ナミビアでの「ヘレロ・ナマクア虐殺」をドイツ人はどう思う?

 

間違いを犯しても、それを認めなかったら二重の過ちを犯したことになる。
そんな不名誉には耐えられなかったのか、最近ヨーロッパの強国が過去の過ちについてアフリカの国に相次いで謝罪した。

1994年にルワンダで大虐殺がおきた際、フランスは虐殺を行った政府の側にいて、結果的に多くの国民に苦痛を与えたとマクロン大統領が先月、公式に認めて頭を下げた。

ドイツのマース外相も先月、約100年前にナミビアで行った虐殺を正式に「ジェノサイド(集団虐殺)」と認め、「ナミビアと犠牲者に許しを請う」と謝罪した。

フランスについてはこの記事を読んでもらうとして、ここではドイツがナミビアで行った「ヘレロ・ナマクア虐殺」について書いていこう。

【ルワンダ虐殺】責任は認める。が謝罪は拒否するヨーロッパ

 

これはドイツ領だったナミビアで、日本では日露戦争があった1905年ごろ、ドイツが先住民族を大量殺害した出来事で「20世紀最初のジェノサイド」とも言われている。

 

首にくさりをつながれたナミビアの先住民

 

1904年にドイツがアフリカ南部のこの地に侵攻したことがことの発端だ。
それによって土地を奪われた先住民族ヘレロ族がドイツを攻撃するも、最新鋭の武器を持つドイツ帝国に勝てるはずもない。
ドイツ軍の攻撃を受けて先住民は敗走し、その途中で多くの人が命を失った。
また、別の先住民もドイツに攻撃を加えるも同じく惨敗。

ドイツは先住民のヘレロ族やナマクア族を強制収容所へ収容したり、強制労働をさせた。
これが後のナチス=ドイツによるユダヤ人虐殺につながったという見方があり、ドイツもそれに同意しているから、これは言ってみればホロコーストの「原形」になる。
20世紀最初のジェノサイドが、人類史最悪のジェノサイドになったという悪夢。

ただナミビアでの虐殺にはユダヤ人虐殺とは別の特徴があった。

この虐殺の特徴は、一つは餓死であり、もう一つはナミブ砂漠に追いやられたヘレロ族とナマクア族の使用する井戸に毒を入れたことによる中毒死である。

ヘレロ・ナマクア虐殺 

 

これによって、8万人のヘレロ族・ナマクア族の人たちが命を失ったとみられる。

 

 

いまでは観光地として世界的に有名なナミブ砂漠。
ここが100年ほど前、大虐殺の現場となった。

 

生き残った先住民

 

 

ヘレロ・ナマクア虐殺を指揮したドイツの軍人、ロタール・フォン・トロータ

強制収容所を建設した点や民族浄化を目指した点において、のちにナチス・ドイツが行ったホロコーストとの類似性が指摘されている。

ロタール・フォン・トロータ

 

これについては英語版ウィキペディア「Herero and Namaqua genocide」にくわしい説明がある。

 

ドイツ政府は先月5月にこの蛮行を認め、ナミビアに謝罪して約1500億円の支援金を拠出すると表明した。
でもこれは、ルワンダに対するフランスと同じく「道義的な責任」であり、ドイツに法的な責任はないこと、したがって賠償の義務はないということを明確にした。

かつての韓国統治に対する日本の態度もこれと同じで、法的責任はないから賠償はしない。
でも1965年の日韓国交正常化交渉の際、道義的な責任から巨額の経済支援金をわたした。

 

最近、ドイツ人と話す機会があったから、この虐殺と謝罪について意見を聞いてみた。

いま30代で大卒の彼は数年前まで、ドイツがナミビアを植民地にしていたことを知らなかったという。
ドイツの歴史教育で重視されているのはフランス革命とヒトラーで、特に後者によるユダヤ人迫害については「これでもか」というほどくわしく教える。
だからかつてドイツが植民地支配していた地球上の国なんて、一般の国民はまず知らないらしい。

彼の場合、ナミビア観光に行った知人から「あそこはドイツの植民地だったんだぜ」と聞いて初めてそれを知った。その知人もナミビア旅行がきっかけでその歴史に気づいた。
ほとんどのドイツ国民は「ヘレロ・ナマクア虐殺」をつい最近知ったから、外相による「虐殺認定」はいまドイツ国内のビッグニュースになっている。
彼としてはそれが歴史的事実である以上、公式認定と謝罪は当然でむしろ遅すぎた。
ナミビアへの支援金についても、ドイツにとって名誉なことだと言う。

 

さすがフランスとドイツだ。
アフリカの国に対して過去の蛮行を認めて謝罪するのは、両国の道徳心の高さや潔さ、そして公正さをよく示している。
なんて思っちゃった人は、韓国メディア・朝鮮日報の記事を読んだほうがいい。(2021/06/05)

仏・独はなぜ過去史反省競争をしているのか

両国がこんな”競争”をしている理由として、朝鮮日報はこう指摘。

・いまアフリカではケニヤやタンザニアなど英語圏の国の力が増大しているため、フランスは自身の影響力を確保したかった。(ルワンダは数少ないフランス語圏の国)

・いまアフリカでは中国とロシアの進出が目立つから、フランスやドイツとしてはその動きを抑えてヨーロッパの影響力を保持したい。
ただ中国・ロシアは独裁政権でも、クーデターを起こした軍部にでも積極的に支援する一方、自由や民主主義の価値を強調するフランスやドイツにはそれができない。

・フランスは来年に大統領選挙、ドイツはことし9月に総選挙がある。
だからこのタイミングで頭を下げることは有権者に、「移民排斥」を訴える極右政党との違いを見せることができる。言ってみれば“選挙対策”のひとつだ。

 

過去に犯した過ちは素直に認めて謝罪するというのは、道徳や正義の問題ではあるけれど、自国の都合や利益を計算した上でのことでもある。
だから独仏ともに一線を引いて、法的責任は絶対に認めない。
この態度をズルいと思うかどうかは個人の価値観しだいで、とにかく世界はそう動いている。
悪いことをしたら素直に認めて謝るというのは個人がすることで、国家はそう簡単に頭を下げないし、その角度もちゃんと計算している。

 

 

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1 個のコメント

  • 歴史上の事実に対する道義的責任からの他国の謝罪行為に対して「態度が悪い」と非難する前に、韓国メディアは、ライダイハン問題やコピーノ問題に対して自ら謝罪するか謝罪を促したらどうなのか。
    少なくとも「動機が不純である」と他国を非難する前に、その謝罪行為があったことをまず認めるべきだろう。
    まったく「自ロ他不」極まりない。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。