ことし東海地方は5月16日(ごろ)梅雨に突入した。
これは平年(6月6日ごろ)より21日も早く、統計史上、1963年の5月4日につづく2番目の早さだとか。
早く入ったからといって早く終わることはなさそうで、ことしは全国的に長雨になる予感。
そんな梅雨ごろにあるのが5月26日の「風呂カビ予防の日」。
日本ではこの日を境に、気温と湿度がカビの発生する条件に合うことから浴室のカビが生えやすくなる。
それでカビ予防を始めるにはこの日がちょうどいいということで、こんな記念日ができたらしい。
さて梅雨(ばいう)を辞書で見ると「黴雨」と書いてあることがある。
黴とは「カビ」のことで、カビを漢字変換するとこの文字が出てくる。
この時期は湿度・気温が高くなってカビが生えやすくなるから、カビの雨で「黴雨(ばいう)」ということばができたのだろう。
梅の実がだんだんと熟していくから「梅雨」。
じわじわとカビが発生するから「黴雨」。
現代の日本では、梅雨も黴雨もどっちも同じでどっちも正解なんだけど、一般的に梅雨が使われる理由は「カビの雨」だと気持ち悪くなるからでしょ。
この世の中には上のような蝗害(こうがい)という恐ろしい災害がある。
蝗は「イナゴ」と読み、イナゴ科の昆虫を指し、これに「飛」が加わると「飛蝗(バッタ)」になる。
田んぼにいるイナゴは問題ないんだが、バッタが大量発生すると稲や農作物を食い散らすことがある。
これが蝗害だ。
こいつらは畑を荒らすだけでなく、大地に生えているすべての草、紙や綿までも食べてしまう。
そしてすべてを食べ尽くすと大群で次の場所へと移動するから、収穫を根こそぎ奪われた人間は食糧不足や飢饉で地獄の苦しみを味わうことになる。
歴史を見るとこの蝗害はヨーロッパ・中国・アフリカ・日本など世界中の国で発生していて、特に中国でその被害が大きかった。
中国史ではバッタの大量発生で多くの餓死者を出したり、人肉を食べるという修羅場が出てくる。
当然、「バッタ対策」は中国皇帝にとって超重要な仕事だったし、現代でも2005年に河南省が蝗害によって壊滅的ダメージをうけたから、中国政府にとってもそれは同じはず。
くわしいことは中国蝗災史を確認されたし。
蝗害によって1日で3万5000人分の食料がなくなるという国連の報告もある。
大量の殺虫剤を巻いてバッタを駆除しているアフリカでは、それを巻きすぎて、殺虫剤の毒が人間に有害を与えるというジレンマを抱えている。
アニメ『ゴールデンムカイ』には、登場人物がバッタの大群に襲われるシーンがある。
日本では明治時代の北海道で蝗害がよく発生して、障子まで食いつくすバッタに人々が苦しめられた。
バッタを駆除するために、陸軍が群れに大砲を撃ちこんだこともある。
現代でも1986(昭和61)年に鹿児島県で3,000万匹のトノサマバッタが発生したことがあるから、蝗害が完全になくなったわけではない。
直近では2007年に開港前の関西国際空港で、約4000万匹のトノサマバッタが確認されて大問題になった。
このときは殺虫剤の散布で駆除し、最終的にはエントモフトラ属のカビをバッタに感染させて大発生を終息させることができた。
大砲をぶち撃ちこんだ時代がもはやなつかしい。
江戸時代の俳句の神・松尾芭蕉が梅雨について詠んだ一句がある。
「降る音や 耳も酸うなる 梅の雨」
いつまでも降る雨に耳が酸っぱくなる(梅とかけた)といった意味で、梅雨の長雨には芭蕉もウンザリさせられたらしい。
日本人には梅雨とカビとの長い長い付き合いがある。
そんな地の利をいかして、カビでバッタを殺すという「夷を以て夷を制す」みたいな発想で関空は無事オープンすることができた。
カビはイヤで不快なものだけど、日本を救うこともある。
かといって「黴雨」を使う気にはなれん。
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ナチスとポルポトの虐殺は知ってた。でもソ連の「ホロドモール」とは何?
ソ連・日本・中国の人肉食。ホロドモール、天明の飢饉、文化大革命。
> 歴史を見るとこの蝗害はヨーロッパ・中国・アフリカ・日本など世界中の国で発生していて、特に中国でその被害が大きかった。
私が本で読んだ限りでは(H.エヴァンズ:虫の惑星)、19世紀末に米国で大発生した「ロッキートビバッタ」の蝗害も相当な規模だったらしいですよ。中には、「史上最大の動物集団」としてギネス認定されているケースもあるとか。
ただし、この米国で大被害をもたらしたロッキートビバッタは、20世紀の初めに突然絶滅してしまいました。絶滅の原因は今になっても不明のままなのだとか。動物学・昆虫学の大きな謎とされているようです。
(Wikipedia 「ロッキートビバッタ」より)
その謎が解けないからこそ、今でも世界で大きな被害が度々起こっているのでしょうね。
FAOにはイナゴ専門の担当部署がある位なので。