【日本の美】伊勢神宮と東照宮、ヨーロッパ人の真逆の感想

 

お笑いコンビ「流れ星☆」の瀧上伸一郎さんが最近、日本最高の聖地を訪れた感想をブログにこう書いた。

「こないだマネージャーに誘われて伊勢神宮に行って来ました。日本の源って感じで心が洗われました!」

でもって伊勢神宮には毎年、参拝しているという俳優の岡田将生さんはこう話す。

「伊勢神宮に行かせていただくと、今年の仕事を頑張ろうとパワーをいただける。」

「日本の源」と感じさせるのは伊勢神宮にある建物が日本最古の神社建築様式のひとつ、神明造(しんめいづくり)だからだろう。
古代の日本で神明造の建物は、稲などの穀物を保管する高床式倉庫だったと考えられている。
なかでも伊勢神宮の内宮と外宮の正殿(本殿)は別格だ。
この建築様式はほかの神社にはなく(明治政府が建設を禁止)、伊勢神宮だけに存在することから唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)と呼ばれる。

日本人にとっては聖地やパワースポットであるこの神社、ヨーロッパ人ならどう思うのか?

 

伊勢神宮にある神明造の建物

 

1933年(昭和8年)にドイツの世界的建築家ブルーノ・タウトが、ナチスの迫害から逃れて日本へやって来た。
そのとき三重を訪れて、伊勢神宮を見た建築のプロフェッショナルはこう絶賛。

いわば稲田の作事小屋や農家の結晶であり、真の『神殿』すなわち国土とその大地の精髄(せいずい)の安置所なのである。国民はそれを国民の最高の象徴として崇拝する

「ニッポン (講談社学術文庫)」

 

神明造のもともとの目的からして、神宮の建物が「稲田の作事小屋や農家の結晶」という指摘はまさにそのとおり。
京都の桂離宮を「泣きたくなるほど美しい」と称賛したタウトは、彩色や彫像といった装飾のない伊勢神宮の簡素な美しさに心から感動したようだ。

そんな彼が「すべてが威圧的で少しも親しみがない」、「珍奇な骨董品の感じ」、「華麗だが退屈」と、フラリ立ち寄った食堂の料理を酷評した海原雄山のようにボロクソ言った建築物がこちら。

 

画像:そらみみ

 

桂離宮を「泣きたくなるほど美しい」と感動する人なら、日光東照宮のキラキラ・ゴテゴテした装飾を見たら怒りが湧いてくるかも。
敵をつくらないように「どっちもそれぞれの良さがありますネ」と無難に言うよりも、「好き/嫌い」を主観でハッキリ言った方が聞き手の印象には残る。
ヨーロッパ人はけっこう自分の意見や感想を忖度なしで言う。

でも感性や美意識は人それぞれで、捨てる神あれば拾う神あり。
海原雄山にトラウマレベルのダメ出しをくらって食堂のオヤジが涙を浮かべると、次にそこへ山岡士郎がやって来て励ます、というのが『美味しい』のゴールデンルールだ。しらんけど。
これと同じように、タウトとは正反対の見方を持つヨーロッパ人もいた。

 

ブルーノ・タウト

 

このまえ伊勢神宮に行ったというスペイン人と会ったから、その感想を聞いてみたら「正直に言うと、とてもつまらなかったです」と酷評しやがりました。

くわしい歴史や背景が分からないから、自分は単純に建物やその装飾を見たいと思った。
でも伊勢神宮は、どこに行っても同じような建物ばかりで完全に退屈した。
一緒にいた日本人について行って内宮を歩き回ったから、外宮は少し見ただけでお腹いっぱいになって、さらに奥へ行こうとは思わず、みんなと別れて自分はスマホをいじっていたという。

タウトのようにシンプルをビューティフルとは言わず、ボーリングと評したスペイン人が「素晴らしい!」と感動したのが静岡にある久能山東照宮だった。

 

 

日光と同じく徳川家康をまつる久能山東照宮も、伊勢神宮の真逆でとてもゴージャスな造りになっている。
このスペイン人の美的センスからすると、こういう外見こそ日本的で、失望ではなく感嘆のため息が出てくるってもんだ。

こういうのを期待してお伊勢さんに行ったら、海原雄山のような険しい表情になってしまうのも分からなくもない。
知人のスペイン人が浜松から3時間以上かけて伊勢市に行って、「その価値はあった!」と感動したのは伊勢のシーフードだった。たしか大ハマグリ。
日光東照宮を好きな日本人は多いけど、「心のふるさと」「心が洗われる」と感じるのは伊勢神宮の方だと思う。

 

「花より団子」みたいなスペイン人に、先月10月に行われた神嘗祭(かんなめさい)の話をすると伊勢神宮への見方がチョット変わった。
神嘗祭とは、天皇がその年にとれた新穀を天照大神に奉納する祭のこと。
日本では古代からある祭で、応仁の乱のころに中断されたこともあったけど、江戸時代の1647年からは毎年行われている。
太平洋戦争の最中も日本人の幸せや繫栄を願う神嘗祭は途絶えることはなかったし、いまでは秋の季語になるほど日本人には身近な祭。
詳しいことはこの記事を。

伊勢神宮の「神嘗祭」が日本で最も大事な祭りである理由

 

はるか昔の価値観や思想をいまに伝えているから、日本人は伊勢神宮に触れるとこう感じるのだ。

「日本の源って感じで心が洗われました!」
「伊勢神宮に行かせていただくと、今年の仕事を頑張ろうとパワーをいただける。」

スペイン人も日本の歴史や文化には興味があるから、神嘗祭のような「生ける伝統」なら見てみたいし、背景や歴史を知ってから伊勢神宮を見れば、また違った感想を持っただろうという。
となるとまずは日本人が日本の伝統を学んで、外国人に説明できるぐらいの知識を身につけることが大事か。
異なる観点から見て、伊勢神宮・桂離宮と日光・久能山東照宮を「どっちも素晴らしい!」と思うのは自然だ。

 

 

 

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。