芸能人の脱税事件なら日本でもあるかもなんだが、中国はスケールが違った。
産経新聞の記事(2021/8/28)
中国人気俳優に罰金51億円、テレビドラマ出演めぐり脱税、業界から抹殺
若手の人気女優・鄭爽(ていそう)さんの脱税工作がバレて、約51億円の支払いを命じられた。
そのやり方は、税務署用の契約書と実際のカネが動くリアルの契約書の2種類を作成し、税務署には偽の契約書を渡して、その裏では巨額の報酬を受け取っていた。
名前のようなさわやかさは皆無で、ほんとに真っ黒。
このズルが発覚して51億円の支払いが命じられたといっても、そもそも稼ぐ金額がすごすぎる。
大金のほかに中国らしいなと思ったのは、この手口を「陰陽契約」と表現するところ。
陰陽(いんよう・おんみょう)とは森羅万象、この世にあるすべてのものを陰(いん)と陽(よう)の二つに分けて考える古代中国の思想のこと。
具体的にはこんな感じ。
陰に属するものは月、秋、冬、夜、西、北、水、女、静、重、柔、冷、暗など
陽は日、春、夏、昼、東、南、火、男、動、軽、剛、熱、明など
歴史的にこの思想は日本に大きな影響を与えたから、これからそれを見ていこう。
これに五行を加えた陰陽五行説で吉凶を占う者を「陰陽師(おんみょうじ)」という。
陰陽道についての深い知識があった平安時代の陰陽師・安倍晴明は呪術で病気を治したり、悪霊を退治したという。
清明は日本最強の陰陽師なんて言われることもあって、いまでも漫画や小説で大人気。
電気や磁気のマイナス・プラスを、陰極・陽極と呼ぶことは理科の授業でならったはずだ。
中国地方の日の当たる南側は「山陽」、影になる北側を「山陰」と言い、それらを合わせた陰陽連絡線、陰陽選抜大会、陰陽ダービーなんてものもある。
そして去年からコロナの陰性・陽性という言葉を聞かない日はない。
女は陰で、男は陽になるのはさっき書いたとおり。
でもそのほかに、江戸時代にはその両方の特徴を持つ「半陰陽」という第三の性があったのだ。
陰か陽のどちらかに分類できない性という概念は古来からあって、平安時代に書かれた病草紙にも男性の占い師が半陰陽だったという話がある。
ここにその画像を載せようと思ったんだが、江戸時代の絵は生々しくてグーグルからペナルティーをくらいそうだから半陰陽のリンクから見てほしい。
いまでいうふたなりのことだ。
最近のネットやアニメでは暗い・後ろ向き・悲観的、さらにはコミュニケーション能力や社会性に欠けた人をよく「陰キャ(陰気なキャラクター)」と言う。
この反対が「陽キャ」で、体育会系やパリピといった活発な属性を含むことが多い。
こういう人の性格を表す陽気と陰気も、元をたどれば古代中国の陰陽思想に行きつく。となると、これが日本のマンガやアニメのキャラ設定に与えた影響は絶大。
ただ現実世界で「陰キャ」を使うときには注意が必要なようだ。
使う人によって意味合いや目的が変わる言葉のため、安易に煽りやいじりに使うと最悪人間関係が崩壊するリスクがある。
陰と陽が触れ合うことで万物が生まれ、その勢いの増減によって季節(四季)が形成されるという。
この2つを合わせた図が上の太極(たいきよく)だ。
ではここで陰陽クエスチョン。
いま8月後半というと、上の図では一体どのあたりになるだろうか?
答えは、てっぺんのやや右。
ことし2021年は、8月22日が中国の「中元(中元节)」にあたる。
中国では中元の日になると地獄の門が開いて、死者の霊がこの世に戻ってくると考えられているから、日本のお盆とコンセプトはかなり近い。
日本の夏のお中元の起源はコレだけど、いまではお世話になった人や親しい人にプレゼントをするクリスマスのようなイベントになっている。
知人の中国人に中元について質問したら、中元とは「幽霊の日」だという。
「中国はこの日をお中元节といいます。この天と地の府の门が开き、亡くなった人の魂が人间に戻るという伝说があります。この日は幽霊の日です。」
そしてこの幽霊の日は、陰陽的にはこう考えられているらしい。
「実はこの日は阳(万物が栄えている)から阴(万物が衰えている)に転じる日です。」
中元のころが阳(陽)のピークで、それを越えるとだんだんと阴(陰)へ変わっていく。
中元が過ぎたいまは陽の気が減少していき、陰の気が入り込んでいる時期だから、さっきの図だと頂点を少し右にずれたところとみることができる。
上の中国人の話では、地上が陽気で満たされていくのが夏で、しだいに陽気は地中に消えていき、反比例して陰気(冷たい気)が地表にあらわれて秋や冬になっていくとのこと。
そして二十四節気でみるとことしは8月日23日から「処暑」になり、この時期から厳しい暑さがおさまって、涼しさを感じられるようになるとされている。
たしかにこのころからクーラーの使用頻度が減ってくるし、かすかに秋の気配も感じられる。
陽気と陰気の交代が始まり、陰気が入り込んでいくという感覚は朝晩に実感できるし、太極の図では上と下がそれを示しているように見える。
ということで古代中国で生まれた陰陽思想は、日本に大きな影響を与えているということがお分かりいただけだろうか。
でも「陰陽契約」はいらネ。
おまけ
韓国旗は陰陽の考え方を取り入れていれてデザインされたもの。
知人の韓国人は生まれて初めてペプシコーラのデザインを見たとき、韓国旗がモデルになったのかとマジで疑った。
> 電気や磁気のマイナス・プラスを、陰極・陽極と呼ぶことは理科の授業でならったはずだ。
電気についてはその通りなのですが、磁気については残念ながら間違っています。
磁気(磁石)では、N極(北極を指す側)とS極(南極を指す側)と習ったはず。NorthとSouthです。
どうして電気と同じ名称にしないかというと、電気と磁気の両者が同一空間に存在する場合、つまり電磁場が存在する空間においては、必ず、電場の方向と磁場の方向とが直角になるからです。電気がX軸方向に流れているならば、磁気はY軸方向に発生します。(フレミングの法則、少し不正確な説明ですが。)
たとえばコイル電磁石を考えてみてください。鉄芯の周りに導線を何回も巻きつけて直流電流を流すと、鉄芯が電磁石になって両端がN極・S極になります。このとき、鉄芯の周りの導線1本の微小な長さは、どの箇所で考えても、鉄芯の方向(N-S方向)と直角方向に向いています。
磁気について「陽極・陰極」と呼ぶことは学会誌にもある常識的なことです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/19/1/19_1_36/_article/-char/ja/