前回、韓国のミステリーショッパー(覆面調査員)について書いた。
外国人と韓国人のミステリーショッパーが韓国で評判のいい店を抜き打ちでチェックしたら、
「トイレが本当に耐え難かった」
「店員が布巾でテーブルを拭いたけれど、とても汚くてスマートフォンを上に置けなかった」
「外国人の友達がこの店に行こうとしたら止める」
と低評価の嵐。
くわしくは、レコードチャイナのこの記事をご覧ください↓
韓国の“うまい店”を巡った外国人の覆面調査隊、「食べる気うせた」訳は?
でも、ネットの評判と実態とが合っていない店なんて日本にもたくさんある。
他人事でもない。
日本も、国がミステリーショッパー(覆面調査員)を活用しようとしたことがある。
でも、韓国とは目的が違う。
日本国内のレストランを抜き打ちでチェックするわけではない。
対象は海外の日本料理店だ。
近年、日本食が世界的なブームになっている。
外国の空港のレストランで、白人・黒人・アジア人といったいろいろな人たちが寿司をほお張っているのを見ると、日本人としてうれしくなる。
店に「彼らの支払いはボクにさせてほしい」と言っている自分を想像して、満たされた気分になってその場を去る。
でもうれしく思うのは、それが「本物の日本料理」だったら。
外国には現地の人がアレンジして、日本人が見たら「何だこりゃ?」とい言いたくなる“偽日本料理”がたくさんある。
これはミャンマーの日本料理店。
「カルフォルニアロール」や「サーモン味噌ぞうすい」は、個人的にはまだいい。
これはインドの日本料理店にあった「ヴィシュヌ・ライス」。
店のインド人に言わせると、これが日本料理らしい。
たしかにオムライスは日本料理だ。
オムライス
〔和 オム(オムレツの略)+ライス〕
油でいためケチャップなどで味つけした飯を薄い卵焼きで包んだ日本独特の料理。
「大辞林 第三版の解説」
つくったのは日本にいた外国人だけど。
でもヴィシュヌ・ライスの場合、中のご飯がケチャップライスではなかった。
サフラン(?)か何かのインドの香辛料が入ったライスで、とても日本料理とは思えない。
ネットで探したら、こんな偽日本料理はいくらでも見つかる。
海外にはこびるデタラメ日本料理にガッカリした日本人はたくさんいる。
2006年に農林水産大臣をしていた松岡利勝(まつおか としかつ)氏もその1人。
松岡氏がアメリカ出張中に訪れた店では、韓国風の焼肉と寿司を一緒に出していた。
「これは本物の日本食ではない」と松岡氏はショックを受けたらしい。
そんなアメリカでの経験から「正しい日本料理を世界に広げたい」と考え、「日本食の認証制度」が誕生した。
「海外日本食レストランへの信頼度を高め、農林水産物の輸出促進を図るとともに、日本の正しい食文化の普及や我が国食品産業の海外進出を後押しすること等を目的」として、農林水産省「海外における日本食レストランの認証制度を創設するための有識者会議」を立ち上げた。
海外で偽日本料理を見た人なら、「日本の正しい食文化の普及」という部分には共感できると思う。
外国には、日本料理のブランドイメージを利用して客を集め、デタラメな料理を出して金儲けをしている店がよくある。
オーストラリアでワーキングホリデーをしていた日本人の女子からもそんな話を聞いた。
その女の子が住んでいたところでは、中国人や韓国人が経営する日本料理店があって、「これは何なんだ?」という変な日本料理を出していたという。
「日本人としてどう思った?」とボクが聞いたら、その子はこう答える。
「でもわたしはそこで働かせてもらっていたから。『変な料理だなあ』と思ったけど、『ま、いっか』って」
必ずしも悪いことばかりではないらしい。
話を政府の「日本食の認証制度」に戻す。
この制度は、「ここは正しい日本食を出している」と日本政府が認めたレストランには「お墨付き」を与えるというもの。
フランスの日本料理店を例にとると、こんな感じ。
パリの場合、複数の覆面スシポリスが店を訪れ、日本的な店舗や雰囲気、日本料理の有資格者の有無、メニューに日本食としての質や多様性があるか、米やしょうゆ、酒が日本製か、それと同等の品質か、など18項目に及ぶ基準を点数化。そして50点満点で7割以上取得した料理店を「日本食レストラン」として推奨している
みごと合格すると、日本政府からこんな推奨マークをもらえる。
農林水産省ホームページ「海外におけるレストラン認証制度について」から。
でもこれは大失敗。
「日本の政府が正しい日本料理をチェックする」というやり方が、多くの外国人の反発をまねいてしまう。
しかし、「日本政府が認めない店は和食と名乗らせない」と言わんばかりの制度に、「グローバル時代に料理を定義する権利が政府にあるのか」と欧米メディアは激しく反発。
ちゃんとした日本料理店かどうかをチェックする覆面審査官は、世界からは「スシポリス」と呼ばれ嫌われた。
「日本の正しい食文化を世界に広めたい」という日本の考えは、海外では「日本の押しつけ」に感じられたらしい。
「スシポリスを店に送りこんでチェックする」というやり方と同時に、「世界の間違った日本食をなくして、正しい日本料理を広める」という考え方も批判を受けた。
「現地には現地に合った日本料理がある。日本の料理とは違うからといって、それを否定するな」と。
今まで何人かの外国人に、このスシポリスの話をしたことがある。
日本に賛成という人は1人もいない。
皆無。
アメリカ人、中国人、インドネシア人、インド人は「日本の正しい食文化を世界に広げる」という考えはわかるけど、「現地の日本料理も認めるべき」と言う。
スシポリスはやり過ぎらしい。
日本料理を国際化しようとすると、「現地化」という壁とぶつかる。
でもそんな現地化が得意なのは日本人だったりする。
日本人はイタリアにはない明太子パスタをつくり出した。
モスのお米を使ったハンバーガーなんてアメリカにはないだろう。
日本人こそ、なんでも日本化してしまう。
インドのヒンドゥー教徒が日本のビーフカレーを知ったら、激怒するかもしれない。
料理だけではないけど、internationalization(国際化)とlocalization(現地化)の両立は本当にむずかしい。
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