一週間前の12月7日は「音の日」だった。
1877年のこの日、発明王のエジソンが作り出した蓄音機で音の録音&再生に成功したことを記念して、日本オーディオ協会が「音の日」を制定したとか。
オトといえば今日、ドイツ大使館がこんなツイートをしてたな。
ドイツ初の電話を使った通信は、グラハム・ベルの特許申請より15年も前のこと。
物理教師のフィリップ・ライスという青年が、教え子たちのために手作りした機械で行った通話でした。
記念すべき初めてのメッセージは「馬がキュウリのサラダを食べない」だったそうです。#電話創業の日 pic.twitter.com/Zlm01HXviq— ドイツ大使館🇩🇪 (@GermanyinJapan) December 15, 2021
知人のドイツ人が以前、日本の大学へ通っていたときに不思議な音を耳にしたと話していた。
ある朝、スマホのアラームでたたき起こされて、「もうそんな時間か~」と思ったまではいつもと同じ。
でも、変な音が聞こえてくる。
それは、いままで耳にしたことのないもので違和感しかない。
電気(照明器具)が壊れたか?と思ってチョットいじってみる。
相変わらず音は出続けていたけど、授業に遅れてしまうから、若干の不安を感じながらドアを閉めて大学へGO。
夜に寮へ戻ってドアを開けると、あの謎音は消えていたから、「あれは一体…」と引っかかるも「まあいいか」となって寝た。
(彼にとっては「馬がキュウリのサラダを食べない」以上のミステリーだったと思われ)
次の朝、目が覚めたとまたあのオトが聞こえてくる。
電気に異常があるとしか思えないが、夜帰ってくるともう音は消滅している。
音は少しずつ大きくなっていって、よく聞くと窓の外から聞こえてくるから、原因はどうやら外にあるらしい。
「部屋の中じゃなければいいや」と思いつつも、その正体は気になっていた。
そんなとき出会ったのが、日本語教師のコトバです。
大学で日本語の授業を受けていたとき、
「最近は暑くなってきて、セミが鳴くようになりましたね。これは日本の夏を象徴する昆虫で~」
という先生の話を聞いて謎が解けた。
日本列島に生まれ育ったボクとしては、「セミの声を聞いたのはあれが初めてなんだっ」とよろこぶドイツ人がなんか新鮮。
ドイツにもセミがいるかもしれないけど、そのドイツ人はいままで見たことも聞いたこともない。
そうか、生まれて初めてあの鳴き声を聞いた外国人は、電気の故障とカン違いしてしまうのか。
(個人差はあります)
日本ではセミの抜け殻を空蝉(うつせみ)と呼んで、現身(うつしみ:現世に生きている人間)と重ねることがあったし、家紋にセミを用いている人もいた。
昔からすごく身近な昆虫で日本文化にも関係がある。(セミ・人間のとの関係)
平安時代には盲目の歌人で、平家の物語を語る琵琶法師の元祖といわれる「蝉丸(せみまる)」という人もいた。いまでは彼にちなんで名神高速道には「蟬丸トンネル」がある。
ドイツには豊かな森林はあるのに、この夏の風物詩はいないのだろうか。
在日ドイツ大使館が支援するメディア「ヤングジャーマニー」で、日本の中学生から「日本に来て驚いたことはなんですか?」という質問を受けて、(たぶん大使館スタッフの)ジャメルさんは「蒸し暑さ」、ペーターさんは「セミの声」と答えた。
「ドイツにセミはいなくて」というから、やっぱりあちらにはいないらしい。
この2人のドイツ人は「蒸し暑さ」と「セミの声」という、日本の夏のツープラトン攻撃に完全にまいったらしい。
*ツープラトンは英語で「2個の小隊」の意味。
夏は暑いので窓を開ける → セミがうるさい → 窓を閉めようと思うけど暑いので開ける → セミはいつまでたっても合唱をやめない・・・
京都御所で天皇がプライベートの時間を過ごした「清涼殿」
徒然草で兼好(けんこう)法師が「家の作りようは夏をむねとすべし」と書いたように、日本家屋は伝統的に冬ではなくて、夏の暑さ対策を重視して作られている。
知人のドイツ人の場合、日中はあんまり部屋にいなかったから、セミの声は大して気にならなかった。が、夏の蒸し暑さだけはダメだった。
彼がドイツに戻ったあとスカイプで話をしていて、日本の夏の話題になると開口一番、「あれは地獄だった」と言う。
さわやかなドイツに比べると暑さよりも湿度がすごくて、「ウワサには聞いてたけど、あんなに汗が流れるとは思わなかった!」と驚いたらしい。
そんなドイツ人と8月に京都を旅行したとき、こんなサプライズがあった。
四条河原町から祇園の八坂神社までぶらぶら歩いて行って、そのあと清水寺に行こうとしたら、あまりの蒸し暑さで、彼は高台寺のあたりでギブアップして「ボクはもうダメだ。かまわず先に行ってくれ。あとでまた会おう」と言う。
それ死亡フラグじゃん。
驚くボクを尻目に、「清水寺はあとでユーチューブで見るよ」と近くの茶店に入ってしまった。
メインは清水寺だったから「コースを逆にすればよかったか…」という後悔と、「でもドイツ人って意外とヘタレだな」という思いが交差する。
このとき一緒にいた2人のリトアニア人も、「彼の気持ちはわかる。実は私たちも迷ってる」と言っていたから、ヨーロッパかアルプスから北のヨーロッパ基準だと、日本の夏はかなりの地獄らしい。
兼好法師がドイツで生まれていたら、きっと「家の作りようは冬をむねとすべし」と書いた。
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セミ(鳴き声が人間に聞こえるほど大きい種類のもの)は、アルプス以北のヨーロッパにはいません。日本へ来たばかりのフランス人やスペイン人も、夏になるとびっくりして、同じ質問を日本人へする人が多いです。