日本でに住んでいる2年になるインド人に“住み心地”をきいたら、
「日本はいいよ~。なんせ宗教の争いがない。インドではヒンドゥー教徒とイスラーム教徒がケンカして、人が死ぬこともよくあるからね。日本に住んでいて、緊張というものを感じたことがない」
と言う。
IT化が進んでいないとか日本への不満はあるものの、宗教対立がないというのは日本・インド社会の決定的な違いだ。
平和共存をモットーとするこのインド人にとって、“無宗教感”であふれてる日本はとっても住みやすいらしい。
そんな話を北アイルランド出身のイギリス人にしたところ、「インドってそうだよね~。宗教の争いが多くて、ちょっと怖いイメージだよね~」と言う。
それはそうだが、でもアイルランドには「北アイルランド問題」があったのでは?
イギリス領の北アイルランドで、英国の一部であることを望むキリスト教のプロテスタント系住民がいる一方で、南にある国アイルランドとの統一を求めるカトリック系住民がいて、両者による衝突や暴動が起きていた。
*イギリスにはプロテスタント、アイルランドにはカトリック教徒が多い。
なかでも最悪の事件は1972年に起きた血の日曜日事件 。
このときイギリス統治に反対する市民14人が英国軍よって殺害され、事件のあった場所から「ボグサイドの虐殺(Bogside Massacre)」ともよばれる。
犠牲者を描いた壁画と、遺族がささげた十字架
でもこんな宗教の違いを原因とする争いは、1998年のベルファスト合意によって終了した。
でもこの間、約3500人が犠牲になったと言われる。
それで北アイルランド出身のイギリス人は、「アイルランドはいまは問題ない。いたって平和。対立が完全になくなったわけじゃないけど、ほとんど問題は起きてないし、特に心配することもない」と話す。
そうか。それなら安心だ。
そんな話をした2年後、いま北アイルランドは燃えている。
産経新聞の記事(2021/04/19)
北アイルランド暴動激化 紛争再燃も懸念
いま再び燃え上がるのは何ゆえ?
記事を読んだらこれは、イギリスのEU離脱が大きな原因になっている。
2020年2月1日にイギリスは欧州連合にサヨナラを告げて、独自の道を歩むこととなったけれど、北アイルランドは“置き去り”にされてしまった。
もし北アイルランドもEUから抜けるとなると、南のアイルランドと他のEU諸国との間に関税施設などをつくらないといけなくなる。
これでは面倒くさいし、住民の対立感情をあおるのでは?
そう危惧したジョンソン政権は、『通商上』は北アイルランドを英国から切り離し、これまでどおり『EU加盟国』とした。
結果、北アイルランドと対岸の英国との間には、貿易上の境界が引かれることとなる。
するとどうなるったか?
イングランドやスコットランドなどから北アイルランドに入ってくる品物には検査が必要となり、ことし1月には北アイルランドのスーパーで品薄騒ぎが発生する。
同じ国なのに、なんで検査をしないといけないのか?
プロテスタント系住民には「イギリスから切り離された」という“裏切られた感”があって、きょねんから怒っていた。
こんな不満を背景に昨年、カトリック系の要人の葬儀が行われた際、新型コロナウイルス対策の規制に違反して政治家ら約2千人が参列しやがる。
そしてことし3月、警察は参列者への立件を見送った。
これにプロテスタント系の人たちが激怒して暴動へと発展。
今月7日にはプロテスタント系とカトリック系住民の計数百人が、火炎瓶などを投げ合ったという。
暴徒化した住民は警察官を襲ったり、バスに火をつけたりとやりたい放題だ。
現地警察は6年ぶりに放水車を使ってこれを鎮圧し、英紙テレグラフは「ここ数十年で最悪の暴動だ」と嘆く。
いま北アイルランドではこのままイギリスの一部でいるか、それともアイルランドと統一するかを問う住民投票の実施を求める声が高まっているという。
イギリスがEUから離れた結果、北アイルランドがイギリスから分離するというオチが待っているかもしれない。
インドでイスラーム教とヒンドゥー教の対立があっても、いまさら驚かん。
でもまさか、いま北アイルランドでそれが起こるとは思わなかった。
プロテスタントとカトリック系住民のケンカは、とっくの昔に終わっていたと思ってたのに。
同じ地域に住んでいて同じ神を信仰しているはのに、宗教の違いは本当に大きいし、それをめぐる争いは根深い。
いつどんなきっかけで再燃するかわからん。
表面的ではなく、心の底から宗教対立のない平和な国に生まれてよかったです。
> 表面的ではなく、心の底から宗教対立のない平和な国に生まれてよかったです。
本当にそうですね。なお、日本人を「宗教」から切り離して、宗教組織も現実世界の政治の管下に位置付けたのは、織田信長と豊臣秀吉の2人の偉大な功績だと思います。(この点は、井沢元彦の説に全面的に賛同します。)
ただし、今後も「平和な国」としてあり続けられるかどうかは分かりません。我々国民のあり方次第です。
アイルランドと並んで、古代ケルト人の言語・文化・風習が今なお色濃く残っているスコットランドにおいて、先日の議会選挙で「イングランドからの分離独立・EUへの再加入」を主張する政党が、多数派を獲得する結果になったらしいですね。
米国との「アングロ・アメリカ同盟の政治及び文化・言語圏」を最も重視するイングランドと、あくまでEU(≒欧州キリスト教文化圏・経済圏であり、かつてのラテン語圏)の一員であろうとしている北アイルランド及びスコットランドとの対立。
これからの「グレート・ブリテン及び北アイルランド連合王国」はどこへ向かおうとしているのか・・・?
この問題は、21世紀の世界秩序をも左右する一因になると思われます。