【ネーミングセンス】有名企業が“リンゴ”を採用した理由

 

中国政府に批判的だった香港紙がきょうを最後に廃刊となる。

産経新聞の記事(2021/6/24)

蘋果日報、最後の朝刊を発行 100万部

この朝刊では、「雨の中で別れを惜しむ。私たちは蘋果を支持する」 という香港市民の反応を伝えたという。
きょうに限っていえば、蘋果日報ではなくて蘋果悲報だった。

さてここで取り上げたいのは、政治問題ではなくてネーミングセンス。
売り上げを伸ばすためには良い商品をどんどん提供したり、効果的な宣伝やバンバンすることも大事なんだが、会社のブランドイメージを決定づける名前も重要だ。

ギリシャ神話に出てくる「勝利の女神」に由来するNike(ナイキ)や、ラテン語で「音」を意味することばSonusに由来するSONYはその成功例。

話は香港紙の「蘋果日報」に戻すと、「蘋果」とは台湾や香港で使われる中国語でリンゴのことだから、これを英語にするとApple Daily、日本語なら「リンゴ日報」になる。
ちなみに繁体字の香港や台湾と、簡体字の中国本土では違う漢字を使っていて、中国でリンゴは「苹果(ピングゥオ)」と表記される。
そして日本の漢字では林檎だからややこしや。

蘋果日報」については前々から、「リンゴ」をつける理由が気になっていた。
リンゴというと、赤い、おいしい、栄養がある、身近といったイメージがあるとして、なんでそれが新聞の名前になるのか?
今日が最後の機会と思って調べてみると、1995年にこれを創業した黎智英(ジミー・ライ)氏にはこんな思いがあったという。

「もしアダムとイブがリンゴを口にしなかったら、世界に善悪はなくニュースも存在しなかっただろう」

ユダヤ教・キリスト教・イスラム教の聖書によると、エデンの園には知恵の樹(善悪の知識の木)があって、その果実(禁断の果実)であるリンゴを食べることを神が禁止していた。
なのにその禁を破って、パクリとしてしまったアダムとイブは善悪の知識を得て「羞恥心」を身につけ、自分の裸の姿を恥ずかしいと思って葉っぱで秘所を隠す。
これが原罪となり、2人は神によってエデンの園から追放された。

ジミー・ライ氏はこの話にヒントを得て、新しいメディアに「蘋果日報」と名づけた。
身近な物に深い意味を込めるという、さすがのネーミングセンス。

 

リンゴを名前に採用した会社で、世界で最も有名なのはこの企業で間違いない。

 

 

 

アメリカのコンピューター会社アップルを中国では「苹果公司」と呼ぶことがある。
*苹果はリンゴ、公司は会社のこと。
それで iPhone は「苹果手机」で、それぞれ「りんごの会社」と「りんごのスマホ」といった意味になる。

蘋果日報に比べるとこっちのリンゴはわりと単純だ。
果実食主義者だった創業者の一人スティーブ・ジョブズ氏が、リンゴ農場から戻ってきた時にこの社名を思いついた。
アップルの響きを「楽しげで、元気がよく、威圧感もない」と思い、さらに電話帳では、自分が退職したアタリ社より上に来る名前だったことから、「Apple」が生まれたとジョブズ氏が話している。

くわしいことはAppleの歴史を。

 

いま両社を見ると香港の「蘋果日報」は枯れ落ちて、アメリカのアップルは生き残った。
同じリンゴでも、明暗がハッキリと分かれた。
どうして差がついたのか…慢心、環境の違い。
いや中国政府を真っ向から批判したからだ。
やっぱり禁断の果実をかじった代償は大きかったようだ。

 

おまけ

椎名林檎さんのリンゴの由来が気になって調べたら、ご自身がドラマーだったことでビートルズのリンゴ・スターから、さらには子供のころ超恥ずかしがり屋で、先生に指名されるとほっぺが真っ赤になったから「林檎」になったという。

 

 

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1 個のコメント

  • >アップルの響きを「楽しげで、元気がよく、威圧感もない」と思い、さらに電話帳では、自分が退職したアタリ社より上に来る名前だったことから、「Apple」が生まれたとジョブズ氏が話している。

    このエピソード、当時のコンピュータ関係業界では結構有名な話でして。で、そのエピソードが一般にも広く知られた結果、80年代(だったかな?)の米国では、社名に「AAA〇〇〇〇会社」という名前をつける会社がやたらと増えて、イエローページ(アルファベット順の米国の電話帳)の先頭ページがその手の名前の会社ばかりになってしまったのだとか。
    ハリウッド映画の「ターミネーター2」では、冒頭、シュワルツネッガー演ずるT2が「サラ・コナー」という名前をLAの電話帳で調べて、同姓同名の女性を片っ端から射殺していきます。それも実は、このエピソードにヒントを得たという話があります。(字幕では刑事が『電話帳殺人事件?』と言ってました。)

    一方、同時代の日本では、筒井康隆がこのエピソードにヒントを得て小噺を書いています。それによると「知人から新装開店するバーの名前を考えて」と頼まれたので、電話帳の一番うしろでよく目立つように「ん」という名前を贈ってあげた。で、その店の名前を電電公社(当時のNTT)へ申請したところ、「『ん』の項目はありません!」と断られてしまったとか。ま、どう考えてもジョークだと思いますけどね。

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