アメリカのインターネット掲示板で、ある人がこんな質問をした。
「日本料理やフランス料理に比べると、なんで中国料理には精緻さがないように見えるのか?」
中国料理については前回書いたから、今回は日本料理について。
海外では、日本料理に対して「精緻」というイメージがあるらしい。
日本料理には、どんな細かい注意や配慮があるのか?
そのことを見ていきましょう。
日本料理の特徴に、自然の美しさや季節感を表現することがある。
これは日本料理にとって、本質的でとても大事な要素だ。
平成25年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたとき、農林水産省が和食の特徴をホームページで紹介した。
*和食と日本料理は厳密にはちがうのだけど、ここでは同じに考える。
食事の場で、自然の美しさや四季の移ろいを表現することも特徴のひとつです。季節の花や葉などで料理を飾りつけたり、季節に合った調度品や器を利用したりして、季節感を楽しみます。
日本に来たイギリス人の知り合いも、同じことを言っていた。
「日本の料理は、季節によって器を変えるんです」と旅館で聞いたときは、感動を覚えたという。
「こんな素晴らしい器を使うなんて、イギリスじゃ危険だね。記念に持って帰るヤツがいるから」と笑う。
ちなみにイギリス人の話では、紳士のような人物は日本のほうがたくさんいる。
とくにイギリスのサッカーファンはひどいらしい。
この人、北大路 魯山人(明治16年 – 昭和34年)を知ってますか?
この名前からして、ただ者ではない。
読み方は「きたおおじ ろさんじん」。
日本を代表する美食家で料理研究家、さらに優れた芸術家でもあった。
「美味しんぼ」の海原雄山は、この人がモデルになっている。
この魯山人は、日本料理で「美しさ」を重要視した。
「美的価値のない料理は、よい料理とは申されないのであります」と言う。
こういう人が上司だったら、仕事が大変そう。
「食器は料理の着物だ」と深いことを言う魯山人は、食器についてこう語っている。
食器の上等、下等も、分相応に考えなければなりませんが、大きさ、深さの形、いろどり等を料理に合わして調和を計ることを考える必要があります。
「料理する心 (北大路 魯山人)」
でも、食器だけでは、料理の美的価値を高めることはできない。
「料理を器にどう盛りつけるか?」ということも大切。
それは「生け花」の心に通じるという。
その次はお料理の盛り付け方であります。出来た料理を容器にうまく盛り付けることが大事であります。これは生花をなさる心と同じであり、絵を描く心とも通じるのであります。
「料理する心 (北大路 魯山人)」
ということで、ここまでをまとめてみよう。
日本料理の美的価値を高めるために、日本人はこんなことに配慮していた。
・自然の美しさや季節の移ろいを、調度品や食器であらわす。
・「食器は料理の着物」の考え方で、料理と食器の調和をはかる。
・料理を盛りつけるときは、花を生ける心でおこなう。
こうした3点に心をくばっているから、外国人には日本料理が精緻に見えるのだろう。
こうした日本人の美的センスを育んだのは、日本の風土だと思う。
日本には、桜・新緑・紅葉・雪というハッキリした四季がある。
それは確実に、日本人の意識に影響をあたえてきた。
明治時代に日本を訪れたイギリス人ラフカディオ・ハーンはこう言う。
いったい、日本の国では、どうしてこんなに樹木が美しいのだろう。西洋では、梅が咲いても、桜がほころんでも、かくべつ、なんら目を驚かすこともないのに、それが日本の国だと、まるで美の奇跡になる。
「日本賛辞の至言33撰 (ごま書房)」
日本料理には、この美の奇跡も表現されている。
でも、シンプルなものもある。
外国人が日本料理にいいイメージを持っている理由は、料理だけじゃない。
日本料理を効果的に宣伝することも重要。
2015年のミラノ国際博覧会では、日本館で、日本食の魅力を存分にアピールすることができた。
この万博で日本館は「金賞」を受賞している。
このときの日本館は大人気。
並ぶことの嫌いなイタリア人が9時間の行列をつくったことも、話題になった。
そのことはこの記事をどうぞ。
ミラノ万博・日本館の様子
Francesco Dazzi の Future restaurant show at Japan pavilion EXPO 2015
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