11月13日は「漆(うるし)の日」。
平安時代に惟喬(これたか)親王がこの日に漆の製法を、菩薩から伝授されたという伝説にちなんでこの記念日がつくられた。
ウルシの木からとった樹液(漆)を塗って、古来から日本人は食器や箱などの漆器を作ってきた。
乾燥して固まった漆は熱や湿気に強くて、腐敗防止や防虫の効果もあることから、漆器の食器や家具は日本の風土によく合っている。
ということでこの技術は日本で特に発達し、江戸時代にはオランダとの貿易によって多くの日本製の漆器がヨーロッパへ伝わった。
それでヨーロッパ人の間では「漆器といえば日本」というイメージが定着し、いまでは辞書を見ると小文字の「japan」には漆や漆器という意味が載っているのだ。
ただアメリカ人やイギリス人に聞いても、「japan」にそんな意味があることは知らなかった。
漆器に魅了されたヨーロッパ人は、やがて自分たちの手でこれを作ろうとする。
でもウルシの木は欧州にはなかったから、漆の代わりにワニスやシェラックなどを使って漆器に似た作品を生み出した。
この仕上げの技法を「ジャパニング(Japanning)」という。
多くのヨーロッパ人がこれをほしがり、需要が高まったことで、アジアの漆器を模倣するイタリアの技術が広まっていく。17世紀のイギリス、フランス、イタリアなどでジャパニングが発展したという。
As the demand for all things japanned grew, the Italian technique for imitating Asian lacquerwork also spread. The art of japanning developed in seventeenth-century Britain, France, Italy, and the Low Countries.
ジャパン塗装(ジャパニング)がされた懐中時計
英語では「A japanned pocket watch」という。
乾く前に漆器の表面に金や銀などの金属粉を「蒔(ま)く」こと技法や、この技法を使って作った漆器を蒔絵(まきえ)という。
画像:Pqks758
江戸時代に尾形光琳が作った漆器(蒔絵)
画像:東京国立博物館蔵
徳川家を表す三つ葉葵紋が描かれたひょうたん型の蒔絵(酒器)
ヨーロッパに伝わった日本の漆器、特に金銀を用いた蒔絵はたちまち王侯貴族の間で大人気となる。
日本の漆器が、ヨーロッパ各地の宮殿で飾られていたなんて胸熱。
日本のアニメではヨーロッパの貴族やその館がよく出てくるけど、漆器が出てくるシーンを見たことない。
そんなヨーロッパ人のなかでも、特にジャパンを愛したのがフランス国王ルイ16世の妃で、フランス革命の際にはギロチンで処刑されたこの女性。
オーストリア王妃で母親のマリア=テレジアから、日本漆器のコレクションを譲り受けたことがきっかけで、マリー=アントワネットも漆器(蒔絵)の大ファンになって買い求めるようになる。
マリア=テレジアの物も含めて、100点ほどの漆器(japan)がヴェルサイユ宮殿の「黄金の間」に飾られていたというから、これまたムネアツで光栄な話。
18世紀末にフランス革命が起きると、マリー=アントワネットは漆器のコレクションを美術商に預けてパリからから離れた。
でもフランスを出る前に捕まって、その後の運命はさっき書いたとおり。
いまでも彼女のコレクションは残されていて、サントリー美術館で行われたこんな展示会が開かれると、日本でも見ることができる。
海外での蒔絵の人気はその後も途絶えることなく、遠く東洋からもたらされた贅沢な品として珍重され、フランス王妃マリー・アントワネットら王侯貴族は競って蒔絵を求め、宮殿を飾りました。
良かったら、こちらもどうぞ。
日本、世界にデビュー!江戸のパリ万博参加・ジャポニズムとその後 ④
> それでヨーロッパ人の間では「漆器といえば日本」というイメージが定着し、いまでは辞書を見ると小文字の「japan」には漆や漆器という意味が載っているのだ。
> ただアメリカ人やイギリス人に聞いても、「japan」にそんな意味があることは知らなかった。
漆器によほど興味があるのでもない限り、japanにそんなマニアックな意味があるなんて、知るはずがないでしょう。たとえば彼らがもしも漆器のコレクターとかであれば、当然知っていたことでしょう。
日本人だって同じです。今の若い人たちに「漆器」って何のことだか聞かれて、正しく答えられる人がどれほどいることか。また、100均で買えるプラスチック製のお椀じゃなくて、本物の「漆器」を備えている家庭がどれほどあることか。