリを見てから死ね」ということばがある。
魯山人のことばを借りるなら、「日本人ならフグを味わってから逝け」といったところか。
フグには猛毒があっても、「だが食べたい」と日本人に思わせるほどこの魚はおいしい。
フグと日本人の付き合いは長いから、地方によっていろんな呼び方がある。
その一端をこれから紹介しよう。
・がんば
ノロイを倒すため、7匹のネズミが立ち上がった!
ではなくて、長崎県の島原地方ではフグのことを「がんば」と言う。
フグを食べれば死ぬこともあるから、「がんば(がんばこ)」(棺桶のこと)が必要になるかもしれない。しかし、そんなリスクを冒しても食べたい。
そんなことから「棺ばそばに用意してでも食べたい 」(棺桶を用意してでも食べたい)という意味で、フグの呼び方が「がんば」になったといわれる。
くわしいことは島原の観光案内サイト「がんば」にある。
・ナゴヤ(ナゴヤフグ)
瀬戸内海地方ではフグをこう呼ぶ。
瀬戸内海なのになぜ名古屋?という疑問はごもっとも。
毒に当たれば身の終わりの「みのおわり」が「美濃・尾張」となって、「尾張といえば名古屋じゃね?」という発想から「ナゴヤフグ(またはナゴヤ)」と言われるようになったという。
2月9日を「風の日」にするような日本人らしいことば遊びだが、名古屋人は全力で怒っていい。
・キタマクラ
高知県ではフグをキタマクラと言う。
お葬式で死者の頭を北に向ける(北枕)ことから、毒のあるフグをこう呼ぶようになったらしい。
「がんば」と同じで、静岡県民のボクには食欲わかぬ。
・ジュッテントン
もはや魔を避ける呪文のようだが、鹿児島県の志布志地方でフグの呼び名は「ジュッテントン」。
フグの毒にあたると十転倒する、10回転げ回るような苦しみを味わうということで、この呼び方ができたという。
・テッポウ
フグの大消費地・大阪では「てっぽう」と呼ぶ。
フグを食べたとしても、毒にあたって死ぬ可能性はとても低い。
それでいつごろからか(たぶん江戸時代)、「たまに(毒に)当たる」を「弾に当たる(=死ぬ)」にかけて、フグは「てっぽう(鉄砲)」と呼ばれるようになった。
大阪でフグの刺身を「てっさ(てっぽうのさしみ)」、フグ鍋を「てっちり(てっぽうのちり鍋)」というのはそれが理由。
・トミ
千葉県の銚子では、フグの毒は富くじ(宝くじ)のように「まず当たらない」とうことで「トミ」と呼ぶようになった。
「てっぽう」の発想に近いが、表現の違いは県民性の違いか。
どんな呼び方でもフグはフグ。
でも日本各地にいろんな言い方があることは、「A significant portion of Japanese superstition is related to language」という日本人のゴールデン・ルールを示唆している。
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