日韓冷戦:日本の「戦略的無視」に怒る韓国がしたことは?

 

岸田政権が誕生してから8日がたった。
というのに、隣国の文大統領に電話がかかってこない。
岸田首相はバイデン米大統領をはじめ、オーストラリア・ロシア・インド・中国の大統領や首相ら首脳とは電話で話をしたのに、韓国・大統領府にある電話は1週間以上も沈黙したまま。
これは「ごめん!かけるの忘れてた」ということではなくて、岸田政権が意図的に韓国を後回しに、ハッキリ言えばとりあえず「無視」しているとみるのが自然だ。

中央日報は日経新聞の記事を引用してこう伝える。(2021.10.12)

日本外務省と官邸は当初から岸田首相が早期に電話会談を実施する国のグループに韓国を入れない方がいいとの認識で一致していたと報じた。

岸田首相、韓国飛ばし各国首脳と電話会談…日本メディア「総選挙意識」

 

岸田首相が就任のあいさつを行う最初のグループから韓国を”ハブ”にしたのは、今月31日に行われる衆院選を意識した面もあるという。

日本が属する「クアッド」の同盟国である米豪印のほか、周辺国のロシアや中国のトップとは言葉を交わしたけど、文大統領とは電話会談の日程を調整しているところ。
つまり、まだその日付さえ決まっていない。
ちなみに菅前政権は中国やロシアよりも先に韓国へ連絡したから、今回は外交の優先順位が落とされているのは明らか。

岸田首相の冷たい反応に、「文大統領の任期中の韓日関係の改善はむずかしい」という見方が韓国では広がっているという。

 

韓国に対する日本政府の「戦略的無視」はかなり前から始まっている。
ことし1月にカン・チャンイル駐日韓国大使が赴任して、通常なら外務大臣へのあいさつが行われるはずなのに、茂木外相は面会をしなかった。
その理由を問われた茂木外相は、「スケジュール的に全ての大使とすぐ会える時間的な余裕がない。忙しいのが事実だ」とそっけない。
「忙しいから会えない」は、「彼には会いたくない」という意味であることは中学生でもわかる。

日本政府は前々から、慰安婦・元徴用工問題で日本が受け入れ可能な解決策を韓国側が示すよう求めてきた。
いまの関係悪化は韓国の裁判所が国際法に違反する判決を出したことが原因なのだから、韓国政府が責任をもって問題を解決しないといけない。
その案を用意するまではカン大使との面会には応じない、ということを日本は「無視」という冷遇によって伝えたのだ。
今回の岸田首相による「韓国飛ばし」もこれと同じ理由のはず。

 

文大統領はことし3月に行った演説で、日本を直接非難することなく、

「(日韓関係について)過去に足を引っ張られているわけにはいかない」
「過去の問題は過去の問題として解決していき、未来志向的な発展により力を入れなければならない」

と関係改善を求める意思を示した。
とはいえ、「易地思之(相手の立場で考えること)ができれば過去の問題も解決は可能」といったコトバだけで具体案はなし。
だから日本政府は「重要なのは、両国間の懸案を解決するためには、韓国側が責任を持って具体的に対応すること」と今までと同じコトバを繰り返す。

日本の実質的な「韓国パッシング」に、文大統領の立場に近いハンギョレ新聞が社説でこう訴えた。(2021-03-02)

日本政府は「関係改善の契機は韓国が作らなければならない」という硬直した姿勢から脱し、対話に乗りだしてほしい。(中略)心から問題を解決しようとするならば、ボールを相手を渡し責任を問うのではなく、膝を突き合わせなければならない。

文大統領「相手の立場を考えての対話」、日本も応じてほしい

 

「対話に乗りだしてほしい。」というイライラや、忸怩(じくじ)たる思いは韓国政府も同じはず。

でも日本による「韓国無視」は、韓国による「日本無視」から始まったといえる。
2018年に韓国の最高裁判所が日本との合意をひっくり返す不当判決を出して以来、日本政府は受け入れ可能な解決策を繰り返し韓国側に求めてきた。
にもかかわらず文大統領はこれを無視し、2019年には演説で、現在の問題は韓国が作ったのではなく、「歴史の不幸」によって生まれたものと述べて日本にこう言った。

「日本の政治家が政治争点化し、拡散させていることは賢明な態度ではない」
「日本政府は、もう少し謙虚な態度を示すべきだ」
「日本は判決に不満を表明できるが、仕方がないという認識を持つべきだ」
「政治的に争って未来志向を妨げるのは望ましくない」

 

問題解決の具体案を求める日本にとって、これはもうゼロ回答以下、もはや挑発行為に等しい。
韓国側がしっかりした解決案さえ用意したら、日本は話し合いに応じると前から言っているのに、韓国政府はその主張をスルーし続けていまも応えていない。
だから目には目を、無視には無視が返ってきていまの日韓冷戦の出来上がり。
「相手の立場を考えてほしい」、「心から問題を解決しようとするならば」というのは日本のセリフで、この分厚い氷を解かすにはまず韓国側が先に動く必要がある。

 

 

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「韓国はすぐゴールポストを動かす!」でも、日本も悪いんですよ。

 

2 件のコメント

  • ごもっともですが、韓国政府は動けないでしょう。
    韓国政府が韓日間の争点に対して日本政府が満足できる解決策を提示するためには、彼らの行動を自ら否定しなければならないからです。進退両難です

  • そうだと思います。
    今までのツケが回ってきました。
    日本も引く様子はないですし、このまま冷戦状態が続くでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。