【最悪の人種暴動】在日シンガポール人が話す、日本との違い

 

きょう7月21日は神前結婚記念日。
いまでは当たり前の神前結婚式は1900(明治33)年に皇太子(後の大正天皇)と九条節子(後の貞明皇后)が神前で結婚式を挙げたことに始まる。
これを知って「自分たちも神前で結婚式をしたい!」という国民が続出したことから、同じ年の7月21日に、いまの東京大神宮が神前結婚式のPRを始めたことにちなんでこの記念日ができた。

で、日本のずっと南に目を向けるとそこにはシンガポールがあって、きょうは7月21日は「民族融和の日」になっている。
これは文字どおり、国内にいるいろいろな民族が仲良くしようという、ほほえましくハッピーな日に見えるんだが、シンガポールがこの日を必要とする背景には悲しい歴史があった。
世界最古の国といわれる日本と、1965年にマレーシアから独立してできたシンガポールでは歴史の長さでは圧倒的な違いがある。
でも、日本に住んでいたシンガポール人に聞くと、両国のもっと大きな違いとして彼女が指摘したのは「多様性」。
実際、それに関わる「民族融和の日」と、その制定のきっかけとなった民族対立は日本の歴史ではみられないものだ。

 

でもその出来事を紹介するまえに、シンガポールの基本を確認しておこう。

 

 

広さは東京23区とほぼ同じで首都はない。

 

 

「ライオンの都市」という意味のシンガポールってこんな国。

人口:約547万人(うちシンガポール人・永住者は387万人)(2013年)
民族:中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%
言語:国語はマレー語。公用語として英語、中国語、マレー語、タミール語
宗教:仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンドゥー教

以上は外務省HPにある「シンガポール共和国(Republic of Singapore)基礎データ」から。

 

シンガポールにあるインド系が住む地区

 

東京の一部ほどの小さな国内に中華系・マレー系・インド系などの民族と3つの公用語、さらに世界各地の宗教が混在しているシンガポールはザ・多民族国家。
それで民族の違いを原因とする対立や争いはよくあって、1950年代には少なくとも4つの暴動が発生し、合わせて約60人が死亡している。
そしてマレーシアから独立する前年の1964年7月21日、20世紀になってからはシンガポールで最悪の人種暴動が起きた。

イスラム教の預言者ムハンマドの誕生を祝うため2万人のマレー人が集結すると、以前から政府がマレー人を優遇していることに反発していた中国人が、その集団に石を投げるなどしたことから、マレー人と中国人が互いを襲う大規模な争いに発展。
いったんは収まったものの、憎悪は残っていた。
それで9月にも人種暴動が発生し、7月と合わせて36名が死亡、500名以上が負傷する大惨事となった。

この流血の争いによってマレー人と中国人との共存は不可能と判断され、翌1965年にリー=クアンユーの指導の下、シンガポールはマレーシアから独立した。
といっても、これはシンガポールが望んでいたことじゃない。
マレーシア連邦から追放されるような形だったから、テレビ演説で国民に独立を伝えるリー・クアンユーは涙を流したという。

英語版ウィキペディアでは1964年の暴動を戦後のシンガポールで最悪の、しかも最も長く続いたものだと表現している。(worst and most prolonged in Singapore’s postwar history)
そしてこれはシンガポールの独立や、多民族・多文化主義の政策において決定的に重要な影響を与えたという。

The riots are seen as pivotal in leading up to the independence of Singapore in 1965, its policies of multiracialism and multiculturalism, and to justify laws such as the Internal Security Act.

1964 race riots in Singapore 

 

民族の多様性はシンガポールの強さであり、最も危険な要素でもある。
ということで最大の悲劇があった7月21日を「Racial Harmony Day(民族融和の日)」 にして毎年、各民族の平和や友好を確認している。
シンガポールに住んでいる日本人のブログでこの日は中国系、インド系、マレー系などの子どもたちはそれぞれの民族衣装を着て学校に行くという記事を見た。

冒頭に出てきたシンガポール人は中国系なのに、イスラム教やヒンドゥー教の祭りがあるとSNSでお祝いのメッセージを投稿していたから、「関係ないのになぜ?」と違和感を感じていた。
それはシンガポールの多民族・多文化主義の政策や教育の結果に違いない。

 

 

日本は多様性とはド反対、人口の約95%が日本人という世界的にも同質性の高い国。
歴史をみても、シンガポールのような民族の違いを原因とする争いはなかった。
と言いたいところなんだが、1948(昭和23)年に日本人・朝鮮人との争い、浜松事件(浜松大紛争)もあったからゼロとはいえない。
でも、何十人も犠牲となるような大規模な暴動はないだろう。

それに日本人は結婚式でも、仏教・神道・キリスト教のやり方を自由に選ぶことができるような、フレキシブルな信仰心を持っているから(=無宗教)、宗教をめぐる争いもない。
だから「民族融和の日」という、シンガポールには絶対不可欠な日が日本には必要ない。(もちろんこの考え方は大事)
その代わり日本には結婚式を挙げると、全国に影響を与えるような天皇という国民の象徴的な存在がいる。古代から一度も王朝交代がなく、現在までこれほど長く続いている王朝は世界には他にない。
いろいろ比較すると、シンガポール人の指摘した「多様性」は日・シ両国の最大の違いといってよさそうだ。

 

 

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2 件のコメント

  • >民族:中華系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%
    >言語:国語はマレー語。公用語として英語、中国語、マレー語、タミール語

    なるほど、シンガポールがマレーシアから独立したのは、主に中華系民族が望んで独立したのではなく、マレーシアから「追放」される形だったのですね。それは知りませんでした。だから、国語がマレー語なんだ。
    中華系とマレー系の対立は、インドネシアでもしばしば大きな社会問題になりますね。

    シンガポールの現状で、実質的には「全国民共通の第1公用語が英語(ただし文法と発音に特徴のあるSinglish話者が多い)」であり、その他の中国語(主に広東系か?)、マレー語、タミール語は身内の間だけで使われているようですね。シンガポールが東南アジア地域における「ビジネスと経済の中心」という地位にあるのも、第1公用語に英語を位置づけていることが大きく影響していると思います。
    それと、生活実態を見ると、国民の上層主流派はやはり「英語話者の中華系」でほとんど占められているようで、マレー系国民は隣国マレーシアからの多くの「越境通勤者」を含めてブルーカラーや接客型サービス業が多く、またインド系は個人商店経営者が多いように見えました。

    > 宗教:仏教、イスラム教、キリスト教、道教、ヒンドゥー教

    このうち、イスラム教はマレー系、ヒンドゥー教はインド系でほぼ間違いないのですが、中華系はよく分かりませんでした。なんとなくですが、中華系の一部はキリスト教(富裕層・高学歴層に多い)、その他の大半は仏教と道教がごっちゃになっているような感じです。台湾の人々の宗教もそうだと思います。
    それはちょうど、日本人が、神道をベースに仏教をも受け入れているのと似ています。それを私は「無宗教」であるとは思いません。どちらかと言えば「多宗教」では?

  • 昔、シンガポールに少しの間滞在した時の話なんですが、やたらと「Can! can!」とか「Can you ~ ?」とか言われて、面くらいました。あと、ラジオDJとか、女の子たちが「Siao!」という知らない単語をすぐに使うので、「それどういう意味?」って聞いても笑って教えてくれなかった。
    自分で調べても辞書には載ってなくて、どうしても分からなかったのですが、一人の子が「それは福建語で『お馬鹿さん!』という意味よ」って教えてくれました。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。