日本とタイの魔除け:盛り塩とピー(悪霊)へのお供え物

 

ヒトには見えない“魔物”や”悪鬼”やが建物の中に入ってきて、そこに住む人たちに不幸をもたらす。
そう考えて震えたむかしの日本人はそうした怪異の侵入を防ぐために、建物の入り口に「盛り塩」を置くことにした。
奈良か平安時代に始まったこの厄除けの風習はいまでも行われているから、飲食店の店先で小さな器に入った盛り塩を見たことある人も多いはず。
*盛り塩は店の商売繫盛・招客を願ってすることもある。

この塩の形は円すい形で、横から見ると三角形になっているのが一般的。
でも最近、こんな斬新なビジュアルの盛り塩が東京のコンビニで発見されて、ネット上でちょっとした話題(笑い)を誘っている。

 

 

塩でキレイな円すい形を作るのがむずかしかったのか、従業員が食べ終わったあとに閃(ひらめ)いたのかしらんけど、とにかくこれはプッチンプリンの容器に塩を詰めて作った盛り塩に違いない。
でも清めの塩は、多ければそれだけ効果的という単純なことでもない。
まえに読んだ歴史か宗教の本には、三角形のとがった先端部分から神が降りて来ると書いてあったから、もしそれが正しいとすると、こんな台形のような盛り塩に神は宿らないことになる。
飛べない豚はただの豚のように、神威のない盛り塩はただの調味料でしかない。
注目を浴びることが目的なら、これは大成功。

 

さて視線を日本のずっと南、東南アジアのタイに向けると、現地でも盛り塩のような風習があった。
タイを旅行中に首都バンコクを歩いていると、ボートの発着場でこんな食べ物と飲み物がポツンと置いてあるのを発見。

 

 

後日、タイ人の日本語ガイドに写真を見せて「これは一体ナンデスカ?」と聞くと、「ああ、それはピーへの捧げものですね」と言う。
ピーとはタイ族がもつ精霊概念のこと。
悪霊や化け物、妖怪などの超自然的存在で、なかにはヒューマンフレンドリーな良いピーもいるらしい。
そんなピーがボートがひっくり返すとかのいたずらをしないように、関係者が食べ物や飲み物を捧げものとして置いているとガイドは言う。
ただ別のタイ人はこれを見て、「お供え物にしてはちょっと大きいですね。これはここで飲み食いしたタイ人が、片づけをしないで帰ったんじゃないですか?」と推測する。
どっちが正しいのかはわからん。

タイではピーを信じる人がけっこう多くいて、食堂の前に写真のような小さな飲食物を置く人がいるし、しゃがんでお供え物に手を合わせるタイ人を見たこともある。
ガイドの話では、ピーは気まぐれでその行動は予測不可能。
ある日とつぜん不思議なチカラを使って、通行人に店が見えないようにし、客が入って来ないようにさせることがある。
ガイドの知人で飲食店を経営しているタイ人も、なぜか客足がバッタリ止まったことがあって、それをピーのしわざと考え、店先の路上に捧げものを置くようにしたという。
そんないたらずら(営業妨害)を避けるため、タイではピーに飲食物を提供している人がいる。
知人のタイ人によると、幽霊であるピーに食べ物をあげることは仏教的な善行になるから、それによって徳を積むこと(タンブン)ができるらしい。

禍を排除して、幸運を呼び込む発想は世界中にある。
日本の盛り塩もタイの「路上のお供え物」も悪鬼やピーなどの怪異の存在を前提としていて、魔除けや厄除け、商売繫盛を願うという目的も同じだ。
店先にちょっとした飲食物を置くというやり方も似ている。
ただ神道の清めの塩とは違って、タイではその食べ物自体に魔を退ける霊力があるという発想はない。
食べ終わったプッチンプリンの容器で、盛り塩を作るというのはタイ人的な発想だと思う。

 

新年早々、こんな迷惑でちょっと変な出来事があった。

テレ朝news(2022/01/10)

困惑…勝手に“休業”貼り紙 ゲームセンター客激減

営業中のゲームセンターの入り口に「休業中」という紙を勝手に貼った人がいて、それに気づかなかった店員は「客が少ないなあ」と感じていたという。
タイならピーのしわざかも。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。