「一線」を超えた韓国起源説。日本刀の技術を伝えたのは…

「戦後最悪」と言われても、納得か同意するしかない現在の日韓関係。
その要因は政治的対立が大きいのだけど、ときどき出てくる「韓国起源説」も日本人の韓国観に地味に悪影響をあたえている。
一つ一つは小さくても、ちりも積もればエベレスト。
このボディブローがむかしから何度も繰り出されるから、日本社会で「韓国嫌い」を定着させる無視できない一因になっているのだ。

最近ではこの韓国メディア・ヘラルド経済の記事がむごかった。（2021.06.18）

‘백제인 영혼 깃든 리믹스’ 야마하의 스토리텔링

機械翻訳だと「‘百済人魂宿ったリミックス’ヤマハのストーリーテリング」。

リミックスとはヤマハのゴルフ・ブランドのこと。
最初に言っとくと、日本企業のヤマハとこの記事の内容はほぼ関係ない。むしろヤマハは事故に巻き込まれた被害者だ。

百済（くだら）は朝鮮半島にあった国で、660年に唐・新羅の連合軍に敗れて滅亡する。
その後、鬼室福信（きしつふくしん）ら百済の残存勢力を日本（倭）が支援し、633年に百済復興をかけて一緒に唐・新羅の連合軍と戦うが、大敗した（白村江の戦い）。
こんな感じに日本と百済には深いつながりがあって、仏教が百済から伝わるなど文化交流も行われていた。
さて、歴史はここまでだ。

記事によると、鉄製刀剣の先進的な製作技術は百済から日本へ伝わった。
まぁこれだけならいつもの「韓国起源説」と変わらない。がこのあとの展開は日本人の想像や、もはや銀河系さえ超越している。
日本人の自尊心であり、「心臓」と呼ばれるほど象徴的だった日本刀が、百済人の子孫によって作られたという事実を日本人は隠したかった。（は？）
それで「月明かりひとつない暗いある日」、日本人の刀工たちは百済人の子孫を殺害した。そしてそれを知った妻は自殺した。

このとき逃げ出した人が現在の浜松にたどり着き、血に染まった服と妻が自決する時に使った短剣をその地に埋めた。
その浜松市にはいまヤマハやホンダ、スズキなど世界的な大企業がある。
だからそのヤマハで作られたゴルフクラブには、すばらしい技術を持っていた百済人の刀職人の魂が宿っているという。
ちなみに記事には浜松が「日本刀を製作した五大門派の中の一つ」と書いてある。これは「五箇伝（日本刀の五大刀工流派）」のことだろうけど、浜松はまったく関係ない。

浜松には40年以上住んでいるワイ、そんな説は１ミリも聞いたことがないし、これからも耳にすることはない。「韓国発」の情報でもない限り。
この話を書いた韓国の記者にはどこでそんな話を知ったのか、教えてほしいところなんだがそれは無理。
百済からすぐれた刀の製作技術が伝わったこと、それに“嫉妬”した日本人が百済人職人の子孫を殺したことの根拠が、まったく何も示されていないのだから。
「月明かりひとつない暗いある日」ではなくて、日本人による襲撃事件が起きたおおよその日を書いて、（）でいいからその資料を記してほしい。
殺害された様子はくわしく書いてあるのに、その人物名は一切ないという謎。

この記事について結論からいうと、古代東アジアには倭（日本）と百済という国があって、両国には交流があったということ以外はわからなかった。
百済から刀工職人が渡ってきたということも含めて、あとは歴史ファンタジー。

だから日本のネットを見ても、すこぶる受けが悪い。

・本気で気持ち悪い
・という夢を見た
・はじまったw
・壁画に描かれてるからな
・なんかどんどん設定出てくるな。逆シャア以降のガンダムじゃあるまいし。
・韓国起源ｷﾀ━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━!!

くれぐらいはまだライトなほうで、ここでは書けないような侮辱語や差別語もフツーにある。

なかには記事をよく読まずに、ヤマハが韓国で自社製品を売るために、広告でこんな物語を広めているとカン違いして怒る人もいた。
この歴史秘話とヤマハはまったく関係なく、完全なとばっちりだ。

なお鉄製の刀剣類の生産なら、日本では古墳時代の前からあった。
日本刀についてのくわしい情報はここでチェック。

日本刀が貴ばれた結果、それを作る刀工にはしばしば朝廷から正式な官位が与えられ、公的な地位が高かったことも、諸外国と比べたときの特色である。

日本刀

ゴルフクラブの広告でこんな説を唱えたのはヤマハではなくて、それを販売する韓国企業か韓国の広告代理店だったというのが今回のオチ。

「百済人の魂が宿る」というのはゴルフクラブに付加価値を持たせることができるし、他との差別化にも有効だ。
売上アップが第一目標にあり、そのため消費者の注目を浴びるストーリーを考え出すのは企業として当然のこととはいえ、「韓国起源説」と日本人の「蛮行（この場合は斬殺）」の合わせ技はいくら何でもやり過ぎだ。
ネット世界のいまではこういう細かい情報が日本語訳され拡散されることを、この話を創作した人物は想像していなかっただろう。
その結果、日韓関係が小さなダメージを負い、それが重なるとけっこう深い傷になる。